第30話
空腹度というパラメータのあるゲームがあった。
お腹が空くことで、最終的に死に至る可能性のあるゲームだ。
飢えて死ぬ。
食に溢れた平和な時代の日本であれば、この言葉は本当にゲームの中だけの言葉であった。
世界に目を向ければ、それが現実に起こっている事であることは明白であったが、実際にそれを
体感したことのある人など、戦後の食糧難を経験した人か、はたまた何かしらの事情で食事を
取れない事件や事故という経験をした本当に一握りの人たちだけであったことだろう。
そして現在、食料の生産は無くなり、流通も止まり、モンスターに対抗する手段を持たない人類の
大半の死因は、たぶんこれだろうと思われる。
モンスターに抗う術を持つ数少ない人々も、今やその日の水や食料を確保するだけでも
苦労しているのが現状である。
平和な飽食の時代を謳歌した結果が、最終的にいま現在の飢え死になのだとしたら、ずいぶんと
皮肉が効いた話である。
だが、こういう状況に至ってしまえば、不便であっても自給自足をしていた地域の方が、それが
日常茶飯事であった分だけ、生き残る可能性は高いのだろう。
自給自足に関しては今後を生き抜く上での大きな課題だが、いまは飽食の時代が残してくれた
食料を他者と分け合うか、奪い合うことで生き永らえるしかないわけだ。
路上に無造作に乗り捨てられた車を避けて、藤次とマリアは進む。
モンスターに出会った場合どうするのかは、出発前にいくつか取り決めをしてきた。
たまに出会うモンスターはこの地域の安全確保のためにも始末していく。
まぁモンスターがどうやって増えるのか分からないので、この行為が意味のない可能性もある。
見るからに危険だと分かるモンスターの場合は、即隠れるか逃げる、判断はその場によりけり。
助けを求めている人がいた場合は、いったん様子を見て相談し、なるべく助ける等々である。
そしてしばらく歩くと、大型のショッピングモールに辿り着いた。
ドラマや映画などでは、こういう場所は生き残った人間の拠点に使われたりしていることが多いが、
パッと見ただけでは人やモンスターがいるような気配は無かった。
俺ですら考えたことだからこそ、同じことを考える人は当然いるわけで、そういう場合の常として、
こういう状況でこういう場所に集まった人間には、それぞれに何かしらの目的や狙いがある。
そしてこんな法も秩序も無い世界になったいま、脅威はモンスターだけではない。
どんな状況でも人間が一番怖いという人たちは一定数いる。
いまだ運良くそういう人間に出会ってはいないものの、そういう人間に遭遇しないためにも、
こういった襲撃されそうな場所を拠点にするのは、あまり利口だとは言えない可能性もある。
そういえば、スーパーを拠点にしていた彼らは元気にやっているだろうか・・・。
「そこにいる奴らぁ、そこで止まれぇ!!!」
急にそんな制止の声を聞くが早いか、身構えるより先に。
「出入口作成・・・」
大型ショッピングモールの壁に、不思議部屋への出入口を作成する。
それをマリアと2人で確認してから、ゆっくりと両手を上げて振り返り、声の主と対峙する。
100mは離れているだろうか。
はたしてそこに居たのは、武装をしているが見慣れたスーパーの男たちと、それを率いる
リーダーらしき見慣れぬ若い男だった。
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