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頼り

 階段を降りて職員室と反対の方向へ。『3年2組』と書かれた場所がしゅり先輩のクラスとなる。


「3年生の教室って、なんか緊張するよねー!」


 と言いながら腕に引っ付いてニコニコするまどかは、側から見れば完全に彼女の振る舞いである。超恥ずかしい。


「ど、どうやって、入ればいいのかな……?」


「普通に『桜小路先輩いますかー?』って言えばいいんじゃない?」


「うん、そうなんだけど……」


「あ、先輩ってこういうの苦手?」


「ちょっとね……」


「そういう事なら、可愛い後輩にお任せ下さい!」


 同級生なんだけどなぁ。でも、こういう時めっちゃ頼りになる。


 まどかに腕を組まれたまま教室の前に到着。刹那、まどかは僕の腕から離脱して、教室の前のドアを勢いよくガラガラっと開けた。


「桜小路せんぱぁーーーい!い・ま・す・かぁーーー!?」


「わわっ、声大きいって……!」


 まどかの声が教室中に響き渡る。やり過ぎだよ。先輩達がザワザワと騒ぐ。


「しゅりちゃんのファンかな?」


「可愛い後輩じゃん。いいなぁ、桜小路さん」


「桜小路さん、後輩ちゃん来たよー」


 教室の隅に一際目立つ黒髪サラサラヘアー。澄ました顔のしゅり先輩がこちらに気付いた。


周りの友達に苦笑いをし、そのままこちらへ歩いてきた。


「やぁ少年。何か用かな?」


 しゅり先輩は迷惑そうな顔をする事なく、むしろ小慣れた感じで僕を見た。


「おや、そちらの女子生徒は……?」


「初めまして!宇月まどかと言います!」


 まどかが元気に敬礼ポーズをとる。


「キミが宇月まどか君か。話は聞いているよ。まさか少年が彼女を連れて登場するなんてな」


「か!?いやいや、だからこの子は彼女じゃ……」


「かっかかかかかか……!」


 僕が狼狽える横で、まどかが顔を真っ赤にして僕以上に狼狽ている。


「なんだ、違うのか。妙にお似合いだったから付き合い始めたのかと思ったのだが……。すまなかったな」


「お、おっおお、つっつき、つつ……」


 めっちゃ口パクパクさせてる。やっぱ弱いんだ、こういうの。


「ところで、私に何か用があるのだろう?」


「あ、そ、そうなんです。ちょっとだけお時間いいですか?」


「構わないが、ここで良いのかな?」


「ここだと、ちょっと都合悪いので……中庭でもいいですか?」


「ふむ、良かろう」


「じゃあ早速、行きましょう。まどか……大丈夫?」


「彼女っ……お似合いっ……つきっ……かのっっ……」


 俯きながら小さな独り言を呟くまどかの手を引き、僕達3人は中庭へ向かった。


体育館方面へ向かう通路の途中、中庭へ抜けられるドアがある。


中央には池があって、それを囲う様に大きな石が庭園風に置かれていて、とても美しい。


ちゃんと鯉も育てていて、『飼育部』という部活が放課後にエサを与えたり汚水を防いだりしているのだ。


僕達はその池の近くに並べられた4人掛け丸テーブルのイスに座った。


イスを少し動かしたので、僕とまどかがしゅり先輩に向き合う形となっている。


「わざわざありがとうございます。時間も無いので手短に話しますね」


「あぁ。相談事かな?」


「相談と言えば相談なのですが……」


 少し落ち着きを取り戻したまどかを横目に、僕は1度大きく深呼吸をした。


「……桜小路先輩は、異世界って信じますか?」


「異世界?宇宙とかパラレルワールドとか、そういう類か?」


「まぁ、そんな感じなんですけど……」


 やっぱり言い出しにくい。信じてもらえるのか……。


「か、狩場くんは、異世界から、来たんです」


「ほう……?」

 

 まどかが顔を赤く染めたまま、しゅり先輩を上目遣いで真剣な眼差しで見る。あれ、ちょっと涙目だ。なんで。


「狩場くん、スマビュを」


「あ、はい」


 言われるがままに懐からスマビュを取り出す。って、これ、見せるの……?


「これは携帯電話じゃなくて、『スマートビュー』っていう機械です。狩場くん、見せてあげて」


「いや、でも友好度とか書いてあるし……」


「これ見せないと信じてもらえないでしょ?私が補足してあげるから」


「そう言ってくれるなら……」


 僕はそのままスマビュの電源を入れ、しゅり先輩に渡した。


「とりあえず、下にどんどんスクロールしていってください」


「ありがとう。……ん?これは一体……?」


 しゅり先輩が不思議そうに眉間にシワを寄せる。


「これで特定の人物との友好度が分かるんです。その、僕のいる世界では、ゲームになっていると言うか……」


「えーっと、桜小路先輩!


