第32話
深夜2時くらいだろうか。
いったん不思議部屋の中で仮眠を取った俺とマリアは、扉の内側から外の様子を窺っていた。
焚き火の明かりが、ゆらゆらと揺れている。
大半の者は寝ているようだが、眠そうにしながらも見張りが2人ほどいるようだった。
どちらもよく知っている男で、名前は正彦と和義だった。
年齢は20代後半で、メイン職業はどちらも戦士だったはずだ。
それから1時間もしないうちに、正彦の方がトイレに行くと言って見張りから離れていった。
すかさず、俺はなるべく暗闇に紛れるルートを選んで正彦の後を追う。
マリアには、一旦扉を閉めて不思議部屋の中で待機するように言った。
300mくらい離れただろうか、というかトイレにしてはずいぶん離れるなと思っていると。
「藤次、いるか?」
正彦は足を止め、声をひそめてそんなことを言い出した。
「・・・ああ、ここにいる」
そう返事をして正彦から見える位置に出ていこうと歩き出した直後、そのあとに続いた正彦の言葉で
足を止めた。
「出てくるな。俺は見張られている可能性がある。
お前のスキルの中に入って聞いてくれ。返事はいらない」
「!?・・・・・・出入口作成」
言われた通り、スキルの中に入って扉を開けたまま次の言葉を待つ。
「藤次、俺はお前が、家族が生きていてくれて嬉しい。
あのあと一向に帰ってこないお前たちに何かあったんじゃないかと、探しに行くという計画も
あったんだが、悪いがそれどころじゃなくなった。
スーパーに居ついた透明なモンスターを倒しちまう奴らが現れて、そいつらが椎名と長老を
人質に取ったんだ」
「・・・!?」
「・・・じょろろろろろ~。しないで帰ると怪しまれるからな」
「・・・・・・」
「俺たちがお前たちを見つけたのは偶然だ。
ここに物資調達に来たとき、ちょうど進路上の偵察に出ていた鈴木のやつがお前たちを見つけた。
1人は藤次だったと言ったときのあの嬉しそうな顔、見せてやりたかったぜ。
俺たちは、明日の昼頃にはここを出発してスーパーへと戻る予定だ。
おっと、そろそろ戻らないと怪しまれるな、っとと。
お前の側に女性が一緒にいたって聞いたぞ?
あー、もし聞いてたら、どうか俺らの弟をよろしくお願いします。
最後に、スーパーには戻るな、俺たちがなんとかする。そのまま幸せになれ。じゃあな!」
独り言を、最後の方は早口で言い終えた正彦は、暗闇の中、見張りへと戻っていった。
「・・・・・・」
藤次は、上を向いたまましばらくその場で立ち尽くす。
「・・・良い人だったね、えーと、お兄さん?」
「・・・初めて聞いたよ、そうかあいつらから弟だって思われてたのか・・・」
上を向いて溢れないようにしていたものが、その言葉で決壊した。
耳元を静かに熱いものが流れていく。
「なぁなぁ、どうしよう藤次・・・・・・よろしくお願いされてしまったぞ?」
ぼやけた視界で見えなくても分かる。
きっと今マリアは、からかい口調で、いやらしい笑みを口元に浮かべているに違いない。
「・・・・・・だから、いまだけはこうしてあげるね」
だが次のマリアの言葉は、藤次の予想を裏切る優しい口調で、後ろから優しく抱きしめられた。
「ぐす・・・・・うぐうぅぅぅ・・・・・・むぐぐぅぅぅ・・・・・」
藤次は左の腕を口に咥えるように押し付け、けっして情けない泣き声を漏らすまいとする。
右手があれば、目から溢れる涙も塞げたのだろうが、仕方ないのでそのまま流し続ける。
それからおよそ涙が出なくなるまで5分から10分くらいの間、泣いた。
そんな時間も長くは続かず、二人そろって盛大にお腹が鳴き声をあげたところで、
空気は笑いに変わった。
「ぷふふっ、そういえば、私たちお腹空いてたもんねぇ?」
「だなぁ。あいつらが出発したら予定通り布団や服や食料を調達して、何はともあれ、
まずは腹ごしらえをして、大事な話はそれからだ!」
あれからずっと、ぐぅぐぅと鳴りやまないお腹に、二人は顔を見合わせて笑い合うのであった。
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