本心
それから授業が終わり、僕はすぐにまどかを迎えに行った。
保健室へ入ると、横向きでベッドに座り、足をプラプラさせて俯くまどかが目に入った。
「来たね、狩場くん」
その手前で、イスに座った光盛先生がニヤニヤしながら言う。
「宇月さん、寂しがってたよ〜?」
「ちょっ!?別に寂しがってないですっ!!」
まどかが光盛先生の方へ向いて、顔を真っ赤にして声を荒げた。
「そんなに怒らなくたっていいでしょー?
ところで狩場くん、手ぶらで来たの?」
「あ!ごめんなさい、急いでてカバン持って来るの忘れました……」
「ダメじゃない、女の子のカバンくらいは持ってきてあげなきゃ。モテないぞ?」
モテないは余計です、先生。
「狩場くん、気にしないで?私も教室に戻りたかったから」
まどかが顔を赤らめたまま、僕へ優しく言葉をかける。
いつもと雰囲気が違うのは気のせいだろうか。なんというか、色っぽいというか……。
「とりあえず宇月さんは元気だし、普通に帰れると思うから。
だけど念のため、家まで送ってあげてね?」
「ちょ、ちょっと先生!?」
「まだ100%元気になった訳じゃないでしょー?
ほら、帰りが遅くなるから行った行った!」
そう言うと、光盛先生はまどかの腕を引っ張り上げ、そのまま背中を押して僕の方へと突き出した。
「ひゃっ!?」
僕の胸へ倒れるように、まどかが抱き付いてくる。
「ご、ごごご、ごめん狩場くん!」
そして、慌てて後退り。なんか違和感あるなぁ。
「あと頼んだよ、狩場くん!」
「は、はい……」
光盛先生に笑顔で見送られ、僕達は教室へと歩き始めた。
「まどか、体調は平気?」
「う、うん。ちょっと気分が悪くなっちゃって……」
まどかは前で手を組み、少し距離を置いていた。横からだと顔がよく見えないが、不機嫌ではないと思う。
まずは、まどかを一人にさせてしまったことを謝らなければいけない。今日はスペシャル謝罪デーだな。
「お昼の時、一緒にご飯食べられなくてごめんね……」
「え、もしかして食堂行っちゃった……?」
「いや、行ってないけど……」
「良かったぁ……。途中で胸が痛くなっちゃって、すぐ保健室に行ったの。
それに、一人で食事しようとしてて……」
「え、本当に一人で食べるつもりだったの?」
「うん。ちょっと、ね……」
「……輝樹じゃないよね?」
疑いたくはない。だけど、これだけは確認しなきゃいけない。
「輝樹と一緒に、ご飯食べるつもりじゃなかったよね……?」
溜まっていた不安が爆発しそうになる。堪えたつもりだが、少し大きな声を出しているかもしれない。
「ふふ、大丈夫。誘われたけど、断っちゃった」
「それって、午前休憩の時に……!?」
「先輩、顔怖いよ?」
ようやく僕の方を向いたまどかは、相変わらず頬が紅くなっていた。だけど、表情はいつものまどか。窓から入る夕日のせいだろうか。
「あの時、最初に謝罪されたの。『変なことに巻き込んでごめん』って。
それでさ、西園寺くんが『宇月さんがいれば、狩場くんは間違いなく天音さんと付き合って結婚できるよ』って言って。
なんかムカつくよね。分かったようなこと言わないでよ、って思った。そこから西園寺くんの話、なんにも聞かなかったよ」
余計なこと言わなきゃいいのに。輝樹、まどかの事なんもわかってない。
「気にしないでいいよ。輝樹、意外と何もわかってないから」
「狩場くんはお昼、どうしたの?」
「それがさ、ことにゃんが仲直りランチ開いてくれて」
「仲直りランチ……?」
まどかが不思議な表情をする。困ったような、哀しいような、ふてくされたような……。
このまま不機嫌になってしまったら嫌だ。僕は、なるべく笑顔で話を続けた。
「僕とかがみんに仲直りしてほしかったみたい。それで、親衛隊のみんなも一緒に6人でお昼食べたよ」
「そっか……。ちゃんと仲直りできた?」
「うん!ことにゃんにも今度ちゃんとお礼しなきゃだよね」
「そうだね……」
まどかは口元を緩めながら目を細め、横並びで歩き続けた。
教室へ到着した時にはすでに誰もいなかった。自分の机へと向かってカバンを手に取る。
「──狩場くん」
振り向くと、カバンを持ったまま今にも泣き出しそうな表情をしたまどかが、僕を見つめていた。
「え、ど、どうしたの!?」
「なんで……」
声が震えている。何を言うつもりなんだ。
「なんで狩場くんは、ゲームの中で、天音ちゃんを選んだの……?」
「え……?」
「なんで、私じゃなくて、天音ちゃんだったんですか……?」
どうして。
どうして、そんなこと言うの。
「えっと、それは……」
「答えて。お願い……」
「その……。まず、ことにゃんって表裏のない純粋な子だから、守ってあげたいなぁって思って」
「私、純粋じゃなかった……?」
「いや、そんなことは……」
「誰にでも抱き付く軽い女だった?守ってあげようって思われないキャラクターだった!?」
「ど、どうしたのいきなり」
「選ばれたかった!!!!!」
まどかの声が、誰もいない教室に響き渡る。
「選ばれたかった……。私、ゲームの中で狩場くんに選んでほしかった……」
「まどか……」
「悔しい……悔しいよ……!
私がもっと、純粋で可愛い女の子だったら、狩場くんと、この世界でちゃんと、お付き合いできたのに……」
まどかの涙は止まらない。
こんな時、僕はどうしていいかわからない。
何を発言するべきか、言葉が見つからない。
「ごめんなさい……こんなこと、言うつもりじゃなくて……。
私……私……自分でどうしたら良いのかわかんないよ……!」
「あ!ま、待ってまどか!!」
そのまま、まどかは教室の外へ走り去っていった。
僕は急いで追いかける。
追いついたところで止まってくれるか分からない。
だけど僕には、まどかに伝えるべきことが、ちゃんとある。