狩場くん、クラスに好きな子がいるんです。


その子と付き合いたくて色々とがんばってるんですけど、嫌われちゃって……」


「ふむ。その話とこの機械に、何の関係が?」


「はい。狩場くんって、さっきも言ってた異世界から来たみたいなんです。


そこに書いてある女の子達が狩場くんの世界でメインキャラクターになっている人みたいで、


この中の人達と付き合う恋愛ゲームっていうのがあるみたいです」


「恋愛ゲーム……?」


 明らかにしゅり先輩が不審そうな顔をする。マズいな。


「いきなり何言ってるの、って思うかもしれませんけど、本当なんです。


私も最初は半信半疑だったけど……。狩場くんが真剣な目をして話す姿を見たら、嘘じゃ無いんだなって思いました」


 まどかはいつの間に、しゅり先輩の目をしっかりと見て話していた。


 僕のためにそんな顔をされたら、僕だって黙ってオロオロしている暇は無い。


「変な妄想話をする為に、わざわざ呼んだんじゃないんです。


まずは、僕が他の世界から来たという事を信じてもらえないと、話が進められなくて……」


「ふーむ……」


 しゅり先輩が顎に手を当てて俯く。やはり相当困っているのだろう。


「お願いです、桜小路先輩。狩場くんを信じてあげてください……!」


 少し涙目のまどかが、前に身を乗り出して訴えかける。


「……すまない。考えをまとめるには時間が無さすぎるよ。


もし放課後もう1度話ができるのであれば、その時に改めて話そう。良いかな?」


「はい、もちろんです!狩場くんも平気でしょ?」


「あぁ、は、はい!信じてもらえるなら、いくらでも待ちます!」


「ありがとう少年、宇月君。


最初に断っておくが、何も否定したくて時間を頂くのではない。


君達の事を信じたいから、自分を落ち着かせる為に時間を頂くのだ。


今は少々頭がパニックになってしまっている。本当に申し訳ない」


 少し苦い顔をしたしゅり先輩が頭を下げる。


「ちょ、やめて下さいよ!いきなりこんな話を信じろって言う方がおかしいんですって!」


「そうですよ!何でも信じちゃう私だって1週間くらいかかったんですよ!?」


「えっ、そうなの?なんかショック……」


「しょうがないでしょ!いきなり全部は無理だよー!」


「ふふふ……」


 しゅり先輩が口に手を当てて微笑む。


「安心したまえ。狩場少年は誠実で素直な人間だ。くだらない嘘を吐く男ではない事くらい分かっているよ。


それに、宇月君も私に信じてもらおうと真剣な眼差しで話をしている。


その心意気をむげにするような事はしない。


単純に、私の頭を落ち着かせる時間が欲しいのだ」


「しゅり先輩……」


 こんな時に思わず下の名前で呼んでしまった。だけど、本当に嬉しい。


「では、私は行くぞ。また放課後に、な」


 しゅり先輩はフッと立ち上がり、黒髪を颯爽となびかせながら立ち去っていった。


中庭の出入口で少しよろけた様に見えたが、錯覚という事にしておこう。


「……僕達も戻ろうか」


 僕は立ち上がり、イスを元に戻した。まどかも立ち上がったが、少し俯いている。


「桜小路先輩、本当に信じてくれるかな……?」


 まどかが顔を上げると、不安そうな表情で涙を浮かべていた。


「え、なんで泣いてるの!?」


「だって、本当のこと言ってるのに、信じてもらえなかったら悲しいじゃん……」


 ヤバイ、まどか本格的に泣く!


「うわぁ待って!大丈夫!絶対信じてくれる!しゅり先輩優しいから!めっちゃ物分かり良いから!」


「ほんとに……?」


「ほんと!超ほんと!ガチのマジでほんと!」


 すげぇ必死。僕の前で泣くのほんとヤダ。やめて。


「わかった……」


 まどかが下を向く。


 あれ?このパターンって、もしかして……。


「先輩のこと信じるから教室まで連れてってー!」


「うぐぁ!?やっぱり!!」


 まどかはタックルが如く僕に抱きついた。おっぱい当たる云々よりも痛い。身体全体が非常に痛い。


「授業遅れちゃうからー!早く連れてってー!」

 

「まって、骨折れる……」


 抱っこでもしろって言うのか。非力だから出来ない。悲しい。ぼく泣いちゃう。


2020/1/18

誤字報告1件承りました。

ありがとうございました。

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