認定
「え!?輝樹、来たんですか!?」
なんてこった。眼中に無いと思われてて無視してるのかと思った。
「この時期は毎日来るんだよ。占いだけだがね。たしか……金曜日の夜だったかね。
その日は占いだけじゃなく、幸太郎の事を聞きたいと言うてね」
「そ、それで!?」
「輝樹があれこれ言うんで、アタシが幸太郎について知っている事をわかる範囲で答えたが……マズかったかい?」
「全然!むしろ伝えたかったので!」
手間が省けて良かった。僕が雑魚じゃ無いことを少しでも理解してくれただろうか。
「それなら良かった。勝手に話をしてしまって悪かったね」
「いえいえ、逆にありがとうございます!それで、なんか言ってました……?」
「納得したような事は言っていたよ。えーっと、何と言ったか……。幸太郎が未来のセリフを言ったとかなんとか……」
例のことにゃんパクリ作戦の事か。
「そうです。ゲームでは……友達になる一歩手前の天音さんのセリフを僕が喋ってみました」
「それのお陰、と言うのか、危機感を覚えたようだよ」
「あれでですか……」
「天音とやらの素性を知るのは、この世界では輝樹だけだ。
その本人が目の前で知らん男から、好きな女とおんなじ言葉を言われたら、まぁ焦るだろうね」
「たしかに……」
「だけどね。奴は絶対に負けないと意気込んでいたよ。
考えてみぃ。自分が幾度となく生きてきた世界で、たった1度現れたおかしな男に自分の女が奪われるんだ。
幸太郎が出逢ったメインの女子も、すでに奴は手を回しておる」
「へ!?本当ですか!?」
ことにゃんだけじゃないのか。そっちの方が衝撃だ。
「でも、今のところ天音さん以外は輝樹に邪魔されてないです」
「直接的には、そうだろうな。しかし奴は、幸太郎の行動を見ながら、裏で色々と動いていると言うていたぞ」
「そんな……」
「明日から気ぃ付けんさい。幸太郎を地獄へ引きずり下ろすと意気込んでおったてな」
なんちゅう事を言うんだ。恐ろしや。
「教えてくれて、ありがとうございます……」
「なぁに、怖がるこたぁ無い。所詮は輝樹も人間。幸太郎が思うように行動すりゃあいい」
「はい……」
「さて……。今日も占いかい?」
「はい、お願いします……」
「あいよ」
いつもの様に、占いばあさんが水晶の前に両手をかざして、中をじーっと凝視する。
なんか見えるかなぁ、と思って僕も水晶を凝視するが、自分の顔が歪んで映るだけだった。
口を開けたり目をパチパチさせて遊んでいると、占いばあさんが口を開いた。
「今日の運勢は……凶だ」
「えっ」
「もうすぐ1日が終わるんだ。今日は早めに帰んな」
「は、はい。ありがとうございました」
「また明日な」
占いばあさんがニッコリと微笑む。
僕はビニール傘を差し、焦らず真っ直ぐ帰路へと着いた。
まさか、あんな事を言わた後に凶が出るとは。本当に気を付けなければいけない。
「うわぁっ!」
突然、突風が吹いた。いきなり凶の洗礼か。
ビニール傘がひっくり返り、骨組み部分が露わになる。
ビニールの部分が風で飛ばされて、そのまま屋根の上へ引っかかってしまった。
あーあ、壊れちゃった……。
傘を買うのも勿体ない。骨組みだけになったビニール傘を持ち、僕は息を切らしながら一目散に家へと向かった。
玄関の扉を開ける頃には、全身ずぶ濡れで身体中から水がボタボタと地面に垂れていた。
「ただいまー……」
「おかえ……幸ちゃん!どしたの!?」
「途中で傘壊れちゃった……」
「あらあら大変!タオル持ってくるから、ちょっと待ってて!」
ママはバタバタと洗面所へ向かい、僕のバスタオルを持ってきてくれた。包み込むように頭から水を拭ってくれる。
「こんなに濡れちゃって……。先にシャワー浴びる?」
「うん、そうする」
「ママも一緒に入る?」
「うん、そう……じゃないそうじゃない!大丈夫!」
「お背中流そうか?」
「本当に大丈夫!ありがとう!」
急いで洗面所へ向かって衣類を脱ぎ捨て、そのまま風呂場の中へ入ってシャワーを浴びた。あったけぇ。生き返る。
「幸ちゃん、お着替え置いておくね?」
「ありがとう」
洗面所からママの声がする。優しいな。
それにしても、輝樹がことにゃん以外の子を攻略しているなんて思わなかった。
かがみんも、まどかも、しゅり先輩も、玲香様も、みんな輝樹の息がかかっているという事だ。輝樹が裏で何を言い出すかわからない。
だがこの1週間、無意識の僕が行動できなかったとはいえ、ことにゃん以外の友好度は輝樹とさほど変わらないはずだ。
今ならまだ大丈夫。明日からさらに気を引き締めて、ことにゃんへ繋げよう。
絶対に、ことにゃんを諦めちゃいけないんだ。
身体も心もサッパリした所で風呂場の扉を開ける。
「幸ちゃん、身体あったまった?」
「うひゃあぁ!!」
勢いよく扉を閉める。なんでママいるの。
「マーママママ!!!!」
「あら?まだだった?」
「そうじゃなくて!なんでいるの!?」
「幸ちゃんの身体拭いてあげようと思って……」
「自分で拭くから大丈夫!戻ってて!」
「そーお?ならいいけど……」
洗面所の扉が閉まる音がする。風呂場の扉をそーっと開けてみると、ママはいなくなっていた。
あぁ、愛しき美人ママ。
流石に、お風呂入ってる時は来ないで下さい。




