数値
友好度が199ポイントになる事はよくある。コツコツとポイントを貯めていれば、誰だって起こる現象だ。
しかし、今回の場合は意味合いが全く違う。
僕がやらかしてしまった時も、まどかを不機嫌にさせてしまった時も、友好度は下がるどころか上がっていた。
僕の嫌な部分も含めて、まどかは好きになってくれているのだ。
そのまどかが、グッドエンディング目前で友好度をストップさせている。
これはつまり。
僕とことにゃんが結ばれるために、まどかは無理矢理、自身の気持ちを抑え付けているという事。
それが数値となって、如実に現れている。
僕のことを、心から好きでいてくれているから。
だから愛に不器用なまどかは、僕が幸せになる事を望んで、自分自身を犠牲にしてしまっている。
誰からも愛されない。
誰からも認めてもらえない。
だから、自分を犠牲にするのは慣れちゃった。
まどかはいつも、ゲームでこう語っていた。
僕は、ミラプリを極めていたんじゃないのか。
ゲームに無いイベントでも、知識を応用して簡単に無双できるぐらいの心意気はどこへ行った。
僕は、ミラプリを極めていなかった。
僕が極めたのは『ミラクルプリンセス』というゲームであって、恋愛の仕方じゃない。
プログラムという縛りがないと、僕は何も出来ない役立たずに過ぎない。
命令されるだけのロボットと、何も変わらない。
「……幸太郎」
泣き続ける僕の耳に、占いばあさんの声が入った。
「占い、どうすんね」
……そうだ、モッチの財布だ。
モッチの財布を手に入れて、まどかに渡せばいい。
それこそ、プログラミング優先。
キャラクターの意思に関係なく、友好度は200ポイント上がる。
今の状況のままであれば、ベストエンディングは確実だ。
これを使わない手は無い。姑息な手段を使ってでも、僕はまどかと本気で向き合いたい。
「……お願いします」
悪い事をしているつもりはない。何故なら、これは公式ブックにも載っている正規アイテムだから。バグでも何でもない、玄人向けの公式チートアイテムなのだ。
「あいよ」
軽く返事をすると、占いばあさんはいつもの様に水晶に両手をかざした。
そう時間がかからないうちに、占いばあさんは僕に優しく微笑みかけた。
「喜べ、大吉だ」
「今さら大吉ですか……。もう夜なので意味がない……」
……待て。
まだ、望みはある。
大吉の効果は様々だが、時としてメインキャラクター全員の友好度に『プラス5』追加される場合があるのだ。
すぐさまスマビュを手に取り、電源を入れる。祈るような気持ちで、画面を友好度の欄へとスライドさせた。
我が目を、疑った。
天音 琴葉 12point
宇月 まどか 199point
水瀬 鏡 10point
霧島 玲香 5point
桜小路 朱里 110point
まどかだけ、友好度が上がっていない。
騒動以来、絡みがなく0ポイントだった玲香様が5ポイントになっているから、友好度は間違いなく上がっている。
しゅり先輩だって最後に見た時には105ポイントだったはずだし、
ことにゃんやかがみんの数値を見ても、あのやりとりだけで10ポイント以上になるとは考えにくい。
なぜ、まどかだけが上がらない。
グッドエンディングに突入する時の占い結果は適用外、なんて話は聞いたことがない。
もしかして、ハードモードとやらが関係しているのか?
だとしたら、ハートを消費する占いの館に意味が無くなってくる。
こうなると、モッチの財布の効果でさえ怪しくなってくる。
「……どうした、友好度が上がったんじゃなかったか」
「上がってました。だけど、まどかだけは変わっていなくて……」
「なんだって!?」
占いばあさんが予想外の大声を出す。
「それは有りえん!何遍も輝樹を占ったが、特定の女だけ上がらんなんて事は、今まで一度たりとも無かった。
幸太郎。テレビゲームの知識かなんかで、心当たりはあるか!?」
「……友好度が上がらない占いイベントなんて、聞いた事がありません。
占いの館って強制力が強くて、ベストエンディングに突入する最後の手段として、運に任せるプレイヤーも多いんです。
可能性があるとすれば……」
自分で言っていて、有り得ないことを口に出そうとしていた。
しかし、ゲームとの兼ね合いを考えると、もはやこれしか考えられない。
「この占い自体が、まどかのイベントになっている、という事でしょうか……」
「ほう……?詳しく聞かせてくれんか」
「確信はないんです。あくまでも、可能性の話として聞いてください。
この世界を『現実』と捉えずに、あくまでも『ゲーム』という概念で考えるのであれば……」
自信がなくて言い淀むが、相談という意味でも、占いばあさんに話はしておいた方がいい。
一呼吸置いて、再び僕は口を開いた。
「この世界は、ミラクルプリンセスに存在するはずだった、もう一つの世界。
企画段階でボツになった、パラレルワールドではないでしょうか……?」




