先走り
──明日の事を部屋で考える前に、僕はスマビュをチェックした。
やはり、というべきか。
しゅり先輩の友好度が、100ポイントを超えている。
この短期間で2人もノーマルエンド以上のフラグが立つなんて。異世界転生にありがちな『ポイント上昇能力』的なチート能力でもあるのかな。まぁいいや、なんでも。
さて、明日は何をしようか。
具体的な事を考えようとして、ふとした疑問が頭をよぎった。
いや、よぎってしまった。
僕は何故、ことにゃんに固執しているのだろうか。
輝樹はことにゃんとの友好度が200ポイントを超えていると言っていた。
つまり、ことにゃんは嫌で輝樹と一緒にいる訳じゃなく、むしろ自ら望んで輝樹と一緒にいる訳だ。
ことにゃんの幸せを考えるのであれば、今は二人の仲を邪魔しない方が良いのではないだろうか。
このまま距離を置いて、僕と輝樹の抗争も終わって、みんながこの世界で平和に楽しく過ごしていく。
なんだ、簡単なことじゃないか。
そうだ。ことにゃんはことにゃんで楽しく暮らしているのだ。
ストーカーみたいな存在がいなくなれば、ことにゃん自身の不安要素も無くなるだろう。
そうと決まれば明日、みんなに伝えなければならない。
ことにゃんは諦めて、普通の学校生活を送ることに決めた、と。
僕は電気を消してベッドへ潜り込み、早々に目を瞑った。
そして、新たに始まる学校生活を夢見て、僕は深い眠りに就いた。
──とても清々しい朝だ。いつもより目覚めが良く、胸の辺りがスッキリしているのが良くわかる。
朝食のパンとコーヒーを頂き、僕は暖かい春の匂いが漂う外へと繰り出した。
最近は雨が降ることはなく、空にはいつも青空が広がっている。我が学校へ向かう生徒達に混じり、僕は景色を楽しみながら登校していった。
教室へ着くと、すでに親衛隊のみんなとまどかが楽しそうに会話をしていた。
「おはよう、みんな」
「狩場氏、おはよう!今日は普段よりもスッキリした顔をしているな」
「良いことでもあったのか?」
「いつもより晴れやかだ」
親衛隊のみんなが、僕の顔をまじまじと見る。めちゃくちゃ見てくる。……ちょっと見すぎじゃない?なんか恥ずかしい。
「狩場先輩、おはよっ!」
「おぉっと!」
例によって、まどかが僕に横から抱き付いた。
「おはよう、まどか」
「なんか今日、爽やかだね!どうしたの?」
笑顔のまどかに、僕は答えた。
「僕の中で決めたことがあってね」
「へー、どんな!?」
朝からテンション高いなぁ。
「あのね、実は僕……」
言い掛けて突然、教室の後ろの扉が勢いよくガラガラっと開いた。
「狩場幸太郎はいらっしゃいますの!?」
突然の大声にビックリして後ろを振り向くと、物凄い形相の玲香様と目があった。
「そこにいましたわね、ストーカー。話があるからいらっしゃい!」
「先輩に何か用?」
僕が反応する前に、まどかは僕から離れて玲香様に歩み寄っていった。
「なんですの?部外者は引っ込んでいて下さるかしら」
「部外者じゃないし。朝からうるさいんだけど」
「用があるのは、そこのストーカーです。天音さんだけでなく水瀬さんにまで手を出すなんて、本当に最低な人ですわ!」
教室がざわつく。当のかがみんはまだ登校していない。
「いきなり失礼なこと言わないでよ。そんな嘘、誰から聞いたの?」
「嘘じゃありませんことよ。ご本人から直接聞きましたから」
「え!?かがみんが、そんなことを……!?」
二人の会話を遮り、僕は思わず声を上げてしまった。
ちょっと待ってくれ。
かがみんのママには本物のストーカーだと思われたかもしれない。
だけど、かがみんが本気で僕をストーカー扱いするなんて、思ってもいなかった。
何度も繰り返すが、かがみんは本来であれば人を偏見で見るようなキャラクターではない。
不細工な人間にも、性格が悪い人間にも、誰からも嫌われている人間にも、かがみんは唯一の味方としてその人間へ寄り添ってくれる。いわば、ヒーローの様な少女だ。
「あなたには直接、謝罪をしていただきます。水瀬さんは怖がってこの教室に入ることが出来ず、私の教室で待機しておりますの。
もし来ないようであれば、この教室で強制的に謝罪してもらいます。その方が都合が良いかしら?」
「……わかりました。この教室で、謝罪します」
「あら、意外と勇気のある方ですのね。自分の醜態をクラス中に晒すだけでなく、担任の教師にもこの事実を知られる危険がありますのよ?
私はせめてもの優しさで提案したのに、バカな男ですわ。
今から呼びに行きますから、お逃げにならぬよう」
そう言うと玲香様は、一旦教室の外へと出て行った。
「せんぱあぁい!!」
まどかが慌てて僕の所へ駆け寄ってくる。
「もしかしてまた勝手に家まで行っちゃったんですか!?」
「その……うん……」
「もお!すぐ先走るんだから!」
「ごめんなさい……」
「全く、しょうがない先輩だなぁ……」
まどかが呆れたように片手で頭を抱えた。
「我々も出来るだけ擁護するが、どこまで弁明できるか……」
「押されると萎縮してしまうのだ……」
「狩場氏をちゃんと擁護できるか……」
「本当に申し訳ない……。僕の問題だから、自分でなんとかするよ」
「ホントに一人で何とかできると思ってる?」
「だって、何とかするしか……」
「先輩。私達を頼って下さい。先輩が虐められてる所を黙って見てるだけって、おかしくない?」
「まどか……」
まどかが僕の為に叱ってくれている。
僕みたいな何も考えない人間を、ちゃんと守ろうとしてくれている。
「なんでそんなに協力してくれるの……?」
「当たり前でしょ」
苛ついた表情のまどかが、僕を真っ直ぐ見た。
「だって私、狩場くんのこと好きだもん」




