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不機嫌

 僕の願いも虚しく、席についても二人は無言のままであった。


僕が手前の奥側に座り、目の前にはことにゃんがいて、左側に玲香様が座っている。


ことにゃんが正面にいるという奇跡には大感謝だが、


気まずそうにテーブルを見つめる姿をまざまざと見せつけられるのは、新手の嫌がらせのように思えてくる。


玲香様はアヒルの様に口をとんがらせて食券モニターを凝視してるし、周りは僕らなんか見えてないように楽しくランチしてるし、


とにかく一秒でも早く料理が出来上がってもらわないと、僕の精神が崩壊してしまう。


「あの食券モニターですが」


 突如、玲香様が口を開く。


「番号をチカチカ表示させられても見にくいだけですわ。


狩場さん、鬱陶しいからお席を替わって頂けないかしら?」


「別にいいけど……」


 それで機嫌が良くなるならいくらでも席替えします。


 すぐに玲香様と席を交換し、あろう事かことにゃんの隣に座ることが出来た。


しかし流石に緊張するので、間隔は身体半分くらい空けている。


「今日は人が少ないから良いですが、満席になるような事があれば画面がいちいち切り替わって見にくいと思いませんこと?


モニターが沢山あるのは助かりますが、これじゃあ中庭をゆったり眺めるという景観が台無しですわ。


周りのお喋りの声もさることながらピンポンの音もいちいちウルサイですし、もう少し優雅な環境になりませんかしら」


 玲香様の愚痴が止まらない。これは相当機嫌が悪い時の玲香様だ。たすけて。


「せめてブルブルと震える機械を導入すれば良いと思いますの。


天音さん、どう思われまして?」


「へぇっ!?わ、私は、えーっと……!」


 お気の毒に。でもかわいい。ナイス玲香様。


「そ、それはそれで、ビックリしちゃうかなぁ、って……」


「それもそうですわね。あーあ、くだらない」


 これ、ちゃんと仲直りできるのか……?


 とてつもない不安が襲いかかる中、ようやく僕達の番号が表示された。


バラバラと席を立って料理を持ってくる。僕と玲香様はハンバーグ定食で、ことにゃんはグラタン&サラダだ。


 それぞれが手を合わせ、料理を口へと運ぶ。


僕が食べているハンバーグ定食は本格的で美味しいのだが、この状況だと味覚が狂って何を食べているのか分からなくなりそうだ。


「さて、狩場さん?」


「は、はい!」


 みんなが一通り料理を味わった辺りで、玲香様が口を開いた。


「仲直りする、とは?」


「へ?」


「仲直りって、何をすればよろしくて?」


「あー……っと、楽しく喋れば、いいんじゃない?」


「では何か面白い話をして下さいませ」


 話題の振り方が雑すぎる。何にもないよ……。


「えっと……うんと……」


「早く」


「ちょっと待って何かあるはずだから!えっと……」


 あー、ヤバい。焦る。どうしよう。


「……あ!」


「なんです?」


「玲香様が使ってる等身大クマちゃん抱き枕の話!」


「れ、玲香様!?なんですの、いきなり!気持ち悪い!」


「あぁっ!ご、ごめんなさい!」


 あと気持ち悪いっていうのシンプルに傷付くんでやめて下さい。


「ほ、ほら、買った経緯とかそういうやつ……」


「それよりも。なぜ私が持っていると知っておられるので?」


「だからそれは、僕の世界でゲームになってて……」


「そんな話、信じられません。空想にも程というものがございますわ。


まずは、正直にお答えになって?」


「そんなぁ……」


 これ以上、何を正直に話せっていうんだ。


「霧島さん?まずは、狩場さんのお話を聞いてみませんか……?」


 ことにゃんが助け舟を出してくれる。素直に嬉しい。


「くだらない妄想に付き合えと?」


「私は、妄想でもいいので色々とお話を聞いてみたいです。なんだか楽しそうじゃないですか?」


 言いながら、ニッコリと微笑む。


 まるで子供がお菓子を貰った時のような、満面の笑顔。


「天音さんが聞きたいなら構いませんことよ。興味ありませんが、暇つぶしくらいにはなるかもしれませんわね。


狩場さん。貴方の妄想を存分にお聞かせ下さいまし」


 明らかに嫌味しかない。でも僕にとっては、またと無いチャンスだ。


「ありがとう、霧島さん。まずは、この世界の元になってるゲームの話なんだけど……」


 ここから、僕はゲーム知識をいかんなく発揮していった。


 話の進め方は至ってシンプル。ゲームとこの世界をリンクさせながら話せば良い。


それこそ好きな食べ物の話もしたし、みんなの趣味にまつわる話や何気ない日常会話など、


ありとあらゆるミラプリの知識を解放して話をした。


あまりに熱が入り過ぎて若干早口になった感じはあるが、それでも伝わったと信じたい。


 

 一通り話し終えたあと、先に口を開いたのはことにゃんだった。


 そして次の言葉を聞いた瞬間、僕の背筋が凍った。



「狩場さん、ちょっと、怖いです……」



 あ、ヤバ。調子に乗って話すぎたかも。


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