妄想
──案の定、ママに泣き付かれてしまった。
パパには『またか』というような感じで呆れられただけだが、僕は親不孝者だと思う。
でもこれと言って怒られるような事はなく、いつものように3人でディナーを食べ、心置きなくお風呂に入ってさっぱりもした。
パパとママにおやすみの挨拶を簡単に済ませ、自室で今日の出来事を思い出しつつ、黒い日記に向き合う。
結局、大凶っぽい事件はあのヤンキーに会ったことだけだ。
お金やアイテムを落とした訳じゃないし、不審者に何かされたりスリにあった訳でもない。
感覚的には『大凶』というよりも『凶』って感じ。
ゲームではあり得ないけど、現実のように進むこの世界では、占いばあさんでも占い結果を外すのかもしれない。
当たるも八卦、当たらぬも八卦。結果をいちいち気にしてはいけないのだ。
さて、今日は大きな進展があった。
しゅり先輩が正式に僕達の味方になってくれたのだ。
もちろん、直接的な協力は厳しい。だけど、僕が異世界から来たことを信じてくれた事実は、間違いなく大きい。
まどかとも仲良くなったし、とりあえず輝樹から距離を置いたと言っていいだろう。
そういえば、二人はあの後どうなったんだろう。ゲームでも絡みはあったけど、あんなに親密な関係ではなかった。
唯一、ファンミーティングの特別生アフレコの時に似たような描写はあったけど……。まぁいいや、今度聞こう。
ところで、明日の僕には何をしてもらおうか。
とりあえずは無駄にことにゃんに近づきさえしなければ何だっていい。無意識の僕だって何も考えずに休日を楽しみたいはずだ。
日記には今日あった出来事だけを書いておこう。
ペンを持って日記に文字を羅列していく。本当に報告だけなので、ものの数分で書き終えてしまった。
さて、重要なのは日曜日だ。占いの館へ行くのはいいとして、今できる最善策を取らなければならない。
まず、ことにゃんに会うのは絶対にダメ。不信感が増すだけだから、謝るタイミングを待つしかない。
玲香様に関しても、輝樹が裏で何を言っているかは解らないから、迂闊に近づかない方が良い。変な噂が広がっても困る。
となると、やはり、かがみん。
かがみんにだけは、ちゃんと謝らなければいけない。
例え不審がられても、日曜日に僕はかがみんの家に押しかける。
殴られたっていい。
どんな悪口を言われたっていい。
最悪、警察に通報されたって構わない。
僕のせいで、かがみんの人生が狂ってしまうなら、僕の人生が狂う方がよっぽどマシだ。
そして、頭の中に浮かんでくる1つの言葉。
ゲームオーバー。
実際にはミラプリでゲームオーバーは存在しない。だけど、この世界は現実に等しい。
僕が補導されるような事があれば、実質ゲームオーバーみたいなもんだ。
ことにゃん攻略はおろか、まどかやしゅり先輩、親衛隊のみんなとも会えなくなるかもしれない。
そんなリスクを犯してでも、僕はかがみんに謝りに行く。
僕の中の正義が、許してくれないから。
そうと決まれば、まずは占いの館へ行ってこの決意を占いばあさんに伝えよう。
場合によっては、日曜日が最後になるかもしれないし。
僕は書き終えた日記の最後に、こう付け加えた。
「P.S. 日曜日にかがみんに謝りに行きます。なるべく無意識の僕に迷惑かけないようにするけど、無理だったらごめんなさい」
うーん、逆に不安にさせちゃうかな。でも、火曜日いきなり少年院だったらショックで倒れちゃうかもしれないし、仕方ないか。
覚悟が決まった所で、僕はベッドに就いた。
明日の僕が楽しく過ごせるように祈りながら、僕は目を瞑った。
──目を覚ましてカーテンを開ける。良かった、快晴だ。
僕は日記を開き、無意識の僕からのメッセージを読んだ。
「別の僕へ。
気持ちはわかるけど、明日はめちゃくちゃな事しないで下さい。
1日中、不安でドキドキしっぱなしで何も手につけられませんでした。
起きたら捕まっているのかと思うと、寝るのが怖くてたまりません。
紙がふやけているのは僕の涙のせいです。
どれだけ怖い思いをしているか伝わりましたか?
お願いだから謝らないで1日ゆっくり疲れを取って下さい。
本当にお願いします。僕を助けて下さい」
やば、めっちゃ不安にさせちゃった。
確かに勢いで少年院とか考えちゃったけど、冷静に考えたらそこまで大事にはならないだろう。
僕、そういう厨二病的な考えする事あるんだよなぁ。気を付けよう。ごめんね、無意識の僕。
リビングに降りて朝食を済ませる。パパとママに特に何も言われる事はなく、むしろケロっとした感じでいつもの様な会話が繰り広げられた。
着替えを済ませて表へ出る。春の日差しがポカポカと照っていて、気持ちの良い朝だ。
ランニングする人を横目に、公園を抜けて占いの館へ。ことにゃんの家の前を通るが、この時間はいないから大丈夫。
そのまま鼻歌を歌いながら占いの館へ到着。こんなに気分が良いのは季節のせいか。
それにしても、占いばあさんはいつ休んでいるんだろう。というか、休み看板が出る事なんてあるのだろうか。
のれんをくぐると、やはりいつもの様に水晶を前にしてイスに座っていた。
「おはよう、幸太郎。早いね」
「今日は嫌われてしまった女の子に謝りに行こうと思って、先にこちらへ来ました」
「そうかい。大凶は大丈夫だったかえ?」
「変なヤンキーの女の子に会っただけで、何も無かったです」
「ほう……?」
占いばあさんが考える様な仕草をした後、しかめ面をした……ような気がした。シワくちゃだからよくわからん。
「ま、いいだろう。それじゃ、早速占うかい?」
「お願いします」
占いばあさんが水晶に両手をかざす。少しすると、わかりやすくニコッと笑顔になった。
「良かったな、今日は吉だ」
「そうですか!安心です」
「上手く謝れるといいね。道中、気ぃ付けてな」
今日も占いばあさんの笑顔が素敵だ。軽く挨拶を済ませ、僕は気持ち良くかがみんの家へと向かった。
少年院とは一体なんだったのだろうか。変な妄想癖は無くしたいものである。




