恥じらい
「複雑……ですか?」
占いばあさんが無言でうなずく。言うまでもなく、まどかに対しての占い結果だろう。
ちなみにゲームでは様々な占い結果があるが、このようなセリフは出てこない。
まさに、この世界で生きる占いばあさん自らのセリフである。
良いと捉えるか、悪いと捉えるか。
全く、見当がつかない。
「……すみません、このまま占い結果も教えてもらっていいですか?」
「かまわんよ。ちょっと待っておれ」
占いばあさんが改めて水晶に手をかざす。結果は同時に出ないらしい。ゲームだと一緒に教えてくれるのにな。
とにかく、この結果で何となく方向性がわかるはずだ。
ドキドキしながら待つこと数秒。
占いばあさんが、申し訳なさそうな顔をする。
「今日の運勢は……大凶だ」
「そうですか……」
なるほど、悪い方か。
しかし不思議と、いつものような大きいショックは無い。
なにせ、前回の大凶がヤンキーと会っただけである。怯えるだけ無駄というものだ。
「それじゃあ、もうそろそろ行きます。
おばあさん。いつも本当にありがとうございます」
自分でも随分あっさりしていると思う。だけどまだ、朝から行かなければいけない場所があるのだ。
「幸太郎、あんまり落ち込まんくなったな」
「あくまでも占いですから。これからは参考程度にしようと思います」
「アタシが言うのもなんだが、その方がいい。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。
今日も、気ぃ付けてな」
占いばあさんの温かい笑顔に見送られ、部屋の隅にある傘を手に取って、雨降り止まぬ外へと出て行った。
僕はこれから、まどかの家へ向かう。
嫌でも胸の鼓動が高鳴る。
気にしないとは言ったものの、やはり大凶。
追い返される可能性だってあるのだ。
だけど無意識の僕のお陰で、常に200ポイント以上の行動を取り続けるぐらい、まどかと仲良くなったのだ。
自分で自分を褒めるのは変な感じがするけれど、あっちの僕には本当に感謝しかない。
今なら雨の音を心地良く感じる感性が、なんとなく分かるような気がした。
歩道橋を渡って学校を通り過ぎる。この道はスクールゾーンなので、この時間は車の往来がなく、サクサクと歩いていけるのだ。
そして、思ったより早目にまどかの住むアパートへ到着。傘を畳んで階段を3階まで登り、302号室のインターホンを押した。
一回じゃ出てこないかな、と思ったが意外にもドアはすんなり開いた。
まどかが、ドアの隙間から覗くように顔を出す。
「……おはよう。こ、ここ、こ……」
バタンッ!!
あれ、閉まった……。
「ま、まどかー……?」
ドアの向こうからすぐに、まどかの声が聞こえた。
「ごごご、ごめんなさい!10秒だけ待って下さい!」
「わ、わかった……」
体感にして1分後。改めてドアがゆっくりと開いた。
「お、おまたせー……」
やはり隙間から覗くように、まどかが顔を出す。明らかに恥ずかしがっている。かわいい。
「えーっと……。ごめんね、勝手に家まで来ちゃって」
「ううん、むしろ嬉しい。ありがとう、こう……こ……こ……」
バタンッ!!
あらら……。
「あのー……。中、入ってもいい?」
「どどど、どうぞぉー!」
上ずった声が僕を招き入れようとしている。そんなに緊張しなくていいのに。
「開けるよー……?」
「ははは、はい!よろしくお願いします!」
お願いされたので、僕はドアを開けて中へと入った。
まどかが奥の部屋で体育座りをして背を向けている。
玄関のドアを閉め、傘を立てかけてそのまま部屋へお邪魔した。
近くへ行っても、まどかはこちらを向く様子はない。
「……もしかして、恥ずかしがってる?」
「……」
無言だ。まごう事なき、無言だ。
とりあえず床へ座らせてもらう。自然と正座になっているのは、僕も緊張しているからかもしれない。
「……無意識の僕と仲良くしてくれて、ありがとう」
「……当たり前だよ」
「え?」
「だって、こうやって会いに来てくれた時に、ここ……こうた……こう……」
「……無理しなくていいよ?慣れるまでは名字で呼んでくれていいから」
「でも、せっかく練習したのに……!」
ようやく、まどかがこちらへと振り向く。
自然と目があって、僕らはそのまま無言で見つめ合った。
ハッとなって、思わず視線を明後日の方向に逸らす。
目のやり場に困って、部屋をキョロキョロと見渡すような形になってしまった。
「あー、まどか!元気だった!?」
「う、うん!元気だった!」
「そっかー!良かった!」
「か、狩場くんも、元気そうだねー!」
「お陰様で……!フゥー……」
ダメだ、頭が回らない。なんでこんなにドギマギするんだろう。
正座のままお互いに向き合う。視線を下に落としたまま、顔を上げることができない。
「えーっと……。学校、行こうか」
「……ちょっと、早いんじゃない?」
「そ、そっかあ……」
そして、無言の時間が訪れる。
気まずい。気まず過ぎる。
ここへ来たことを若干後悔しつつ、何か話題がないか頭の中で必死に考える。
しかし、沈黙は割と早めに破られた。
突然、まどかが僕に抱き付いたのだ。
「うおぉっと!?」
まどかが覆い被さるようにして、僕を押し倒す。
まどかの頭がすぐ左にあって、赤みがかった茶色の髪が僕の頬を撫でた。
あったかい。
この前、泣いていた時よりも、遙かに温もりを感じる。
まどかは、僕の耳元でそっと、呟いた。
「狩場くん……ずっと……会いたかった……」




