覚悟
帰りがいつも遅くなってしまう。家に到着する頃には、すっかり日が暮れていた。
いつも申し訳ないなぁ、と思いつつ玄関のドアを開ける。
「ただいまー……」
「幸ちゃん!!!!!」
開けた瞬間、ママが勢いよく飛び出してきた。
「うわっ!?マ、ママ!?」
そのまま僕は全身を思いっきり抱きしめられた。うひゃあ。
「幸ちゃん!良かった、元気そうで……」
「へ?ど、どういうこと?」
「先生から連絡があってね、体調が悪くて午前中はお休みしたって聞いたから……もう心配で心配で……」
忘れてた。そう言えばそうだった。
「全く、ダメじゃないか勝手に休んじゃ」
奥からパパが出てくる。帰ってくるの早いな……ってもう外は暗いか。
「今度から気分が悪くなったら1度家に帰ってきなさい。
途中で意識を失ったんじゃないかって、ママはずっと心配していたんだぞ」
「ごめんなさい……」
本当に意識失ってたんだよなぁ。
「具合はどうだ?寒気がしたり腹が痛かったりしないか?」
「うん、大丈夫」
「あぁ幸ちゃん……何か出来ることがあればなんでも言ってね……」
ママは僕から一向に離れようとしない。
ママが言う『なんでも』って、本当に見境なく『なんでも』な気がして、ちょっぴり怖い。おっぱい所の騒ぎじゃなあびゃびゃびゃ。
「幸太郎、夕飯は食べられそうか?」
「うん、平気」
「よし、パパが特別に手作りのフレンチをご馳走しよう。
ママもいい加減、幸太郎から離れなさい」
「うん……うん……」
抱きしめたままコクコク頷いてるけど、離す気ないでしょ。ママかわいい。たすけて。
何とかママから離脱した僕は着替えを済ませ、宣言通りパパが作った手作りフレンチを3人で食べた。
どこで手に入れたのかわからないが、人生初のフォアグラと仔牛肉の料理をたっぷりと堪能し、あっという間に寝る時間になった。
部屋の机に座り、スマビュを開く。
ハートは全て真っ黒になっていて、イベント進行状況の欄も『放課後・桜小路朱里 終了』となっていた。
ここで、1つの疑問が湧く。
ゲーム内であれば、イベントマークを進行しようとすると『ハートが足りません』と表示され、会話をする事ができない。
しかし、この世界で実際に生きてみて思った。
会話の途中で、強制的にイベント会話に突入することが可能なのだ。
また、意図せず向こうから話しかけて来て、そのままハートを消費してしまう事も多々ある。
では、もしもハートが無い状態でイベントに突入した場合、どうなってしまうのか。
この前の様に突然ブラックアウトしたり、会話しているキャラクターが急にその場からいなくなったりするのだろうか。
僕が次に意識を取り戻すのは金曜日。
その1日を使って試してみるのも、ありかもしれない。
さて。それよりも、だ。
今から無意識の僕に謝罪文を書かなければならない。
知らない間に一部の生徒からストーカー扱いされ、除け者にされているのである。
さぞ、怒り散らすであろう。
早速、机の上にある黒い日記を開く。
今の僕が思うままに、筆を進めていった。
「無意識の僕へ。
ごめんなさい。大変なことになってしまいました。
ゲームの知識を乱用したせいで、みんなからストーカー扱いされて、さらにことにゃんと玲香様から嫌われてしまいました。
でも、代わりにまどかとしゅり先輩が助けてくれたので良かったです。
明日、親衛隊のみんなが心配して、色々と聞いてくると思います。
そしたらまずは、みんなでまどかの所へ行って下さい。
そして、昨日の僕が今までの事を全部話して良いと言っていた、と伝えて下さい。
その時、絶対に輝樹に聞かれないようにお願いします。
3日間でクラスの誤解が解ければ一番良いですが、あんまり無理しないでください。
無意識の僕が楽しく学校生活を送れるよう、心から願っています」
……ふー、できた。
文章力が無いのは仕方ないとして、これで大丈夫。
そう。僕は覚悟を決めたのだ。
親衛隊のみんなにも、僕が異世界の住人であると知らせる。
僕が直接言ってもいいが、どう話をしても冗談と取られてしまう可能性が高い。
ならば、本当に申し訳ないが、まどかの力を借りざるを得ない。
何故ここまで、まどかを信用できるのか。
その答えは、友好度にある。
先程スマビュをスクロールしていって、心臓が止まりそうになった。
友好度、宇月まどか、125ポイント。
ゲーム開始1週間にして、ノーマルエンド確定。
尋常じゃない好感度の爆上げだ。
色々な要因が考えられるが、1つだけ確実に言える事がある。
まどかは僕の事を、心から信用してくれている。
普通はゲーム云々の話をしたら、
気持ち悪い妄想として受け取られるか、変な世界観を持つオカルト野郎と認識されて、
適当に相槌を打たれて、それで終いである。
でもまどかは、僕の話を本気で信じてくれている。
あの時、まともに慰める事も出来なかったのに、僕の事を理解しようとしてくれているのだ。
今度会った時に、改めてちゃんとお礼を言おう。
忘れないように、日記の最後に僕はこう付け加えた。
「P.S. まどかに会ったら、昨日の僕が金曜日に改めてお礼が言いたい、って言っていたと伝えて下さい」
後は忘れずに『黒い日記を見てね』と適当な紙に書いて……。
よし、オッケー。
目を覚ましたら金曜日になっているのだ。
無意識の僕はどんな3日間を過ごすのだろう。
不安だけど、自分を信じるしかない。
ことにゃんの件もそうだけど……。
まどかだけは、絶対に傷付けないでね。




