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朱里とまどか

 テンションが一気に上がる。かがみんの件で落ち込んでる場合じゃない。


「おや、急に元気になったな」


「だって気になるじゃないですか!なんで、まどかを泊めることになったんですか!?」


「まぁまぁ、落ち着きたまえ」


 僕はあまりの興奮で、肩で息をしていた事さえ気が付かなかった。しゅり先輩に宥められ、僕はゆっくりと呼吸を整えた。


 そして、しゅり先輩はあの後の出来事を、ゆったりと語り始めた。


 ──。


 ──あの時は恥ずかしさの勢いで別れてしまっただろう?だから当然、まどか君の家がどこなのか解らなかったのだよ。


「う、宇月くん!家は、どど、どこにあるのだ!?」


「帰らないぃー……うぐっ、うぐっ……」


 抱きしめる力が強くてな、あばらが折れてしまうかと思ったよ。


「こ、こんな所を、人に見られたら、はずっ、恥ずかしくて……」


「うぐっ……もっとイチャイチャしたいですぅ……」


「泣きながら言うことか!バカモノ!」


 ……こんな調子で埒が明かないのでな。私はまどか君を連れて、仕方なく自宅へと向かったのだ。


「どこ行くんですか……?」


「私の家だ。今日は独りなのでな。温かいご飯でも食べていきなさい」


「え……いいんですか……?」


 まどか君は泣き止んで、目がまん丸になっていた。予想外だったみたいだ。


「あぁ。友達だろう?」


「しゅ……しゅ……」


 まどか君の顔が、またぐちゃぐちゃになっていく。すぐに察したよ。


「しゅりせんぱぁーーーーーい!!うわあぁぁぁぁぁん!!」


「キャッ!?す、すまない、泣かせるつもりは、なな、なくて」


「だい゛ずぎい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛……うがあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」


「こ、こら!化け物みたいに泣きつくな!男に嫌われるぞ!」


「グスッ……いいもん……しゅりちゃんにだけ、好きになってもらえればいいんだもん……」


「しゅりちゃ……!?」


 本当に、まどか君といると自分のペースが狂わされるよ。


だけど、なんだか隠していた自分を解放しているような気になってね。


 何故だか凄く、心が嬉しくなったんだ。


 私の家は少年も知っているだろう?占いの館を過ぎて、信号のある交差点を左に曲がっていった場所だ。


クリーム色の外壁と茶色のトタン屋根は、いつ見ても古風に感じる。


でも、母が気に入っていた色合いだからね。守護霊になって家を丸々乗っ取っているんじゃないかと、たまに思うよ。


まぁ、そんな風に思った方が、毎日『おかえり』って迎え入れてくれている様な気がして、心地良いんだけどね。


 ……おっと、話が逸れてしまった。母の話になるとつい浸ってしまう。すまないな。


それで、まどか君をそのまま家に入れてリビングへ通した。


「温かいお茶で良いかな?」


「お茶だなんてそんな……」


「少し泣き疲れただろう。コタツで適当に休んでなさい。お茶をいれたら、私は肉じゃがを作るよ」


「手作りですか!?コンビニでちゃちゃっと買っても……」


「母から教わった肉じゃがでな。ぜひ、宇月くんに食べてもらいたいのだ」


「そうですか……。では、お言葉に甘えて」


「うむ。素直でよろしい」


 まどか君にお茶をいれてから早速、肉じゃが作りへ取り掛かった。


ダイニングキッチンなので、まどか君をチラチラ見ながら作っていたよ。


当のまどか君は人の家に慣れていないのか、すっかり泣き止んでコタツの前で正座していた。


「……足を崩して良いのだぞ?落ち着かないだろう」


「年上の女の人の家って初めてだから、ちょっと緊張しちゃって……」


「ふふ、先程まで甘えていたとは思えないぐらい静かだな」


「あのー……。やっぱり私、迷惑じゃないですか?」


「むしろ来てくれて嬉しいよ。父は残業で今日は帰らないし、母もいないのでな」


「え?お母さんと離れ離れで暮らしてるんですか?」


「いや、中学の頃に事故で亡くなったんだ。奥の和室に遺影が飾ってある。もし良かったら、手を合わせてあげてほしい」


「あ……。ごめんなさい、余計なこと聞いちゃいましたね……」


「ううん。すっかり良い思い出になっているし、今は全然寂しくないよ。私こそ、気を遣わせるような発言をしてすまなかったな」


「いやいや、私が勝手に思い込んで聞いちゃっただけなので!……あの、お線香上げてもいいですか?」


「もちろんだ。母もきっと喜ぶよ」


 恐らく、私に対して失礼な態度を取った詫びとして線香をあげに向かった訳じゃない。


心から母へ線香をあげたいと思って、遺影の前で手を合わせてくれたのだと思う。


 リビングへ戻ってくると、ようやくコタツに足を入れてくれた。それから数秒でぐっすりだ。やはり疲れていたのだな。


コタツで寝ると風邪を引くというが、そんなに長い時間でもないしな。


肉じゃがを煮込んでいる間、私はコタツで火の様子を窺いながら、まどか君を見守っていた。子守りをするような気持ちでね。


 まどか君がどんな人生を歩んできたのか、とても興味深い。


 食事の時にゆっくりと話そうと思って、私は空になった湯呑みにお茶を入れ直した。


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