友達
正しい選択をするには『友達』というワードがポイントとなる。
かがみんのキャッチフレーズである『苦手なタイプは特に無し。会ったら誰でもお友達』という文言。
この『会ったら誰でもお友達』という部分に、彼女の闇が隠されている。
この言葉の真の意味。
『会ったら誰でも、お友達のように振る舞える』
つまり、本当の意味での友達がいない事を示しているのだ。
確かに人付き合いは良いし、誰とでも分け隔てなく話をすることができる。
しかし、少しでも深く関わろうとすると、彼女は無意識にその人を避けるようになってしまう。
決して人見知りではない。
しかし、心から信頼できる友達はいない。
だけど、人を信用できない訳ではない。
1度でも仲良くなった人を、何かの拍子で傷つける事を、彼女は恐れているのだ。
実際のゲーム内でこの事実を知るのは当然ながらまだまだ先。初見殺しと言われる所以がここにある。
さて、以上を踏まえて選択肢を選ぶとすれば、答えは1つしかない。
それが……。
「霧島さんは人付き合いが苦手だから仕方ないよ」
僕の口が開く前に、馴染みのある声が耳に響く。
……えっ?
待って、嘘でしょ?
その選択肢は、僕が言うべき言葉だ。
なぜ、なぜ──。
「あれ、西園寺くん……?」
なぜ、輝樹がここにいる。
「ごめんね、割り込んじゃって。先週、霧島さんと話をした時に聞いたんだ」
「そうなの……?」
かがみんが顔を上げ、横にいる輝樹の方を向く。
「いわゆる転勤族みたい。ご両親の都合で各地を転々としていて、友達を作ってしまうと別れるのが辛いみたいなんだ」
「それじゃあ、霧島さんもいずれは……?」
「ううん。高校へ入学したら簡単には転校できないから、卒業するまでここに住むって聞いた。
だから、産まれて初めての親友を作りたいみたいなんだ」
あまりの出来事に口を割って入っていけない。いつの間に、そんな会話を……。
「でも、ボクが相応しい親友になれるか不安だよ……」
「俺も出来る限りサポートするからさ、もっと仲良くなってあげてよ。水瀬さんなら、きっと大丈夫!」
「西園寺くん……!」
やられた。完全に、やられた。
「ところで狩場くん。誰とでも仲良くなれる水瀬さんに『ちゃんと友達になれ』だなんて、ちょっと失礼じゃないかい?」
「な!?勝手に輝樹が割り込んできたんでしょ!?」
「……ボク、ちょっと傷付いちゃったな」
「かがみん待って!話を聞いて!」
「確かにボクは『仲良し』っていう言葉を使ったから、誤解するのはわかるよ?
狩場くんこそ『ちゃんと考えて』喋ってくれない?
友達の霧島さんに『友達だ』って言うのは変だよね?何か間違ってる?」
マズい。
これは『仲良しって言わないで友達だって改めて言えば良いんじゃない?』という選択肢を選んだ時の会話だ。
触れられたくない闇の部分をダイレクトに掴みにいく、失礼極まりない選択肢。
3つの選択肢の中で、一番最悪な選択肢だ。
「憶測だけで話を進めるのはよくないと思うんだけど。
狩場くんのこと、少し見損なっちゃったな」
「ちがう!ちがうの!」
「なに?言い訳?」
明らかな軽蔑の目が、僕に向けられる。
「あ……あ……」
「水瀬さん。狩場くんには独りで反省してもらうとして、俺と一緒に霧島さんの所へ改めて挨拶に行かない?」
「え、いいの?」
「もちろん!俺が二人の仲を取り持つよ!」
「ありがとう!西園寺くんって優しいんだね」
「当然の事をするだけだよ。
……そうだ。狩場くんにちょっとだけお説教していい?怒鳴ったりする訳じゃないんだけど」
「へ?別にいいけど……」
そう言うと、輝樹は僕の耳元に手を当てた。
そして。
「地獄の始まりだ」
一言呟くと『それじゃあ行こうか』と言って、二人は学校へと向かって行った。
僕の足は、無意識に公園のベンチへと向かった。
あの日、かがみんが慰めてくれたベンチ。
あの日に感じた手の温もりは、もうここには無い。
太い鉄釘を熱してオレンジ色になったような得体の知れない物体が、
代わりに僕の心に突き刺さっていた。
暖かな春の日差しの中、ベンチの前で僕は立ち尽くした。
──その時突然、目の前が真っ白な光に包まれた。




