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五十嵐美波

 保健室とヤンキーはセットなのだろうか。っていうか、こっちこそ誰だお前。


「この子ね、女の子と喋るの苦手なんだって。どうせ美波ヒマでしょ?」


「え、ヤダ。普通にダルいんだけど」


「先生これから職員室行かなきゃいけないんだよ。代わりに喋ってて」


「うわ、ダッル。マジ最悪」


「じゃ、あとよろしくー」


 そう言うと、楓先生は謎の資料の束を持って保健室から去っていった。



 ……あぁ、大凶だぁ。今すぐ逃げたい。



 ヤンキーがイスに座り、足を組んで携帯を弄り出す。


 そして、無音の時間が訪れる。


 急に喋れって言ったってこんなヤンキーと何を話せばいいんだ。楓先生、悪魔かよ。


「……あのー」


「なに?」


「あー……。け、携帯って、学校に持ってきちゃ、ダメなんじゃ……?」


「別によくない?」


「あ、え……ごめんなさい……」


 声のトーンがブチ切れてる。たすけて。


「僕、狩場幸太郎って言います……」


「で?」


「え、それだけです……」


 無理。ほんと無理。


「あのー……は、話し相手に、なってくれませんか?」


「うん」


「……」


「……」


 お願いします、なんか喋って下さい。


「……お、お名前は……?」


「五十嵐美波」


「あー、い、いい名前ですね」


「……」


「……」


 携帯見ないで僕見て下さい。あ、でも怖いから携帯見てていいかも。


 『五十嵐』は現実の僕の周りには結構いる。って事は、当たり前だけどモブキャラだ。


ヤンキーのモブキャラ……うん、要らない。ゲーム制作者を恨もう。こんにゃろ。


「……てかさ」


「はいっ!!」


 おぉ!喋った!


「普通にキモいんだけど」


「ぐあ!?」


「ぐあ、とかありえないんだけど。ヤバっ」


「はう……」


 やめて。泣いちゃう。


「童貞卒業できないよ?」


「は!?はうあ!?」


「だからキモいって。さっき普通に聞こえてたから」


 いや知らんて。気付かないって。


「ごめんなさい!気持ち悪い話してほんとごめんなさい!」


「そこじゃないし。てかあたし童貞とか気にしないから」


「へ……?」


 会話が迷子。パニックすぎる。


「えーっと……。つ、付き合ったこと、あるんですか……?」


「えっとねー」


 携帯を片手に考えるように上を向く。なんか食い付いてくれた。


「5人くらい?」


「あ……」


 ガチで別次元の人だ。


「今でも遊び行ったりとかするけど」


「わ、別れた人と?」


「うん。普通じゃない?」


「あー……」


 普通なんだ。感覚が全くわからん。


「もういい?」


 眉間にシワを寄せてこちらを凝視する。


「うん……大丈夫……です……」


「そっ」


 五十嵐さんはスッと立ち上がり、そのまま奥のベッドへ戻ってカーテンを閉めた。


「あのー……。あ、ありがとうございました!」


 返事は無い。きっと聞こえてるから、まぁいいだろう。



 キーンコーンカーンコーン……



 約5分後、学校のチャイムが鳴る。


 それと同時ぐらいで、楓先生が戻ってきた。


「ごめーん、遅くなった!」


「いや、大丈夫です」


「美波と話せた?」


「まぁ、一応……」


「そっか」


 会話したって言っていいのかな、あれ。


「美波ー?」


 楓先生が叫ぶと、奥のカーテンが開いて五十嵐さんが歩いてきた。


「なーに?」


「この子どうだった?」


「キャバクラの客みたいだった」


「働いたこと無いでしょー?イメージだけで言わないの」


「だってキモいんだもん。言葉とか動きとか」


 あの、僕、目の前にいるんですけど。


「あたし友達とご飯食べるから戻るね」


「ん。あんまサボんなよー?」


「はーい」


 そう言うと、五十嵐さんは僕に見向きもせず、保健室の扉をガラガラと開け、そのまま何事もなく立ち去った。



 なんなの、あのヤンキー。


 もう二度と絡みたくない。


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