試練
「パラレル、ワールド……とな?」
占いばあさんは口角の左側だけを器用に上げ、訝しげな表情をした。
「ずっと気になっていたんです。
ゲームには存在しないイベントやアイテム。
性格の異なるキャラクターや見た事のない個性が強いキャラクター。
あまりにも早過ぎる友好度ポイントの上昇。
これらが全て、ゲームの製作過程で消されてしまった存在だとするのであれば、一応は説明がつきます」
「ほほう……」
占いばあさんは頷きながら、考えるように目を瞑った。
確かに僕は、この世界で現実世界と同じ感覚で生きている。
しかし、冷静に見ればここはミラクルプリンセスというゲームの世界。
ちらほら見え隠れするプログラミング性を鑑みれば、あながちアホな事は言っていないはずだ。
時間にして1分程だろうか。
占いばあさんが、ゆっくりと目を開いた。
「……言い訳じゃ、ないんだね?」
「はい?」
突然どうした。時間を割いて考えた末に言い訳、とは。
「幸太郎自身、この世界で大変な苦戦を強いられておる。
その言い訳として、ゲームを作っている時に設定が消されたという『妄想』にとらわれている、なんてこたぁないね?」
「それは……!」
言われて、少しハッとする。
こんな状態だ。言い訳の一つや二つくらいは言いたくなる。
まどかが怖いとか言ってビビってるだけじゃん、とか。
両想いなら付き合いながら一緒にことにゃん守ればいいじゃん、とか。
そもそも触るなとか言って自分から拒否してるじゃん、とか。
輝樹が余計なこと言うからまどかが不安になったんだ、とか。
ミラプリのイベント通りに進んでたらこんな展開じゃなかったのに、とか。
考え出したらキリがない。だけど、これらは全て自分を守るための汚い言い訳。
正しいことなんて何一つ、言っていないような気がする。
「……それは、何とも言えません。
実際にいま、何を考えたって言い訳ばかりが浮かんできます。
多分、本当の答えがわかるのって、当分先でしょうね……」
本当の答え。
この世界がパラレルワールドなのか、単純に自由行動が招いた結果なのか。
その答えを探すのは、あまりにも難しい。
例えばこの世界にゲーム製作者が住み着いていて、直接話を聞ければ話は別だ。
少なくとも、今は考えるだけ無駄。結局のところ、全ては僕の妄想に過ぎない。
占いばあさんの表情が自然と穏やかになっていく。きっと、浮き沈みの激しい僕を見て、色々と察してくれたのだろう。
「まぁ、あまり卑屈になるな。天が幸太郎に試練を与えておられるのだろうて。
これを乗り越えた時、きっと幸せな人生が待っておるはずだ。
気張れ。気張れよ、幸太郎。
お前さんは間違いなく、この世界で主人公なのだからな」
……主人公。
そんな風に言われたのは久々だ。
今まで、すっかりモブキャラの気分で過ごしてしまっていた。
考えてみれば、親衛隊のみんなも僕を主人公だと思ってくれているのだ。
少しくらいは主人公らしいこと、やってみたいな……。
「……ありがとうございます。
僕、もうちょっとだけ頑張ってみます。
おばあさん。話を聞いてくれて、ありがとうございました」
「こんな老いぼれでよきゃ、話くらいはナンボでも聞いちゃる。また来いよ、幸太郎」
「必ず来ます。本当にありがとうございました」
「気ぃ付けてな」
終わってみれば、清々しいとまではいかなくても、胸に支えていた物が取れるくらいの気持ちにはなれた。
占いの館は、僕にとってはカウンセリングの場と言っても過言ではないだろう。
モッチの財布を諦めることになったとしても、ここだけはちゃんと通うようにしよう。
占いばあさんだって、一人じゃ寂しいだろう。
せめて僕が喋り相手になれば、恩返しという言葉は言い過ぎだが、何か心の支えになれるはずだ。
占いばあさんが、僕の心の支えとなってくれているように。
──眠る前、僕は大事な事をすっかり忘れていたことに気付いた。
次に目が覚めたら、金曜日なのである。
つまり、まどかと会うのは実質4日後。
これはマズい。面と向かって話し合うどころか、どんどん気まずくなってしまう。
だが、慌てることなかれ。
こんな時こそ、無意識の僕だ。
机に向かい、黒い日記を開く。今こそ無意識の僕をフルに活用する時だ。
僕は胸の中に秘めたる想いを、一心不乱に日記へ書き続けた。




