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不本意

「えっと……」


 どちらにも良い顔をしたくて、最善策を考えてしまう。僕の悪い癖の一つだ。


二兎を追う者は一兎をも得ず。頭では分かっているけれど、きっぱり選べればどれだけ楽だろうか。


 混乱しながら、まどかとことにゃんを天秤にかけていると、僕のところへ歩み寄ってくる見慣れた姿を捉えた。



 ……って、え?


 ちょっと待って、なんで?



「いつまで待たせるおつもりでして?」


「あ、霧島さん……」



 ことにゃんが申し訳なさそうに声を上げる。



「別のクラスは落ち着きませんわ。早く食堂に向かいませんこと?」


「狩場さんはご予定があるみたいで、時間がかかりそうなのです……」


「ね、ねぇ、ことにゃん。


もしかして、霧島さんと、先に約束しちゃってた……?」


 もしかしなくても確実な気はするが、念の為ことにゃんに確認を取る。


「さっきの休み時間に、なんとなくですが、お話しました。お時間が合えばと思って……」


「別の機会でもよろしくてよ?最初から仲直りするつもりなどありませんもの」


 そう言うと、玲香様はプイッとそっぽを向き、そのまま教室の外へ歩き始めようとした。



 刹那、悪寒が走る。


 ことにゃんの悲しむ姿が、はっきりと頭の中に映像として映し出された。


 仲直りが出来ないと知り、シクシクと涙を流す、ことにゃんの姿。


 あやふやな態度を取ったせいで、推しの女の子を傷付ける、僕の姿。



「ちょ、ちょっと待った!!」



 ……あ。


 マズい、妄想してたら勢いで呼び止めてしまった。



「えーっと……」


 

 いやほんと、なぜ止めたし。


 こんな決断の仕方ありかよ……。



「ぼ、僕もこのままだと気まずいし、一緒にお昼食べませんか……?」



 あーあ、言っちゃった……。



「ご予定があるなら、そちらを優先なされば?」


 汚い物を見る時と同じ表情で、僕に向き直る。不快な表情のお手本。悲しい。


「そ、そっちは、友達に頼むから、大丈夫。


加藤氏、お願いしてもいい?」


 それを聞いた加藤氏は、文字通り胸を張って答えた。


「もちろんだ!西園寺が近づかないよう、我々が宇月氏をしっかりとお守りしよう。


本日に限って、我々は『まどか護衛隊』としての任務を遂行する!」


「……この方は、何を言ってらっしゃるの?」


 玲香様、加藤氏に同じ目は向けるのはお止め下さい。


「あー、き、気にしないで!こっちの話だから!


加藤氏、本当にありがとう。まどかをよろしくね?」


「うむ!狩場氏は安心して仲直りの会へご参加下され!」


 言うが早いか、加藤氏は田中氏と渡辺氏がいる教室の隅へ走って行き、二人の腕を引っ張って教室へ飛び出していった。強引オブ強引。


「……ほんとうに、大丈夫でしたか?」


 ことにゃんは目をウルウルさせながら、僕へ問い掛けた。あびゃあ。


「うん、心配しないで。信頼できる友達だから大丈夫。


それに、霧島さんとケンカしたまま学校生活を送るのが嫌なのは本当だからね。


声を掛けてくれて、ありがとう」


 改めてお礼を言う。ことにゃんが動かなければ、玲香様と一生仲直りする機会が無かったかもしれないのだ。


「それじゃ、早速行きましょ。お腹ペコペコですわ」


 一足早く、玲香様は教室の外へ出て行った。その姿を見て、ことにゃんが慌てて後を追っていく。


「霧島さん、みんなで一緒に行かないとダメなのです〜!」


「待って、僕も行くから!置いてかないで!」


 

 結局、僕は玲香様とことにゃんの後ろに付いていく様にして食堂へ向かった。


その間、ことにゃんは僕と仲良くするよう玲香様をしきりに説得していた。みじめと言うかなんと言うか、切ない気分である。



 食堂を利用するのは、この世界に来てから初めてだ。


ゲーム内では個々のキャラクターに好きなメニューが設定されており、


自分が何を食べるかによって、どのキャラクターと食事が出来るのかを決定するのだ。


つまり、こんな風に誰かに誘われない限りは『確定』として一緒に食事をする事が出来ない。


ある一定の確率で、主人公が食事をしている最中にキャラクターが割り込んでくる、といった感覚である。


 さて、食堂の場所はしゅり先輩の教室の隣の通路の先にある。


食堂へと続く広い通路が隣接していて、そこを奥へと進んでいくのだ。


 中へ入ると、優に200席を超えるスペースが現れる。


ガラス張りになっていて、中庭を見ながら食事を楽しめるのも特徴の一つだ。


今日は生憎の雨だが、食堂内は常に美しいオレンジの電球色に包まれているので、リラックスした気分で食事を楽しむ事ができる。


 まずは、入り口の前にある食券機でメニューを選ぶ。


様々なメニューがあるが、ゲームの選択肢となっているメニューは、


日替わり定食、ハンバーグ定食、カレー、ラーメン、グラタン&サラダ、たぬきうどんの6種類。


ちなみに、日替わり定食だけは、ポイントがランダムで上がったり下がったりする、ギャンブル的メニューだ。


上手くいけば3ポイント上がるが、逆に3ポイント下がる事もある。だからあまりオススメは出来ない。


しかし、これを利用して食堂だけで友好度を上げるプレイヤーも数多く存在するので、お遊び要素としては満点だ。


値段は一律300円。現在の所持金は1200円なので余裕である。


 では、玲香様と仲直りする為に何を選ぶのか。


 ここは迷わず、ハンバーグ定食。瞬殺ですよ、こんなもん。


「貴方もハンバーグ定食ですの?」


「そういう気分だったんだけど……ダメ?」


「何を食べるかなんて自由ですわ。私は、自分が食べたいから、ハンバーグ定食を頼みます」


 そんな強調して言わなくても。まぁ、今は仕方ないか。


 食券を食堂のおばちゃんへ渡して番号札をもらう。席には余裕があり、僕らはソファーのある4人掛けのテーブル席へ着いた。



 いい加減、神様に祈るのも飽きてくる。


 どうか、このランチが楽しいものとなりますように……。


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