憶測
モッチの財布。
それは、1人のキャラクターの友好度を無条件に200ポイント上げる公式チートアイテム。
その条件の1つが、占いの館へ毎回通って占いをする事。
通常プレイであれば、占いの館へは滅多に行かない。
貴重なハートを1つ消費してしまうのだ。大凶が出るリスクを犯して、イベントを1つ捨てるようなプレイはしたくない。初見なら尚更である。
さらに言うと、ただでさえ手に入りにくい福引券を集めないといけないのが、かなりのネックになる。
ことにゃん映画イベントもそうだが、福引券を使ってイベントアイテムをゲットするシーンが多いのだ。
イベント時以外はランダムで手に入る設定なので、わざとイベントに失敗して福引券を手に入れるプレイヤーが続出するのも頷ける。
そして、モッチの財布を手に入れるために、不安な要素が1つだけある。
この財布、初見プレイだと手に入らないのだ。
では何故、僕は最初からモッチの財布を手に入れるつもりでいたのか。
あの時の僕が単純に、ゲームを極めていると思っていたからである。
つまり、僕はゲームをやり込んだ上でこの世界に来た訳だから、周回プレイの様なものだろうと。
そう。完全に憶測だけで挑んでいたのだ。
それでも僕は通い続ける。諦めずに、今月末まで通い続ける。
だってまだ、100%手に入らないと決まった訳じゃないから。
手に入れられるだろう、という憶測。
手に入らないだろうな、という憶測。
どちらを選ぶか。ただそれだけの話である。
これは手に入れたい為の言い訳だけど、この世界はハードモードだ。初見プレイでハードモードという事はないだろう。
それに今の僕は幸いハートが1つ残っているので、回復薬を使う必要も無い。
よくわかんないけど、神様が行けって言ってるんだと思う。
──占いの館はいつも雰囲気が変わらない。目の前にすると、ここだけ時代に取り残されたんじゃないかと錯覚しそうになる。
いつもの様にのれんをくぐると、例の如く占いばあさんが水晶を前にしてイスに座っていた。
「今日は遅かったね。諦めちまったのかと思ったよ」
「絶対に財布を手に入れたいので、ここだけは毎回来るって決めてるんです」
「そうかい。ならば、早速占ってやろう」
占いばあさんはいつもの様に、水晶の前に両手をかざして中をじーっと凝視した。
「今日の運勢は……」
占いばあさんが苦い表情をする。
えっ、嘘でしょ。ちょっと待った。
「……大凶だ」
「ウソでしょ!?」
思わず大声で叫ぶ。どうして。帰り道こわい。
「2連続たぁ、珍しいな。だが、幸太郎も知っておろう。大凶は月に4回しか出ん。早めに悪運を消費して、ツキを後に回せばいい」
「そんな……」
「ところで前回の大凶の日、学校で何かあったかい」
「何かあった所の騒ぎじゃなかったですよ……」
「ほう?」
僕は月曜日に起こった事から今までの事を、包み隠さず全て話した。
大凶という存在がどれほど恐ろしい存在なのか。思い出しながら喋るだけで、悪い鳥肌が立ってくる。
「……災難半分、自業自得半分、と言った所か」
「いろんな人から言われます……」
「だが、今日は楽しそうにしていたみたいじゃないか。
話だけを聞くと、青春を楽しむ若者と大差ないぞ」
「楽しくないですよ……。何度も何度も緊張したりリラックスしたりで、疲れちゃいました」
まどかも引きずったし。
「そういうのはいずれ、良き思い出になる。月神様も付いておるしな。死ななきゃ、それで充分だ」
「大凶ですよ?死ぬかもしれないじゃないですか……」
「逆に質問するが、幸太郎が楽しんでいたテレビゲームで輝樹は死んでいたのかい」
「いや、死んでないですけど……」
「ならば安心だろう。ループしながら奴を何度も占ったが、大凶で死ぬような事は1度も無かった。
生きているだけで万々歳。強く生きろ、幸太郎」
強く生きろ、って言われてもなぁ……。
「なんだい、今日はバカにネガティブだね」
「大凶がトラウマで……」
「将来の糧になるんだ。今は受け入れて、しっかりと耐えんさい」
「はい……」
僕はゆっくりと立ち上がり、見下ろした。
「ありがとうございました……」
「気ぃ付けてな」
過去最高にどんよりとした雰囲気を醸し出しているにも関わらず、占いばあさんはシワをクシャクシャにしてニッコリと微笑んだ。
まるで仏様だ。多分、死ぬなら今だな。天国直送。やっぱヤダ。
のれんをくぐって外へ出ると、日はすっかり落ちて暗くなっていた。またママが泣いちゃう。
家まで走って行こうとした時、目の前から見た事のある人物が歩いてきた。
おでこを出したロングヘアー。
ウェーブのかかった金色茶髪。
赤いリボンのヒモがだらしなく伸びて、胸元の真ん中に本体がきてしまっている。
スカートは短め。身体が細いせいで脚が長く見える。
それでも不快な全体像。この世界で会いたくない人物ナンバーワン。
五十嵐美波が、携帯電話を見ながら歩いてきた。
彼女はふと顔を上げ、身体中を凝視していた僕と目が合った。
「なに見てんの?」
あ、怖い。無理だ。たすけて。




