混乱
「……っ!」
まどかが小さく息を呑む。
僕は何故か、全身の震えが止まらないでいる。
それを意識すればするほど、震えは強くなっていく。
そんな震え続ける僕の腕を、まどかは抱きしめて離さない。
いま、どんな顔をしているのだろう。
何を思って、何を感じているのだろう。
「……ごめん。僕、まどかの理想の人になれない……」
口だけが、勝手に動き出す。
「ことにゃんの為に頑張ろうって思って……だけど……まどかが愛おしくて………」
まどかの背中を、涙で濡らす。
「こんなに人を好きになったのって……初めてだから……どうやって、気持ちを伝えればいいのか……わかんなくて……」
止められない。止めることができない。
「だから……僕と……僕と……!」
「……狩場くん?」
優しい囁きが、全身に響き渡る。
僕の腕をそっと離し、正座で俯き落涙する僕へと向き合った。
刹那、まどかの温もりが、僕を包み込んだ。
「……ありがとう」
まどかの声は冷静だ。
それに比べ、僕は嗚咽が止まらない。
身を委ねることしか、今はできない。
「私が変なこと言うから、狩場くんの気持ち、紛らわせちゃったね。
……今でも、天音ちゃんの事、心配なんでしょ?」
「そうだけど……でも………」
「狩場くん、あのね……。
今から、すっごいワガママなこと言うけど、いい?」
「……うん」
少しだけ間を置いて、まどかはゆっくりと口を開いた。
「私のために、天音ちゃんと幸せになってくれませんか……?」
「……!」
な……。
なんで……。
そ……んな……。
「……本当に、めんどくさい女で、ごめんなさい。
狩場くんの素直な気持ちが聞けて嬉しい。
好きです。本当に本当に、狩場くんの事が大好きです。
だけど、私が狩場くんと付き合っちゃったらさ……。
天音ちゃんを守れる人、いなくなっちゃうんだよ……?」
……いまさら、なにを……。
「私が大好きな、純粋で素直な狩場くん。
その狩場くんを、私が奪っちゃう気がして、付き合うのが怖いの……」
……怖いって、なにが。
「だから、せめて側にいたい……。
側にいて、支えてあげたい……」
「……そんなの」
この気持ちは、なんだろう。
「そんなのもう、無理だよ……」
怒りでもない。哀しみでもない。
「だって、まどかの事、本気で好きになっちゃったから……」
呆れてるとか、失望したとか、そういう感情とも違う。
「もう……まどかを……友達として見られない……」
両手で、まどかを突き放した。
そのまま、僕は全力で走り出した。
その場にいるのが嫌で。
雰囲気に飲み込まれるのが嫌で。
僕は、まどかの元から、逃げ出した。
「ハァ……ッハァ……ハァ……」
意識を現実に引き戻した時、占いの館の前で両膝に手を付き、肩で息をしていた。
学校からここに来るまでの記憶がポッカリと抜けている。
何がどうしてどうなったのか、自分でもさっぱりわからない。
まどかにフラれた?
ことにゃんとの恋を応援された?
女々しい姿を見て幻滅された?
泣きながら好きだと言ってくれたのは嘘?
勘違いして恥をかいただけ?
考えれば考えるほど混乱する。思考を巡らせるのが苦痛になって、僕は占いの館へゆっくりと入っていった。
「幸太郎、いらっ……」
占いばあさんは僕を見て、言葉を失った。
「幸太郎……何があった……?」
どんな顔をしていたのか、自分では全くわからない。
ただ、生まれて初めて見る占いばあさんの憂慮したような表情から察するに、あらゆる感情が顔に出てぐちゃぐちゃになっていたんだと思う。
僕は何も言わずに、いつもの小さなイスへ腰掛けて、占いばあさんと向き合った。




