釈明
「あ……」
思わず、言葉を失う。
親衛隊のみんなも、目を丸くしてまどかを見た。
そして、クラス中の視線が僕とまどかに向けられる。
「好きな人が困ってるのに、見過ごせるわけないじゃん」
「あ……あ……」
声が出ない。
頭の中が真っ白になって、無音の空間に放り込まれたような錯覚に包まれる。
「う、宇月氏……周りの者も、思いっきり聞いておりますぞ……?」
「だから?好きっていう気持ちはホントだもん。みんなに知られて困るような事じゃないよ」
「そう仰られましてもですな……」
まどかは極めて冷静にしている。当たり前の事を当たり前に言ったような、そんな雰囲気。
そんな僕とまどかを、周りがざわざわとはやし立てる。
宇月さんってあんなのがいいんだー。
狩場くんってストーカーの噂あるのにね、ヤバっ。
普通に羨ましいなぁ、狩場くん。
あの二人付き合うんだー。
オタサーの姫ゲットだな。
抱き付いてたのってそういう事?
品のない言葉を浴びせるクラスメイト。
面白半分でヒューヒュー言ってる生徒達。
僕が先走ってかがみんの家に行ったから、まどかが恥をかく羽目になった。
それでもまどかは動じない。怒りの表情のまま腕を組み、玲香様一行を待つ。
再度ドアが開くと、玲香様は俯くかがみんを連れて教室に入ってきた。
その後ろから、ことにゃんと輝樹。
僕を公開処刑しようっていうのか。
ズタボロのピエロを、これ以上いじめて何が楽しい。人間の形をした悪魔め。
こんな空気の中で、話をしなきゃいけないのか。
「お待たせ致しました。では、ちゃんと説明してもらいましょうか?」
「……何を説明すればいい?」
冷静に言ったつもりだが、声は震えている。足もガクガクだ。
「水瀬さんの家を特定した理由。まずは、そこからお話下さいませ」
玲香様が見下すように僕を指差す。
かがみんは小刻みにプルプルと震えている。
ことにゃんが心配そうにかがみんの肩を掴み、その横で輝樹が挑発的な目で僕を見ていた。
今までの経緯を話す事は容易い。しかし、理解できるように話す事は到底不可能。
アウェイの空気の中、僕はどう釈明すればいい……?
「狩場くん?」
まどかの凛とした声が、僕に突き刺さる。
「何も隠さないで。狩場くんはただ、本当の事を言えばいいから」
「で、でも、絶対に信じてもらえないよ」
「大丈夫。私が全部補って説明するから。先生が来る前に、早く」
こんなに頼もしい人が側にいたのか。いつもニコニコ抱き付いて暴走しているだけだと思ってたのに。
「……ありがとう」
僕は、覚悟を決めた。
「信じてもらえないことを前提に話をします。
僕は別の世界の人間です。そしてこの世界はゲームになっていて、僕は全てを知り尽くしています」
再び、教室がざわつく。
明らかに不審な目をする玲香様と、目をまん丸にして僕を見ることにゃん。相変わらずプルプルと震えている、かがみん。
そして、教室にいる全ての生徒から、奇人を見るような視線と嘲笑が、一気に僕へと向けられる。
ここまでは想定内。僕は構わず言葉を続けた。
「プライベートを侵害しない程度で話をすると、霧島さんはクマのぬいぐるみが大好きです。
何処へ行ってもみんなに自慢できる、等身大クマちゃん抱き枕を毎日抱えて寝ています」
「ちょっ……な、何故それを……!?」
「購買店のパンはサンドイッチが好き。お姫様気分を味わえるから。
逆に嫌いなパンは焼きそばパン。理由は臭いが服につくから。そうだよね?」
「そんな所まで……気持ち悪い……!」
「どうせ何を話したって信じてくれないんだもん。それに、自慢したいでしょ?等身大クマちゃん抱き枕」
「今は関係ありませんの……!」
玲香様が分かりやすく狼狽える。別に何を言われても構わないのだ。友好度ゼロだし。
「霧島さん」
慌てる玲香様の前へ出たまどかが口を開く。
「狩場くんは嘘を付く人じゃありません。信じられないかもしれないけど、全て本当のことです」
そう言うと、まどかは怯えるかがみんの前に座り、覗き込むように顔を上へと向けた。
「水瀬さん。狩場くんから色々と聞いたでしょ?
もしかしたら失礼なこと言っちゃったかもしれないけど、許してあげて。
狩場くんは一生懸命なだけで、悪気がある訳じゃないの。
人を傷付ける事が嫌いな人だから、傷付いた姿を見て慌てちゃって、空回りしてるだけなんだよ」
かがみんは顔を上げない。どんな表情をしているのか、まどかにしか分からない。
「ね?だから顔を上げて──」
その時、一番聞きたくない声が、教卓から響いた。
「随分と騒がしいけど、何かあったの?」
明智先生が鬼の形相でこちらを見ている。マズい、気付かなかった。
「あ、明智先生!これは、その……」
まどかが言い淀む。僕も何か言おうとするが、頭が追いついていかない。
輝樹がすかさず、口を開いた。
「すみません、朝から騒いでしまって。ちょっとしたケンカと言いますか、大した事じゃありませんよ」
「隣のクラスの子まで巻き込んで大騒ぎすることが、本当に大した事じゃないのね?」
「この子は水瀬さんの友達です。俺らで解決しますから、先生は心配しないで下さい。
些細な事で、先生の手間をかけさせる訳にはいきませんから」
「……ならいいけど。ほら、ホームルーム始めるわよ?
霧島さん、だったかしら。自分の教室に戻りなさい?」
「うっ……はい、わかりました」
玲香様が悔しそうに教室を後にする。
鶴の一声、というやつだろう。全員が席に着くのは早かった。
状況は違えど、まどかもかがみんも納得している様子はない。ことにゃんも苦い顔をして席に座っている。
そんな中、輝樹だけがいつもの様にアゴに手を当てて外を眺めていた。
落ち着きを取り戻しつつある僕は、目の前で起きた不思議な光景をまだ信じられずにいる。
あれは、もしかして……。
輝樹が、僕を庇った、ってことなのか……?




