二つの物語
「超見てくんじゃん。きもっ」
ゴミを見る様な目が、僕に突き刺さった。思わず僕は立ち止まる。
向こうも立ち止まって、そのまま僕に話しかけてきた。
「ねぇジロジロ見ないで。聞いてる?」
「え、あ、は、はい」
「いちいち『あ』とか『え』とか要らなくね?ウケる」
ウケるって何が。何もしてないでしょ。
「……喋れなくなるんで、やめて下さい」
「フツーに喋ればいいじゃん。どういうこと?」
「あ、と、その……」
「そっか女の子苦手なんだっけヤッッバ!」
めっちゃ笑ってくる。もう耐えられない。
「……ごめんなさい、もう行きます」
「え、めっちゃ怒ってんじゃん。まじむりだわ」
「僕も無理です。さよなら」
関わらないほうがいい。早く帰ろう。
僕が歩き始めようとした時、五十嵐さんは僕の目をジッと見て不快そうに口を開いた。
「なんなの。勝手に怒って帰るとかありえなくない?」
「なんで」
「あたしが悪いみたいじゃん。謝れし」
「は?」
「だから、謝れって」
「なんで!おかしいでしょ!」
「いやあたし傷付いたから。はやく謝って」
「やだよ、僕悪くないもん!」
「なに、あたしが悪いの?」
「それは、そう……でしょ」
そうやって言われると自信無くなる。
「それ本気で言ってる?」
声のトーンがガチ切れ。
え、僕が悪いの?
「あたし悪くないよね?」
「……勝手に怒ってすみませんでした」
僕は五十嵐さんに小さくお辞儀をする様に頭を下げた。どうしよう、謝っちゃった。
「なんで謝ってんの?」
「はあぁ!?」
「悪くないって思ってるなら最後まで謝んなきゃいいじゃん。マジ萎えるわ」
どっちにしろグチグチ言われるじゃん。どうすりゃいいの。
「その場の空気で流されやすい人でしょ」
「もういいよホントに……」
「うわ、つまんなっ」
「帰りますよ?いいですよね?」
疲れる。無視して行こうかな。
「ダメって言ったらどうすんの」
「無理矢理帰ります」
「じゃあ聞くなし。帰れば?」
もーヤダ。絶対帰る。
「さよなら」
僕は逃げる様にその場を立ち去った。
めっちゃ腹立ったけど逆に、大凶がこの程度で良かったと考えればいいんだ。
早く帰ってパパとママに謝らなきゃ。一応、事故だけは気を付けよう。
──。
──なにアイツ。
いかにも周りに流されやすくて、中身の無い男って感じ。
ガキだな、マジで。
あたしの職場にも似たような客は結構多い。
いい歳こいて、酔っ払うと口だけは達者で、ずーっとグチグチ、グチグチ。
そういう客は、適当に話合わせて『えーヤバー』とか言っておけば大抵なんとかなる。
だけど、そっちの仕事は嫌い。しかも見つかったら普通に捕まるし、店も潰れる。
できればバイトはカカス1本に絞りたいけど、お金無いしな。
今日はおばあちゃんとゆっくりご飯食べよう。
「おばあちゃーん?」
「おぉ、美波ちゃん。来たかい」
「さっき変な人に会った」
「夜は危ない人が増えるけぇ、気ぃ付けないといかんよ。何もされんかったかい」
「うん。とりまご飯作るからちょっと待ってて」
「いつも悪いね。仕事と学校の両立は大変だろう。ほどほどにな」
「わかってるよ、心配性なんだから」
扉を2つ開けて奥のキッチンへと向かう。冷蔵庫を開けて具材を確認。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉……よし、ある。
カレーのルーも買い忘れて……ないね。棚に置いてある。おばあちゃん、まだボケてない。
包丁で具材を適当に切ってフライパンで炒める。
終わったら具材を一旦ボウルに移して、鍋に水入れて具材を煮込んで、カレールー溶かして、っと。めっちゃ簡単。
このカレー、歴代の彼氏みんな好きだったな。誰でも同じ味になるのに、料理上手いねー、みたいな。へんなの。
無事にカレーが出来上がり、コタツにカレーを二つ並べる。あとはおばあちゃんのいる入り口の部屋へ呼びに行くだけ。お客さんは誰もいないみたい。
「できたよー」
「あいよ。看板立ててくるけぇ、座って待っといてくれ」
おばあちゃんは立ち上がり、壁にもたれかかっている『終了』と筆で書かれた木の立て看板を外に出しに行った。
部屋へと戻ってコタツで携帯をいじっていると、すぐにおばあちゃんが入ってきた。
一息ついた所で、あたし達はカレーの前で両手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
スプーンで口の中へカレーを頬張る。うん、カレーのルーはやっぱりこれだな。
「美波ちゃん、今日は泊まっていくのかい」
食べながら、おばあちゃんがあたしに話しかける。
「ううん、お家帰る」
「そうかい。遠慮せずに、いつでも泊まっていいんだからね。あの家は1人じゃ大きかろう」
「慣れたから平気。友達も呼べるし」
「寂しくないのは良い事だ」
「おばあちゃん寂しいの?」
「いいや。客が来ているからちっとも寂しくないよ。それに、面白い若者もいるしね」
「男?カッコいいの?」
「悪い子じゃない事は確かだ。純粋で、真っ直ぐな男の子だよ」
「ふーん。別に興味ないけど」
「そうかい。アタシャ好感持てる子だと思うがね」
おばあちゃんが言うなら良い人なのかな。
しばらく男はいらないから、あたしにはどうでもいい話だけど。
女友達と遊んでる方が楽しいし、笑っていられる。
男と女の関係みたいなのは、めんどくさくて嫌いだ。
……あ、携帯にメッセ来た。返信しよっ。




