葛藤
日記を全て読み終わり、頭の中をゆっくりと整理させていく。そろそろ朝ご飯だけど、まだ時間はある。
気持ちを落ち着けるために、まずは今日の1日の流れから想定していこう。
最初に、朝イチでかがみんに全てを話すという超難関イベントが発生する。
しかも、この前のように輝樹が来る可能性だって充分にあるのだ。
それに火曜日の朝、みんなで話し終わった後に隣の席で意味深に微笑んでいたのだ。恐ろしいったらありゃしない。
それでも、まずはかがみんに信じてもらう方法を考えるのが先決だ。
迂闊にかがみんの過去を話せばストーカー度マックスだし、僕が初日にあわあわ言ってた言葉の意味を、改めてちゃんと説明して信じてもらえるかどうか……。
仕方ない、考えるだけ時間の無駄だ。正直に話してダメならまた考えよう。
その後は、無意識な僕の超失礼な態度のお詫びだ。まどかと親衛隊のみんなに、本当に迷惑をかけてしまった。
幸い家にお菓子があるから、持っていってみんなにあげよう。別に校則違反じゃないし。
あと重要なのが、まどかと一緒にことにゃんの誤解を解くこと。ここで確実に輝樹が邪魔してくるから気を付けないといけないな。
でも、まどかがいるから安心だ。
そう、まどかが……。
……。
……僕は。
……僕は、まどかに恋をしているのだろうか。
こんなに話しやすくて、一緒に居て楽しい女の子は今まで会った事がない。
それにスマビュを見れば、少なくともまどかは僕を嫌っていない事がわかる。
何よりこの世界は恋愛ゲームである。
無理に、ことにゃんを攻略する必要なんてない。
だったら、まどかでいいじゃないか。
……ほんとうに?
決断をしようとすると、なぜか疑問が浮かぶ。
純粋にことにゃんが好きだから、というのもあるし、
まどかに目移りした自分がことにゃんを裏切ってしまった、という後ろめたい気持ちにもある。
それよりも、心の中で思ってしまうこと。
まどかに恋をした事を、認めたくない。
まどかが好きな自分を、認めたくない。
なんだか妥協している気がして、輝樹に負けた気もする。
なによりも、ことにゃんを愛せなかった自分を恥じてしまう。
部屋には沢山のことにゃんグッズ。
ファンミーティングも欠かさずに行った。
目を瞑ったまま全ルートを完璧に再現できるくらいやり込んで、心からことにゃんを愛していると思った。
だけど、それが1週間。
たった1週間で、まどかに恋をしてしまう自分がいる。
その事実を、本当に受け入れたくない。
しかも、輝樹という最悪の主人公にことにゃんを奪われた挙句、心までズタズタにされて。
本当に、ことにゃんを放っておいて、まどかと過ごしていいのか?
……いやいや、あり得ないでしょ。
このまま、ことにゃん放っておくとか、無いでしょ。
よーく思い出せ、自分。
輝樹はことにゃんを、何て言っていた?
メールをシカトするとリストカット?
自分が他の女の子と話してるとグループでシカトして孤立させる?
付き合い慣れるとワガママになる?
ヤッてる時は首を絞めないとイケない?
輝樹がことにゃんを、調教した?
……ふざけんな。
これらが仮に本当の話だったとして、輝樹自身が、ことにゃんを悲しい存在に変えてしまったんじゃないか。
どれもこれも、輝樹がことにゃんに寂しい思いをさせた結果であり、ことにゃん自身は、ただ傷心しているだけだ。
つまり。
僕の知らない所でことにゃんは、何百回も、何千回も、輝樹によって傷付けられている。
のうのうと僕がゲームを楽しんでいる時も。
大学でノートだけ広げてボケーッとしていた時も。
『きみあい』のライブで叫んでいた時も。
裏の世界で、ことにゃんは傷付き、犯されていたのだ。
そんな中、僕は運良くこの世界に転移する事ができた。
ならば、今回こそは。
今回こそ、僕が助けてあげないと、ことにゃんはまた、不幸のどん底に叩きつけられてしまう。
そうだ。
僕には、ことにゃんを救うという使命があるのだ。
この世界で恋愛を楽しんでいる場合では無い。
僕がやるべきこと。
それは、ことにゃんを守ること。
──決めた。
僕は、この世界での青春を捨てる。
青春を捨てて、ことにゃんを救いたい。
この世界の誰よりもことにゃんを理解している僕が、ことにゃんをしっかりと、救ってみせる。
……まどか。
仲良くしてくれていて、ありがとう。
僕は、全力でことにゃんを救います。
だから、まどかは、僕を助けて下さい。
ことにゃんの為に動く僕を、助けて下さい。
今日、改めて本人に言おう。
僕がことにゃんと付き合えるように、全力で応援してほしい、と。




