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愚痴

「ほんっとありえない。最悪……」


 僕が背中を押した事が相当イヤだったらしい。


食器を戻しに行く時も、返却し終えてからも、僕はずっと愚痴を言われ続けている。


五十嵐さんは腕を組んで返却口の側から動こうとしない。


そのせいで食器を戻しにくる生徒達が全員、僕達を変な目でジロジロと見ていくのだ。恥ずかしいったらありゃしない。


一刻も早く教室に帰りたくて、僕は五十嵐さんの怒りをなんとか沈められないかと悪戦苦闘していた。


「だから謝ってるじゃん!大体、ことにゃんに突っ掛かっていったのは五十嵐さんでしょ!?」


「それと身体触るのと関係なくない?」


「大有りだって!あのまま放っておいたら、ことにゃん大泣きする所だったんだよ!?」


「知らねーし。てか、あたしが悪口言われたんですけど?」


「言われるに決まってるじゃん!怖いもん!」


「はぁ?あたしほど優しい子いないから!どこが怖いの?」


「見た目もオーラも全部!普通は関わりたくない!」


「アンタらの普通、押し付けないでくれない?てか、早く謝って」


「だーかーらー!」


 ずっとこんな調子である。めんどくさいの極み。大っ嫌い、この人。


「あのさ、分かってないと思うけど、普通にセクハラだよ?」


「それはごめんてぇ!ああするしかなかったの!」


「いやいや、『どっか行ってー』でよかったじゃん」


「それで素直にどっか行ってくれた!?」


「行かない」


「ほらぁー!」


 いい加減にしてほしい。めんどくさいからこのまま僕が立ち去ればいいか。


「もういいでしょ!?行くよ!?」


「さっさと行けし。うるさいなぁ」


「え、いいの!?」


 謝ったから?そんな急に?


「アンタと話すのめんどくさい。全然反省してくれないし。あー、ダルっ」


 そう言い残し、五十嵐さん自ら不機嫌そうにスタスタと立ち去っていった。



 ……なんだったの、この時間。



 僕は興奮が収まらず、食堂を出てからも独り言を小さく呟き続けていた。



「だから謝ってるじゃん……ほらぁ……だから謝ってるじゃん…….ほらぁ……。


関わりたくない、普通は……うん、関わりたくない……どっか行ってくれた……謝ってるじゃん……ほらぁ……」



 もはや危ない人である。


先程のやり取りが僕の口を通じて吐き出される。


頭の中で何度も再生されて、永遠とも思えるループが続いている。心が全く落ち着かない。


 早く誰かに会いたい。誰かに会ってストレスを全て吐き出したい。


 そう思うと、不思議と足は教室ではなく、保健室へと向かっていた。


恐らくまどかは親衛隊のみんなに連れられて教室へ戻っている。


まだ少しだけ時間はあるし、光盛先生に愚痴を聞いてもらってから教室に戻る、くらいの事はしても良いだろう。


「失礼しまー……」


 保健室の扉の開けると、光盛先生が座っていた。



 そして目の前に、五十嵐美波がいる。



「なっななななななな!?!?!?!?」


「あら、狩場くん。美波もいま来た所だよ?」


 光盛先生は相変わらずニヤニヤしている。楽しそうなのは何故だ。


「うわ、この人ホントにヤバい人なんだ……。みもるんせんせー、助けて」


「やっぱ美波のこと好きなんじゃない?」


「むーりー!ねぇどっか行って!?」


 五十嵐さんが僕を思いっきり睨む。


睨み返してやろうか、と思ったけどそんな勇気はない。光盛先生も僕が五十嵐さんを好きだと勝手に決め付けないでほしい。


っていうか、このヤンキー『みもるん先生』って呼んでるんだ。レアだな……じゃなくて!


「なんで、なんでいるの!?なんで!?」


「うるっさいなぁ。早く消えてよ」


「美波ー?そういう事は言わないって約束したでしょー?」


「だってさー、このタイミングで保健室来るとかあり得なくない?」


「体調が悪いかもしれないじゃない。狩場くん、具合でも悪いの?」


「いや、そうじゃないんですけど……。とりあえず、大丈夫です」


「あ、もしかして宇月さん?」


「いや、まどかはみんなと帰ってると思うので……」


「うん。男の子が3人くらい来て、連れて帰っていったよ。で、狩場くんは何をしにきたの?」


「五十嵐さんいるんで帰ります……」


 僕は逃げ出すように、保健室の扉をガラガラと閉めた。まどかが無事に帰ったことがわかっただけでも良しとしよう。


 それにしても、こんな気分で教室に帰ることになるとは。色々ありすぎて整理できない。


とりあえず、まどかと親衛隊のみんなに相談かな……。



 ──。



「やっぱストーカーだよ、あの人」


「狩場くん、良い子だよー?顔も普通だし、付き合っちゃえば?」


「ねぇほんとやめて。ああいうの生理的に無理だから」


「そう言ってる割に嫌そうな顔してなかったでしょ?」


「慣れてるだけだよ。そういえば、さっきの宇月さんて誰?」


「ああ、狩場くんのことが好きな子」


「えー、あんな奴のこと好きなの!?ヤバっ!!」


「付き合いたいけど付き合えない、みたいなね。最近ここに来るようになったから、会ったら話だけでも聞いてあげてくれない?」


「うん、超気になる!何が良いんだろうねー。その子かわいいの?」


「男受け良さそうだなー、って感じのタイプかな」


「えー、楽しみ。今度ここ来たらすぐメッセ送って!」


「本当は学校に携帯持ってきちゃダメなんだからね?本人の体調もあるし、なるべく元気な時に教えてあげる。特別だよ?」


「みもるんせんせー好きー!ありがとっ!」


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