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邪魔者

「なぁにラブラブしちゃってんの?」


 回転式のイスに座った楓先生が身体をこちらに向け、ニヤニヤしながら僕らに声を掛けた。


「良かったねぇ、宇月さん!憧れの狩場くんに介護してもらって♪」


「ちょっ!?せ、先生!」


 布団から顔だけを出したまどかが、光盛先生へ抗議の声を上げる。


「あのねぇ、宇月さんねぇ……」


「先生、それ以上はダ……!イタタタ……」


 起き上がろうとして胸を抑え、そのままベッドへ倒れ込んでしまった。辛そう。


「いいじゃない、普段から仲良いんでしょ?」


 強引に話すつもりか。なんというドS。


「ちょうど先週、宇月さんここで休んでたじゃない?」


「え?あぁ、そうでしたね」


 そして急に僕に話を振る。こんな自由な先生だったっけ。


「その時にね、狩場くんの事ずーっと話してたんだよ?」


「そうなんですか?」


 ベッドで眠り続けてたと思ってた。違うんだ。


「最初の授業が終わってすぐに教室出て行ったんだってね。怒ってたよー、宇月さん」


「ほ、ほんとに!?」


 パッと見ると、まどかは完全にベッドの中へ潜り込んでいた。


「お礼すら言わないなんて可哀想じゃない。その場でパッと言ってあげなきゃ。


でもね、それでも宇月さんの狩場くんへの愛は大きかったなぁ。


あたしになんて言ってたっけ?」


「もうやめて下さいっ!」


 ベッドの中から、まどかの籠もった声が聞こえる。


「アッハハハ……!恥ずかしがらなくていいのにー!」


「からかわないで下さいっ!」


「じゃあ、この続きは狩場くんがいなくなってから、って事で!」


「いなくなっても話しませんっ!」


 なんか、まどか元気そう。この短時間で回復するとは。意外と体力あるなぁ。


「あら、もう授業始まってるじゃん!また明智先生に怒られちゃうなぁー」


 楓先生が苦い顔をする。どんな関係なんだろう。


「光盛に捕まったって言えば、たぶん許してくれるから。ほら、急いで教室戻って!」


「え、あぁ、はい!まどか、また後でね!」


 まどかを見ると、やはりベッドへ潜り込んで姿を見せていなかった。


顔を見れないのは寂しいなぁと思いつつ、僕は慌ただしく保健室を抜け出した。バタバタするのヤダ。


 楓先生の言う通り、保健室で捕まったと言ったら明智先生は頭を抱えて、ため息をついた。


もしかするとプライベートで仲が良いのかもしれない。ゲームでは二人の絡みが一切無いので、こういう情報はファンにとってはたまらない。


 いつも通りスムーズに授業が進み、あっという間に昼休憩になった。


すぐにまどかを迎えに行こうと、席を立とうとする。


しかし、ある声によって、その気持ちは完全にストップした。


「あの、狩場さん……?」


「こ、ことにゃん!?」


 珍しいなんてもんじゃない。ビックリしすぎて思わず身体が跳ね上がる。


「はわわ、ごめんなさい!驚かそうとしたつもりじゃなかったのです……」


「いや、ぜんっぜん大丈夫!どしたの?」


 いつ見てもキラキラしている。オーラが違うのかな。触れたら指が爆発しそう。


「ちょっと、ご相談がありまして……」


「僕に?輝樹じゃなくて?」


 なんだろう。宿題忘れたのかな。


「狩場さん、まだ霧島さんと仲直りしてないですよね……?」


「霧島さん、と……。あぁ、確かに」


 そういえば罵倒されて以来、顔すら見ていない。


「もしもお時間がありましたら、霧島さんと仲直りして頂けませんか……?」


 なるほど、そういう事か。


 ことにゃんは実に平和主義だ。一度ケンカを起こしたら、何があっても仲直りさせないと気が済まないのである。


それはベストエンディングでも証明されていて、ことにゃんと大喧嘩をするイベントを行った後、クリスマスにサッと仲直りをしてハッピーエンドを迎えるのだ。


「でも、まどかが保健室で休んでるから迎えに行かないと……」


「狩場さんって、やっぱり優しいお方なのですね」


 相変わらず笑顔が神々しい。全知全能って感じ。


「宇月さんを迎えに行ったら、霧島さんと仲直りのお食事会をしてくれますか?」


 

 これは、また選択肢パターンか。



 僕の中で何も予定が入らなければ、まどかと保健室で過ごそうと思っていた。


もし元気そうであれば、お弁当を持ってきていないので一緒に食堂へ行こうとも思っていた。


 玲香様との仲直りは大事だし、ことにゃんを悲しませたくない気持ちもある。


だけど、まどかを放っておくのは流石に……。


「狩場氏、我々が宇月氏を迎えに行こうか?」


 後ろから、会話を聞いていた加藤氏が割り込んでくる。


「余計なお世話であれば無視してもらって構わない。狩場氏の最善策をお聞かせ願う!」


 

 ここへ来てふと、僕の中の『覚悟』とは何なのか、という疑問が浮かんでしまった。



 ことにゃんを守る覚悟。これは良い。


 まどかを捨てる覚悟。絶対に違う。


 まどかと仲良くなって、ことにゃんを守る覚悟。


 ……どこまで?どこまで仲良くなればいい?


 まどかと付き合うまで?友好度200ポイントを超えるまで?ベストエンディングに辿り着くまで?



 優先すべきは、まどか?



 僕の気持ちが、大きく揺れ動く。


 今や僕にとってのことにゃんは、単なる一人のキャラクターでしかないというのか。


 現実世界で、あれだけ魂を注いだことにゃん。


 他のキャラクターに推し変するなんて頭おかしい、と言っていた僕は何だったのか。


 変なプライドが邪魔をするし、跳ね除けたいくらい邪魔だ。


 

 現実世界で推し続けたことにゃん。


 この世界で魅力に気付いたまどか。



 この瞬間、僕はどちらを取るべきなのだろうか。



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