証拠
コンコン、と部屋がノックされた。
「幸ちゃーん、起きてる?朝ご飯できたよ?」
「あ、ごめん、起きてるよ」
「あら、起きてたの。寝顔見ようと思ったのに残念。リビングで待ってるね♡」
寝てたら寝顔見られてたのか。別にいいけど恥ずかしいけどちょっぴり残念なのは何故だ。
先に着替えを済ませ、僕はリビングへ移動した。ママが作ったスクランブルエッグとトーストを頂く。飲み物は紅茶。貴族の朝食かよ。それにしても、相変わらず旨い。
いつもの様に食器だけを流しに置き、お菓子の入っている棚を開けて、小分けされている袋詰めのチョコレートを取り出した。
「あら、学校にお菓子持っていくの?」
「うん。たまには友達と食べようと思って」
「それなら、冷蔵庫にお友達から貰ったイタリアのチョコレートがあるけど、持ってく?」
「そんな高級な物いつの間に……」
「昨日貰ったのよ。お夕飯の後にみんなで食べようと思ってたのに、ママすっかり忘れちゃってたわ」
ママが頬に手を当ててしょんぼりとした顔をする。かわいい。
「本当にいいの?」
「もちろん!幸ちゃんがもっと青春を楽しめるなら、ママいくらでもあげちゃう!」
「そ、そっか。じゃあ、お言葉に甘えて……」
僕が持っていた小分けの安いチョコレートは、イタリアの老舗チョコレートへと変貌した。
白い箱に色々な種類のチョコレートの絵が書いてあって、バレンタインで本命チョコを貰ったような気分になる。貰った事ないけど。
謎のファッションブランドの袋にイタリアのチョコを入れ、小さく折り畳んでカバンの中へしまう。
急いで顔を洗ったり歯を磨いたりして、ママへの挨拶もそこそこに、僕は玄関の扉を開けた。
目の前の横断歩道を渡ってかがみんを待つ。こんなに胸がバクバクする朝は初めてだ。受験の朝より辛い。もう帰りたい。
1分も経たない内に、ファニマ方向からかがみんが歩いてきた。
僕を見るとニヤッとした笑みを浮かべ、速度を変えずにそのままこちらへ歩いてきて、僕の前でピタッと止まった。
「おはよう、狩場くん。逃げずに待っててくれたみたいだね」
かがみんが挑戦的な目で挨拶をする。
「水瀬さん、おはよう……」
「『かがみん』でいいの!」
「ご、ごめん!じゃ、じゃあ改めて。
おはようございます、かがみんさん……」
「『さん』もいらない!」
「は、はい!お、おはよう、かがみん……」
「うん、バッチリ!」
満足そうな表情のかがみん、僕のこと嫌ってるんじゃなかったの?
「さて。早速聞きましょうか」
一変、かがみんの表情がこわばる。切り替えはやっ。
「なんで、天音ちゃんの家を、知っていたんですか」
僕は、大きく息をふーっと吐いた。
「……今から変なこと言います。信じてくれますか?」
「内容によって、信じましょう」
「そうですか……」
これ信じてもらえないパターンだ。でも、正直に言うしかない。
「えーと……。初めて会った時に、僕が転生がどうのこうの、って言ってた事、覚えてる?」
「あー、なんか言ってたね。なんとなくだけど、覚えてるよ。それが何か?」
「えっとですね……。それが、深く関わってるんだけど、その、なんて言うか」
「歯切れ悪いなぁ。パッと言っちゃって!」
かがみんがイラついている。パッと言うとダメなんだよ……。
「あのー……。かがみんは、異世界って、信じる……?」
「……はぁ?」
わかりやすい反応。ですよねー。
「何度も言うけど、ふざけて言うわけじゃないからね?
ここだと邪魔になっちゃうし、一旦いつもの公園のベンチで話してもいい?」
「別にいいけど。……絶対に嘘言わないって約束してくれる?」
「約束する。全部、正直に話す」
僕は信じてもらえるよう、かがみんの目を真剣な眼差しで真っ直ぐと見た。
「……よろしい。ベンチに行こうか」
目を細めてニヤつくかがみんを横目に、二人で例のベンチに移動して座った。
「じゃあ、正直に全部話すね」
「うん。頼むよ、狩場ちゃん」
なんで変な会社の上司が呼びそうな言い方するんだ。信じてもらえりゃ別にいいけど。
「……まず始めに。僕は、異世界から来ました。嘘でも妄想でも何でもなく、真剣に言ってます」
「ほう。とりあえず、そのまま聞こうか」
「はい。それで、僕の世界では、この世界がゲームになっています。オッケー?」
「続けて」
「ありがとう。そのゲームの中で、みんなの情報を全部覚えて、天音さんの家に行きました」
よし、とりあえず伝えた。どうよ?
「……で、なんで天音ちゃんの家に行った訳?」
「その日の前日に、天音さんに失礼な事しちゃったの」
「どんな?」
「映画館の前で、てる……西園寺くんと天音さんを待ち伏せして、
天音さんにいきなり『悪い事したから謝る』とか言い出したの。
それで天音さんがパニックになっちゃったんだけど、
僕が『怒ってないならいいやー』みたいな事言って、
その場からサッといなくなっちゃったんだ……」
自分で言っててサイコパス。改めて僕ってヤバいな。
「それを謝ろうと思って、本人の家に行きました……」
「ふーん……」
かがみんは首を縦に細かく振りながら、そのまま正面を向いた。
何かを考えるように、目を細めて腕を組み、真っ直ぐと前を見る。
かがみんは動かない。何を考えているのだろう。
ふいに、かがみんが首をこちらに向けた。
「本当に別の世界から来たなら、証拠出してよ。あっちの世界の物とかあるんでしょ?」
「いや、それが何も無くて」
「じゃあボクにしかわからない秘密、何か言って」
うわ、マジか。一番最悪な展開だ。
まぁ、予想はしてた。信じてもらえないなら、証拠出すしかないもんね。
「……どこまで言っていい?」
「全部」
「全部って、本当に全部いいの?」
「良いって言ってるじゃん。早く言って」
イラついてるなぁ、かがみん。
仕方ない。どうなっても知らない。
「……小学校に入って初めて出来た友達に、裏切られた事がある」
「……!」
かがみんが目を見開き、表情が一気に緊張する。
この話をするのは嫌だけど、信じてもらうためだ。
アフターケア、できるかな……。




