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 確かに僕は、かがみんと玲香様が友達になれるように仲を取り持つ約束をした。


しかし、僕は輝樹に邪魔されたのだ。こんな形で約束を破るのは本望じゃない。


「水瀬さんとお友達になれるように話をする。確かにそうおっしゃいましたよね?」


「……ごめん。途中、西園寺くんが割り込んできて、話が出来なくて」


「人のせいにするおつもりでして?」


「いや、そういうわけじゃ……」


「本日の朝、西園寺さんが水瀬さんを連れて私の所へ来て下さいましたの。


狩場さんが水瀬さんに『ちゃんと友達になれ』と、お説教をしたそうですわね」


「それは……」


「さらに。水瀬さんから私の名前を聞いたと仰っておりましたが、水瀬さんは私の話を一度もしておられない様子。


お嬢様の噂なんて、学校の何処にも広まっていなかったですわ。これは一体、どういう事ですの?」


「いや……えっと……」


 ヤバい。本格的に、えらい事になった。


「西園寺さんは貴方の代わりに、それはそれは丁寧に水瀬さんを紹介して下さいました。


お陰で、以前にも増して水瀬さんと交流を深める事ができましたわ。


それに比べて。


貴方はご自身の利益の為に、嘘を並べて私に近づこうとしているのだとか。


はっきり申し上げますが、私は貴方のようなストーカーには屈しませんことよ!」


 輝樹のやつ、玲香様に何を吹き込んだんだ。



「狩場さん。今の話って、本当なのですか……?」


「え、こ、ことにゃん!?」



 間が悪すぎる。何故このタイミングで側を通ったんだ。


「盗み聞きするつもりは無かったんです。


だけど、お二人の会話が聞こえてしまったので、つい……」


「貴女、この方のお知り合いで?」


「はい。一緒のクラスの天音琴葉です。狩場さんはとっても優しくて、素敵な方なんですよ?」


 ことにゃん……。


「貴女が天音さんですか。西園寺さんから話は聞いております。


よろしくて?


この男に騙されてはなりません。


この方は個人情報を突き止め、貞操を奪おうとする輩なのです」


「ちょ、ちょっと待って!そんな犯罪者みたいなことしないよ!」


「お黙りなさい。昨日、天音さんの住むマンションから出る所を西園寺さんが見たと仰っておりましたが……お間違いなくて?」


「なっ……!」


 見られてたのか。ヤバい。ヤバすぎる。


「狩場さん……嘘……ですよね……?」


 怯えた表情のことにゃんが僕を見る。


 なんて答えればいいんだ。


「えっと……その……」



「私は、証拠写真を見せてもらいました」


「はあっ!?」



 思わず大きな声を出す。刹那、周囲の目線が一気に僕へ集まった。


「貴方が天音さんのマンションへ入る所を西園寺さんがたまたま目撃して、いつでも通報できるように見張っていたらしいですわ」


「だけど、私が西園寺くんと一緒にお昼ごはんを食べた時には、そんな話は一言もしていなかったです……」


「ならば。ご本人から直接見せてもらってはいかがかしら?ねぇ、西園寺くん?」



 玲香様が振り向く。



 群衆に紛れて、輝樹がニタニタと立っていた。そのままこちらへ歩いてくる。



「黙っててごめんね、天音さん。怖い思いをすると思って話さなかったけど……。


こうなったら、仕方ないよね。ほら、これが証拠だよ」


 輝樹がポケットから携帯を取り出す。片手で軽く操作をし終え、ことにゃんへ手渡した。


「なんで学校に携帯持って来てるの!?ダメでしょ!?」


「天音さんが危害を加えられた時に、証拠になる物を持っていないとダメだろう?


校則も大事だけど、ストーカー被害に遭う友達の事を考えたら、隠してでも持っておかなくちゃね」


 輝樹の目がギラギラと光る。


 あの獲物を狩るような眼が、僕だけに向けられる。


「うそ……本当に……そんな……」


 携帯を見つめることにゃんは、言葉を失っていた。


「私……狩場さんに……住所なんて教えてない……」


「わかったかい?狩場くんは、こういう男だ」



 ……終わった。


 何もかも、終わった。



「天音さん。


俺が、この男から君を守る。


霧島さんはもちろん、水瀬さんも協力してくれるはずだ。


先生に言うと大事(おおごと)になるから、今は黙っておいた方がいい。


だけど、もしも事を起こした時は……」


 輝樹が僕の方へガッと顔を向ける。



「俺が、君を少年院へぶち込んでやる」



 実に楽しそうな表情をしている。


 勝ち誇った顔とも違う、狂気とも違う、笑顔。


 まるで、ゲームを楽しむ少年の様な笑顔。



「天音さん。まさかとは思うけど、このあと狩場くんと帰ろうだなんて、思ってないよね?」


「……ごめんなさい。まだ信じられなくて、何を考えていいか……」


「大丈夫。俺の側にいれば、危ない目には遭わせないから」


「ありがとうございます……西園寺くん……」



 もう見たくない。


 この光景は僕にとって、地獄そのものだ。



「霧島さんもありがとう、悪事を暴いてくれて」


「お礼など要りませんわ。当然の事をしたまでですのよ!オーッホッホッホ……」


 玲香様がアゴに手の甲を当てて高らかに笑う。


「狩場くん。


いま、君の周りには大勢の証人がいる。


この状況で、まだ天音さんに近づこうとするのかな?


諦めるなら、今しかないからね?


それじゃあ行こうか、天音さん」


 

 輝樹がことにゃんと肩を組むようにして、二人は階段を降りていった。



 ザワザワと周囲の声が聞こえる。


 

 あいつヤベーよ。


 本物のストーカー初めて見た。


 こんな人が学校にいるなんて怖い。


 近づいたら私もストーカーされちゃう。


 頭おかしいんじゃないの。



 ……僕はもう、この世界で生きていけないのだろうか。


 味方なんて誰もいない。


 悪者を見る様にみんなが僕を見る。


 死ねば、現実の世界に戻れるのかな……?



「……狩場せーんぱいっ?」



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