先行き
「えっ……?」
急になに言い出すの。怖いこと言わないで。
「規定事項というやつだ。なぁに、落ち込む事は無い」
「いやいや、そういうの教えてよ!」
「狩場幸太郎。私との時間を終えたら、まずは占いの館へ向かうのだ。
そこで婆さんから似たような話を聞くと思うが、とりあえず心に留めて置きたまえ」
「なんなの?アンタ占いばあさんの化身なの?」
「全く以って関係ない。私が言いたいのは、独りで悩むなという事だ。日が暮れるまで公園で落ち込まれたら私が困る」
「なんでアンタが……」
「前にも言ったが、君にこの世界で楽しんでもらうのが私の役目だ。君を信じるしかないのだよ。
システム的に私が手助けできる事は残念ながらもう無いが、君ならきっと、この世界で無双できるはずだ」
なんか言いくるめられてる気がするんだよなぁ。何者なんだろう、コイツ。
「なお!」
「うわ、出た!」
「この記憶は!」
「めんどくさいから記憶消さな」
「一部を除いて、消滅する!」
──気が付くと僕は、仰向けになってベンチの前で寝そべっていた。
時計を見ると、まもなく1時限目が終わろうとする時間であった。
僕がショックで倒れていた間、このベンチで休みたかった人もいただろう。
誰かの憩いの時間を潰してしまって、本当に申し訳なく思う。
とりあえず、ここから立ち去ろう。でも、このまま学校へ行ったら僕のメンタルが保たないかもしれない。
そうだ、こんな時は占いばあさんに相談しよう。
僕は詐欺に騙されるタイプなのだろうか。すっかり占いばあさんにのめり込んでいる気がする。そのうち『壺買え』とか言われたらどうしよう。
だからと言って頼る人もいない。僕は公園を抜けて、占いの館へと向かった。
「いらっしゃい。この時間は学校じゃないのかい?」
占いの館へ着くと、占いばあさんがいつものスタイルで座っていた。この体制で寝てるんじゃないかと思うぐらいに昨日と一緒だ。
「それが、朝からまた心が折れるような事がありまして……」
「ほう、可哀想に……」
珍しく占いばあさんが心配そうな顔を見せる。なんか不思議な感覚だな。
「幸太郎は悪い奴じゃあ無いのだけれどもね。気の毒になぁ」
「ありがとう……ごじゃぃましゅ……」
溢れる涙を抑えられない。なんて優しいお婆さんなんだろう。
「何があったかは聞かん。だが、1つだけ覚えておけ。
チャンスと言うのは、必ずどこかで訪れる。
そして幸太郎には、それを掴む力がある。
安心しな。アタシャ幸太郎の味方だ」
「ひゃい……ばがりばじだ……」
「おろ、鼻水が出ておるぞ。ほれ、これで鼻をかみんさい」
占いばあさんが懐から出したポケットティッシュを借り、何度か鼻をかむ。
「……ごめんなさい」
「何を謝るか。ほれ、占ってやるから待っとれ」
いつもの様に水晶の前に手をかざす。結果を知るのが今までで一番怖い。
「今日の運勢は……」
占いばあさんが苦い表情をする。待って。
「……本当に申し訳ない。大凶だ」
あああああぁぁぁぁぁ……。
「……すまないね。神様が決める事だけぇ、アタシにゃ結果は変えられん」
「……わ……」
「幸太郎。恐らく死ぬような事は無いはずだ。しっかりと学校へ行って、1日を終えんさい」
「……」
「ありきたりだが、止まぬ雨は無く、熱さは喉元を通り過ぎれば忘れちまう。
濡れたとて、火傷を負ったとて、それは必然の不幸だ。
今は耐えろ。強く強く耐えて、最後にしっかり勝ちゃあいい」
「……はい」
「これは悪魔払いで有名な『月神様』の厄除け御守だ。これを幸太郎にやろう」
そう言うと、占いばあさんは厄災を除けるという真っ赤な御守を僕に見せた。
「いいんですか……?」
「かまわん、かまわん。無いよりはマシだろうて。カバン、貸してみな」
言われるがままにカバンを渡す。占いばあさんはカバンの横にあるでっぱり部分にしっかりと御守の糸を結び、僕へ返した。
「これで良し」
「……なんか、色々とすみません」
「そりゃあこっちの台詞だ。悪い事があった後の大凶はとてつもなく不安だろうが、気をしっかり保てよ」
「はい。ありがとうございます」
「気ぃ付けてな」
気を遣ってくれたのだろうか、僕は占いばあさんに笑顔で見送られた。
それにしても、この御守を見るのは初めてだ。ゲームには絶対に登場していない。
占いばあさんが僕を思って渡してくれた、大事な物なのだろう。
何故ここまで良くしてくれるのかはわからない。
だけど、僕が人の優しさを受け取った様な気分になっているのは確かだ。
ここはミラクルプリンセスの世界。
だけど、この世界の人々は共存しながら生きている。
ゲームの世界であって、ゲームの世界じゃない。
ほんの少しだけ、この世界での生き方が、見えてきたような気がする。




