厄介
「こ、怖いって、なにが……?」
今までにない悪寒を感じつつ、分かっていながら疑問を呈する。
「だって、私しか知らないこととか、隠しておきたいこととか、狩場さんはぜーんぶ知ってるんですよね?
そんなの、怖いじゃないですか……」
ことにゃんの引きっぷりが凄まじい。怯えた目をして壁際へ身体を寄せている。
「で、でも、あくまでゲームの話だから……」
「だけど、私の趣味や好きな食べ物は全部当たってます。
怖いことする人じゃないって分かってますけど、なんか、部屋とか覗かれたらどうしよう、って……」
なんだ、この反応は。
これ、予想以上にヤバいんじゃないか……?
「あわわ、ご、ごめんなさい言いすぎました!本当にごめん!」
とにかく必死に弁解するも、ことにゃんの怯え顔は崩れない。
追い打ちをかけるように、玲香様も割って入ってくる。
「狩場さん。知識をひけらかすのは大いに結構ですが、言葉を選んだ方がよろしくてよ?」
「うぅっ……」
「貴方が嘘をついていないことは、とりあえず信じましょう。
ですが、貴方が信頼できるお方かどうかは、甚だ疑問でございますわ」
まさか、自慢話のテンションだったのだろうか。
僕は単純に、嘘をついてない事を伝えたかっただけなのだ。
これじゃ、かがみんに嫌われた時と一緒じゃないか。
「天音さんには悪いですが、とても仲直りできるような雰囲気ではなさそうですわね。
私、お先に教室へ戻らせていただきます。ごきげんよう」
まだ食べ終えていないハンバーグ定食を持ち、玲香様はそのまま立ち上がって食器返却口の方へ向かっていった。
「……僕のせいだ。僕が、自分勝手にグイグイ話を進めたから……」
ちょっと言い過ぎたかな、くらいにしか感じてなかったのに。結果的にここまで事態が悪化するとは思ってもみなかった。
「狩場さん、元気出して下さい」
僕の様子を見たことにゃんが声を掛ける。だけど表情はまだ怯えている。
「霧島さんに声を掛けたのは私です。
狩場さんは嘘つきじゃないって信じてほしかったんですけど、ここまで色々と知ってるなんてしらなかったので……」
フォローのようでフォローじゃない。ことにゃんはさらに話を進める。
「以前、狩場さんのお友達の皆さんが私の元へ謝りにきた時、色々とお話して下さいました。
その時から、私の事を一途に思って心配して下さっているのかな、と思っていたのです。
ですが、過剰……と言ったら失礼でしょうか。
私のことを知りすぎている事がわかってしまうと、前と同じような接し方ができるのか、ちょっと不安です……」
申し訳なさそうでいて、僕を怖がっているような表情。
嫌われた。
確実に、嫌われた。
元々、ことにゃんは男性恐怖症の傾向がある。だから、ゲーム内では主人公以外の男性と接する事が無いに等しい。
それでも僕と仲良くなろうとしてくれたのは、自分でいうのもなんだが、温厚な性格だから話しやすかったのかもしれない。
「狩場さん……?」
ふいに、ハッとしたような表情をする。
そして、終始無言の僕に対し、ことにゃんが身を震わせながら言い放った。
「私のせいで……傷付いたりしてない……ですよね……?」
僕を心配しての発言なのか。
報復を恐れての発言なのか。
壁際で涙を浮かべながら怯える姿を見れば、答えを聞くまでもない。
「……僕、もう行くよ。怖い思いをさせてごめんなさい」
食器に手をかけて立ち上がろうとした時、思いもよらない人が僕を見ている事に気付いた。
「めっちゃ修羅場じゃん。えー、ヤバっ」
いつからいたんだ、五十嵐美波。
「な、なんでいるの!?」
「ご飯食べてただけだけど。悪い?」
確かに食べ終わった食器を手に持っている。昼休憩だし、ここに居てもおかしくはない。
「別に悪くは……いや、今は悪い!」
それにしたって、厄介な人に見られてしまった。こういう人から変な噂が徐々に広まっていくのだ。
「か、狩場さんの、お友達、ですか……?」
ことにゃんが怯えた子犬のように、僕と五十嵐さんを交互に見る。
「違う違う!ぜんっぜん友達じゃない!」
「こんな怖そうな人と知り合いだなんて、狩場さんってやっぱり……」
その言葉を聞いた瞬間。
五十嵐さんはムッとした表情を浮かべ、ことにゃんの方へと向いた。
「それ、あたしに言ってんの?」
「ヒッ……!」
「別にいいけどさ。口に出さなくてよくない?」
半笑いで言っているが、明らかに挑発的な目を向けている。
「ご……ごめ……ごめんな……」
「えー、ヤッバ。男の前で泣きながら『自分可哀想でしょ?』みたいなやつじゃん」
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。
「まった!まった!一回向こう行こう!ほら早く!」
食器を手に取るのも忘れ、僕は立ち上がって五十嵐さんの後ろから背中を押した。
「何すんの触んないで!」
「ことにゃん、本当にごめん!謝るから、また後で!」
わめく声は無視して、僕はそのまま五十嵐さんを押して食器返却口へと向かった。
なんなんだ、この女は。
僕だけならまだしも、他の子にまで絡まないでくれ……。




