年上
「さて、少年少女よ。本題はここからなのだろう?」
優しい瞳を保ちながら、鋭い眼光で僕達に問いかける。しゅり先輩の表情に疑いのオーラは無い。
僕は確認の意味を含めて、しゅり先輩に質問をする。
「この前ベンチで話したこと、まだ覚えてますか?」
「あぁ、覚えているとも。もしかして私に、少年がストーカーであるという疑惑を晴らす手伝いをしてほしいのか?」
「さ、流石ですね。その通りです」
「ふむ。つまり、そのストーカーの件と異世界のゲームの話がリンクしてくる訳だ」
理解力の塊みたいな人だ。話が早い。
「そういう事です。僕がゲームの知識で天音さんの家に行ってしまいまして……」
「なるほど。腑に落ちなかった部分がようやく埋まったよ」
少し半笑いになりながら、しゅり先輩は口に手を当てた。
「キミの様な少年がストーカー行為などできるはずがないと思っていたのでな」
「それじゃあ、僕達に協力」
「……すまない。私は力にはなれないと思う」
口から手を離して下に置き、しゅり先輩が改めて僕達に告げる。
「キミ達より2つも学年が上で、天音琴葉という女子生徒との面識も無い。
助けたいのは山々だが、私は部外者も同然だ。
逆に混乱を招く要因になってしまうよ」
「もちろん、それを承知の上でのお願いです。
いま頼れるのは、桜小路先輩しかいないんです……」
僕はしゅり先輩に、すがる思いで訴えた。
自分勝手だという事は、充分すぎる程に解っている。
だけど、ことにゃんを守る為にも、しゅり先輩が輝樹にそそのかされない為にも、
このタイミングで協力してもらわないと後々、後悔してしまう。
「私からもお願いです」
僕を挟んで、まどかはしゅり先輩を前のめりで見つめた。
「確かに狩場くんは、先走って失敗しちゃったかもしれません。
だけど、純粋に天音さんのことが好きで、天音さんに早く謝りたくて、家まで行っちゃったんだと思います。
私は、真っ直ぐな気持ちを持った狩場くんを応援したい。
だから、狩場くんが信頼している桜小路先輩に、協力してほしいんです」
「ふむ……」
しゅり先輩が顎に手を当てる。目を閉じて、何かを考える様な仕草をした。
僕は祈るような気持ちで、返答を待った。
チラッと横目でまどかを見ると、俯いて今にも泣き出しそうな顔をしていた。
まるで、僕が悪口を言って落ち込ませた様な気分になる。
巻き込んでごめん。
本当は、僕1人で何とかしなきゃいけないのに。
僕は、なんて無力な人間なんだろう。
ふと、しゅり先輩が目を開ける。アゴから手を離して、僕達に顔を向けた。
「私に特別な知識は無いし、むしろ偉い人間でも無い。
だが、一個人として意見を述べる事はできる。
誰とどんな会話をして、どのような結果になったのか。
それらを報告してくれれば、拙いアドバイスくらいは送れるだろう。
それがキミ達の力になるのか自信は無いが、それでも良ければ協力してあげよう。
……協力と呼べるのか、自分でも分かんないんだけどさ」
……きた。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、フランクな言葉遣いになった。
それを、僕は見逃さない。
それは、心を開いてくれた証。
泥のような気持ちは一瞬にして流れ去り、僕の心に一輪の小さな花が咲いた。
「ありがとうございます!
そんな風に言ってもらえるなんて、想像もしていませんでした!
先輩に協力してもらえるなんて……本当に嬉しいです!」
「どうした少年、急に元気になったな」
「だって、しゅり先輩が、しゅり先輩が……!」
「しゅ!?こ、こら!下の名前で呼ぶな!
まさか、そ、それも、ゲームの知識とやらで……!?」
「ああっ、ごめんなさい、つい!」
「うぐっ……桜小路先輩……」
「へ?」
まどかを見ると、思いっきり泣いていた。
「私、本当に嬉しいです。
こうやって、信頼できる人が増えて、お友達みたいな人が、沢山できて……」
「まどか……」
そうか。
まどかは、ずっと独りぼっちだったのだ。
こんな風に誰か相談する事も、心の内を話すことも、今までしてきた事がない。
一体どれだけの勇気を出して、この場にいてくれたのだろう。
それが涙となって溢れ出るのは、必然なのだ。
「……宇月くん。私で良ければ、友達『みたいな』関係ではなく、本当に友達として付き合えないかな。
キミはちょっとだけ、私と似ているかもしれない。
年上は、苦手かな?」
「トモダチ……?」
涙を溜めたまどかの目が、急に大きく見開く。
そのまま音を立てずに立ち上がり、しゅり先輩の真正面へ移動した。
「本当に私なんかと、友達になってくれるんですか……?」
「あぁ。色々と話も聞いてみたい。
それと。
友達には、敬語は使わないものだぞ?」
「しゅ……しゅ……」
まどかの顔が、ぐちゃぐちゃになっていく。
「しゅりせんぱぁーーーい!!!」
「おっと!?」
例の如く、まどかはしゅり先輩に抱きついた。
「年上のお友達、初めてです!
好き!大好き!もう絶対に離さない!」
「こ、こら、やめろ!そのテンションで、名前を、呼ばれると、女子でも、はっ、はずっ……」
「うわぁーーーん!可愛いよぉーーー!しゅりせんぱぁーーい……」
どんな泣き方してんの。しゅり先輩めっちゃ困ってんじゃん。
「す、すまない少年!宇月くんを、はな、離して、くれないか!?」
「ごめんなさい、こうなると離れないかと……」
「しゅり先輩あったかいぃ……うぐっ……えぐっ……」
「なな、なんという恥辱……!少年、私は、どど、どうすればいい!?」
「えーっと……。とりあえず、家に連れて帰ればいいと思います」
「それで離れるのだな!?」
「多分……」
「よし、家まで送り届けよう。また会おう、狩場少年!」
「あっ、しゅり先輩……」
まどかに抱きつかれたまま無理やり立ち上がり、しゅり先輩は公園を後にした。
最後は、何故かバタバタしてしまった。
まともにお礼も言えなかったな。
でも、まどか嬉しそうだったし、次に会った時に改めてお礼言えばいいか。
さて、僕も遅くなる前に行くか。
占いの館に。




