転移
まどかを引きずるようにして、僕達は教室へ帰っていった。
「まどか、重い……」
「私ってそんな太ってます!?」
「そうじゃなくてさ、力弱いんだよ僕……」
「じゃあ鍛えてムキムキになって下さい!天音ちゃんのこと、お姫様抱っこできないよ?」
「したくないし……」
ブツブツ文句言っているけど、この時間が一番好き。
ことにゃんが平和に過ごしていれば、まどかにしっかり向き合えるのにな。
なんとか無事に教室に辿り着き、ドアを開けてすぐに、まどかは僕の身体から離れて親衛隊の所へ走っていった。
「ただいまー!」
「宇月氏、元気そうだな!」
「うまくいったか!?」
「先輩に引かれなかったか!?」
親衛隊のみんなが期待の眼差しでまどかを見る。
「話は聞いてくれたんだけど、いきなりじゃ信じてもらうの難しかったよ」
まどかは眉をハの字にして微笑んだ。
「だけど放課後にね、改めて話聞いてくれるって!」
「そうか!まずは1歩前進といった所だな」
「話のわかる人でよかった!」
「引かれなくてよかった!」
親衛隊のみんなも嬉しそうである。それにしても身体が軋む。筋肉痛になるかもしれない。
「狩場氏もお疲れであった。だいぶ神経を使ったようだな」
「いや、これは単純に疲れただけで……」
「先輩、もうすぐ授業始まりますよー?」
「あ、うん……」
まどかがニヤニヤしながらスキップのような足取りで席に戻る。可愛い悪魔め。くそっ。
「我々も席へ戻ろう。狩場氏、体調は大丈夫か?」
「体調はいいんだけど、身体が……」
「何というか、一気に老けましたな。あまり無理なさらず」
「ありがとう……」
──授業が始まっても、僕はあまり集中できずにいた。早く放課後になってほしい。
ところで、例のビックリマークである。
実のところ、現状では全くと言っていいほど表示されていない。機能しているかすら怪しい。
頭の上に表示されないのはもちろん、スマビュがバイブ的な感じで振動する訳でもない。一体、何の為の機能なのだろうか。
そんな事を考えていたら、ふと『ハードモード』という存在に改めて気が付いた。
黒い日記によると、この世界はハードモードで進んでいるらしい。
という事は、このビックリマークもハードモードと何か関係しているのかもしれない。表示されないなら最初から付けなきゃいいのに。まぁ、憶測なんだけどね。
ちなみに、現在のハート残数は2つ。
友好度に関していうと、ことにゃん・かがみん・玲香様の友好度が0ポイントになっている。あーあ。
その代わり、まどかは128ポイントでしゅり先輩が16ポイント。
しゅり先輩が少ないと思うことなかれ。本来はこれぐらいのスピードなのだ。
何せまだゲーム開始1週間半。行動だけでいえば5日目だ。どんだけ濃いんだよ。
でも逆に言えば、0ポイントだからと落ち込む必要はない。
超序盤だからこそ、今のうちに誤解を解けばいくらだって挽回できる。これ以上は下がらない訳だし、少しでも上げる事を考えればいいのだ。
ふと、右隣をみる。
ことにゃんが、教科書を見つめて固まっている。
いつ見ても、石造のように動かない。
まるで、プログラミングされたかのように。
……いや、実際にプログラミングされているからだ。
授業のシーンが、設定されていないからだ。
そう思うと、ことにゃんが急にロボットに見えてくる。
何気なく、僕は右後ろを振り返った。
まどかが、思いっきりうつ伏せで寝ている。
しゅり先輩とのやり取りで疲れたのかな。
……そうだよね。疲れて眠ってるんだよね。
後ろを振り返ってキョロキョロする。
みんな授業を聞いているようで、ノートを取ったり教科書を見たりしていた。
「狩場氏、どうしたのだ?」
加藤氏が小さく呟く。
「ごめん、何でもない。ちょっとね……」
「放課後の事か?心配するな。なるようになる」
「うん、ありがとう……」
そうじゃないんだ。
僕はいま、現実とゲームの狭間でおかしな気分になっている。
加藤氏はモブキャラだから自由に動いていて、ことにゃんやまどかはメインキャラだから動かない。
そんな突拍子も無い考えが浮かんでは消えて、頭の中を惑わせていく。
所詮はゲーム。
プログラミングの住民に、何を本気になっているんだ。
僕が頑張ったところで、運命なんて変えられない。
エンディングはすでにプログラミングされている訳だから、
いま僕が必死になっている行為は全部ムダなんじゃないだろうか。
……いや、プログラミングじゃない。
ことにゃんも、まどかも、生きている。
それぞれの感情があって、それぞれの意見があって、それぞれの人生がある。
……ゲーム製作者が考えた設定だから?
製作者の意図で、考えて動いているように見えるだけ?
笑顔も?涙も?怒りや悲しみの感情も……?
……きっと僕は疲れてるんだ。そんな事、今はどうだっていいじゃないか。
大切なのは、彼女達が幸せになること。
どんな形であれ、彼女達の役に立つこと。
プログラミングが何だ。製作者が何だ。
僕がこの手で。自らの手で。
彼女達を、救ってみせる。
2020/1/18
誤字報告承りました。
ありがとうございました。




