運命
不安なんてもんじゃないぐらい不安だが、占いばあさんの助言は聞いておいた方が良いだろう。
大凶の効果がすぐに現れないよう、祈るような気持ちで学校へ向かう。
占いの館を出たら何か起こるのがいつものパターンだ。怖い。怖すぎる。死にたくない。
刃物が風で飛んで来ても大丈夫なように、カバンを前に持って身体を守る。
さらに転ばないように、お年寄りもビックリするぐらいの牛歩で進んだ。
無事に歩道橋へ到着したが、突風が吹いて上から道路へ転落して、車に轢かれたら大変だ。
取っ手部分を片手で掴みながら、落ちないように細心の注意を払いながら渡る。
今だけは、向かいから歩いてくる親子すら、殺人鬼に見えてしまう。
無事に歩道橋を渡り終え、左右をこれでもかと見渡しながら路地裏へ。
学校へ到着する頃には、すでに4時限目が始まる時間になっていた。午前休憩が無くなってしまったが、命には替えられない。
下駄箱でようやく一息ついて深呼吸。とりあえず死なずに来れてよかった。
このまま教室へ行くのもいいが、考えてみれば無断欠席状態である。
スマビュの回収も含め、明智先生へ会う為にそのまま職員室へと向かった。職員室の雰囲気って苦手なんだよなぁ……。
「失礼しまーす……」
「あら?狩場くん?」
職員室の扉を開けると、すぐに奥から明智先生が僕の所へ駆け付けた。なんか安心。
「大丈夫?西園寺くんから、気分が良くないからおやすみって聞いたけど……」
輝樹め、勝手に休み扱いにしやがって。
「元気になったので大丈夫です。遅れてすみませんでした」
「念のため、お昼まで保健室で休んでいなさい。無理そうなら今日は帰っていいから」
「いえ、大丈夫ですので……」
「無理してまた体調崩したら大変よ?保健室だけでも行くこと。わかった?」
「は、はい……」
「それと。没収した携帯電話は預かってるから、放課後取りにくるように」
「え、今じゃダメですか?」
「当たり前じゃない。学校で使わない保証なんて無いでしょ?」
「そんなぁ……」
「そんなぁ、じゃないの。
最初から学校に持って来なければいい話でしょ。忘れずに取りに来るのよ?」
「はい……」
あーあ、また設定できなかった。
ハートの消費は頭で覚えれば良いから、まぁ仕方がない。
しかし、イベントの確認ができないのは結構な痛手だ。
でも、この世界で初めて保健室に行く用事ができた訳だし、これはこれで良しとしよう。
職員室を出て保健室へ。廊下を真っ直ぐ進むだけなので迷う必要がない。
ゲームの中でも保健室は度々出てくる。ここにも美人先生がいるはずなのだが……。
「失礼しまーす」
ノックをして扉を開ける。
「お、どうした?」
案の定、ウェーブのかかったミディアムヘアーの光盛楓先生が座っていた。
パッと見は茶髪だが、毛先になるにつれて紫色になるので、髪の毛は綺麗なグラデーションが出来上がっていた。
「ちょっと気分が優れないので、保健室で休むように言われました」
「悪い物でも食べた?」
凛々しい目が探偵の様に光る。
「いや、特には……」
「んー、じゃああれか。恋の病、ってやつだな?」
「え!?」
「はい当たったー!多感な時期だからねぇ。そういう子、よく来るのよ。はい、座った座ったー」
満足そうな笑みを浮かべる先生を見ながら、僕は先生の正面へ座った。
ゲームではあまり感じなかったけど、楓先生のノリって実際に体験するとかなり苦手な部類だ。
「で、相手の子はどういう系?」
「いや、別に相談しに来た訳じゃ無いんで……」
「いいから答えて。かわいい子?綺麗な子?」
えー、相談するのやだ……。
「えっと……。かわいい子、ですかね」
「へー、かわいい系がタイプなんだ」
「まぁ……」
慣れてないの。えぐらないで。
「もしかして、人にこういう相談するの初めて?」
「はい……」
「溜め込まないで言っちゃいなさい。で、付き合いたいの?」
「つ!?つつ、付き、付き……」
「あら、童貞だったか」
「どぶぉ!?!?!?」
「いいの、恥ずかしがらなくて。まだ高校始まったばかりでしょ。童貞捨てるチャンスなんて山ほどあるんだから」
そうじゃない。
そうじゃなくて、なんて事を言い出すんだ。楓先生って、こんな人だったっけ?
「先に言っておくけど、先生はダメだよ?ショタには興味ないから」
「はう……」
「顔真っ赤じゃん!ウブだなぁ」
そう言うと、楓先生はケタケタ笑った。
「女の子と喋るの、あんまり得意じゃないでしょ」
「はう……」
「おっぱいとか、すぐ意識しちゃう感じ?」
「はう!はうぅ……」
「あのね。えっちな気分になるのって恥ずかしい事じゃないし、男ならおっぱいに目が行くのも当たり前。
あたしなんか『また見てるなぁ』くらいにしか思わないし。
だから、キミみたいなタイプが付き合うには……。まずは女の子に慣れる事から始めようか」
いきなりすぎて頭に何も入ってこない。
なにこれ?新手の拷問?
「美波、ちょっといい?」
……ん?
「アンタさ、この子の話し相手になってくれない?」
奥のベッドのカーテンが開く。
長身の女の子がこちらに歩いてくる。
おでこを出したロングヘアー。
楓先生に負けないウェーブ。
限りなく金に近い茶髪。
これは、僕の最も苦手なタイプ……。
「え、だれ?」
ヤンキー。まごう事なき、ヤンキーだ。




