体育館裏
「狩場氏ー!」
声の主は加藤氏だった。僕の方へと駆け寄ってくる。
「水瀬氏が、少し話をしたいと……」
「えっ、かがみんが!?」
「体育館裏で待つ、と伝言を頼まれてな……。先程、水瀬氏は出て行かれた」
思わず教室内を見渡す。確かに、かがみんの姿はどこにも無い。
「狩場氏、急がれた方が良いのでは」
「そ、そうだね。すぐに行くよ。その前に、まどか?」
「……なぁに?」
若干の不機嫌オーラを漂わせるまどかが僕を見る。
「昼休憩の時に改めて話すね。ちゃんと伝えたい事があるから」
「……うん」
この哀しそうな表情は何を意味するのだろう。だが、今は時間が無い。僕は急いで体育館裏へと向かった。
──輝樹以外でここへ来るのは初めてだ。かがみんはすでに到着していて、不安で少し怯えたような表情を浮かべていた。
「ごめん、ちょっと遅くなったかも」
「……」
かがみんは何も言わない。僕から話し始めないと時間だけが経過してしまう様な雰囲気だ。
「……改めて、本当にごめんなさい」
僕は腰を垂直におりまげ、お辞儀をするような形で謝罪の言葉を述べ続けた。
「いま思えば、かがみんの秘密は最後まで言うべきじゃなかったと思います。
信じてもらえないだろうって思って、かがみんの気持ちは何も考えずに、最後まで喋ってしまいました」
「……」
いま、かがみんはどんな気持ちなんだろう。
頭を上げられず、時間に取り残されたような空間が僕達を支配する。
「……顔を上げて」
ふいに、かがみんの声がした。言われた通り顔を上げると、俯き加減のかがみんが視界に入った。かがみんはそのまま話を始める。
「……本当に、ウソついてないんだよね?」
「もちろん。ウソ付く意味ないもん」
「わかった」
かがみんが顔を上げ、僕と同じかそれ以上に、勢いよく腰を深く折り曲げた。
「疑ってごめんなさい!」
「……え?えぇ、ええ!?」
思わず狼狽える。なんで。
「ボク、本当にストーカーされたと思って、色んな人に相談したんだ」
「そ、そうだったんだ……」
「西園寺くんと天音ちゃん、それから霧島ちゃん。みんなでコソコソ話し合いというか、作戦会議というか……」
かがみんの話を要約すると、つまりこうだ。
昨日、僕がかがみんの家を離れた後。すぐ輝樹に連絡をして、まずは家に呼んだ。
そこで僕が訪ねてきた事を告げ、今後の対策と称してことにゃんと玲香様をカカスへ呼び付けた。
そしてその場では、ストーカーの僕をどうやって懲らしめるのか話し合いが行われたという。
その結果が、僕の罪を生徒達の前で白日の下に晒すことだった、という訳だ。
顔を上げたかがみんが、さらに話を進める。
「狩場くんがこの世界の人じゃないって言った事は、みんなには伝えた。
西園寺くんと霧島ちゃんは、ふざけてるとか、ウソ付いてるとか、信じない方がいいとか、色々と言ってたよ」
やっぱり輝樹か。あの野郎。
「でも、天音ちゃんが言ったんだよね。
『あの人は、くだらないウソを付くような人じゃない』って」
「え、ことにゃんが……?」
なぜ。友好度0ポイントなのに。
「前に狩場くんと話した時に、直感で良い人だって思ったんだって。
だから、もう一度ちゃんと話を聞いた方がいい、とか言われちゃってさ……」
裏でことにゃんが、そんな風に思ってくれていたなんて。
「そしたら、狩場くんと仲の良い宇月ちゃんもおんなじこと言ってたでしょ?
見上げられた時に、ボクに信じて欲しいって必死な目をしてたから、
そこで初めて狩場くんの言うことを信じてもいいかな、って気になってきたの。
しかも霧島ちゃんの秘密みたいな事を話した時に、霧島ちゃんが本気で狼狽えてて、
さっきの休憩の時に本人に確認したら、全部本当の事だって言うし……。
結局、最初から狩場くんが言ってたことって、ぜーんぶ本当の事だったんだなぁ、って……」
かがみんが申し訳なさそうに俯く。そんな顔しなくてもいいのに。
「ところで、てる……西園寺くんは、他に何か言ってた?」
「あの時は信じるなって言ってたけど、さっき西園寺くんから『狩場くんとちゃんと話した方がいい』って言われてさ」
「え?かがみんが自主的に僕を呼んだんじゃないの?」
「西園寺くんが『モヤモヤは晴らした方がいい』って……。それで、この場所なら誰も来ないからって教えてくれたんだよ」
……待て。
待て待て待て。
ちゃんと考えろ。しっかり考えろ。
あの輝樹が、わざわざ僕に話を聞けなんて言うか?
確かに、この場所には人は来ない。教室からも遠いから、クラスメイトにも見つからない……。
「あっ」
「え、なに、どうしたの?」
マズい、やられた。
もしかすると、大変なことになったかもしれない。
「まどかっ……!」
「えっ、ちょっと、狩場くん……?」
僕はかがみんを置いて、一目散に教室へ戻った。
輝樹。
アイツ、僕がいない間に、まどかに何を喋る気だ……!?




