涙
「あ、霧島さん……」
「あら、どこかでお会いしましたかしら?」
やば、心の声が!
「や、えと、学校内で噂になってて!なんか、お嬢様がいるって!」
「もうそんな噂が立っていらっしゃるなんて!困っちゃいますわぁ♡」
玲香様がクネクネする。生クネクネだ。恥ずかしがるとこうなるのだ。
「えーっと……。霧島さん、雨でも動物園来るんですね」
「当たり前ですわ。薄暗い雨の中、動物達は雄叫びを上げる事無く、優雅に静かな時を過ごしますの。
そうして、この世の偉大な現象を肌で感じ、眼を通じて記憶に留め、動物達は今日という美しき1日を噛み締めますの……」
「はぁ……」
「そんな中、茶色い瞳の愛くるしいこの子を本日、私の家でペットとして迎え入れますのよ。
美しき1日は、人生で最も重要で忘れられない記念すべき出逢いの日になるのですわ!オーッホッホッホ……」
玲香様はアゴに手の甲を当てて高らかに笑った。
「あのー、お言葉ですが……」
「何かしら?」
「動物園の子なので持って帰れないですよ?」
「……そ、そうなのですか?」
「はい。普通にダメですね」
「……どうしてもですの?」
「うん。この子のお家ここだし」
玲香様の表情がだんだん曇っていく。
「……やぁだ」
「あ」
「やぁなの……持って帰るの……」
今度は涙目になっていく。
「待ってほんと待って泣かないでヤダヤダヤダ!」
「名前も、ちーちゃんって言うの……。
寝る時も……一緒なのぉ……」
ついにポロポロ涙を流す。
「あぁ、女の子泣かせた!終わった!たすけて!」
「えぐっ……うぐぅ……」
「えーとえーと……あ!じゃ、じゃあ、ぬいぐるみ!ぬいぐるみで我慢しよう!ね?」
「……あるの?」
「うん!ある!」
「……どこに?」
「あそこ!パルプっていうショッピングセンター!学校の隣の!」
「……お金、無いぃ……えぐっ……」
「わかった!僕が買おう!さっき500円で売ってたし!」
「……やぁだ」
「へ!?な、なんで!?」
「だって、だって……。お金無くなっちゃうぅ!うわあぁん!!」
ついに大声で泣き出してしまった。
「うひゃあ、大変な事になった!トラウマだぁ!トラウマになっちゃうぅ!」
こういう時、どうすればいい。警察……って何考えてるんだ迷子じゃない落ち着け。
「とりあえず、雨に濡れない所に行こう!大丈夫ですよー!怖くないですよー!」
「そうじゃないぃ!うわあぁん……」
「そうだったねごめんね!とりあえずパルプに行こう!」
まさかこんなに泣いてしまうとは。ぬいぐるみ好きだから良かれと思ったけど、お金の事を口に出したのはマズかった。
無意識に玲香様の手を握り、そのままショッピングセンターへと連れ出す。その場で永遠に泣かれたら色々と困る。
「えぐっ……なんで……手ぇ握るの……?」
「へ?……あぁっ、ご、ごめん!」
慌てて手を離す。確かに手は握る必要無いな。キモい人になってないかな。もーヤダ怖い。
ショッピングセンターに着く頃にはだいぶ泣き止んでいたが、目が真っ赤なので周囲の目がどうしても気になってしまう。
そのままセンターコートへ行き、黒い丸テーブルの椅子に座って向き合った。
「えーっと……。お、落ち着いた?」
「……そうね」
と言いつつも、俯き加減で鼻をヒクヒクさせているので、油断したらすぐにスイッチが入る予感がする。発言に気を付けなければ。
「その、なんていうか……。初対面で、色々と失礼な事をしてしまいまして……。悪気は無かったんです。本当に……」
「……」
「あー……。ど、どうしたらいいでしょうか……?」
「……」
「じゃあ……。な、何か飲みます……?」
「……ミルクティー」
「はいっ!かしこまりましたっ!」
ダッシュで自販機へ向かい、250mlのペットボトルに入った冷たいミルクティーを購入。100円くらいどうって事ない。
そのままダッシュで玲香様の元へ直行。
「買って参りました!どうぞ!」
深々とおじぎをしながら両手で玲香様の目の前にミルクティーを置いた。
「……ありがと」
「いいえ!滅相もございません!」
「……お座りになったら?」
「はいっ!失礼しますっ!」
まるで鬼軍曹を前にしているようだ。スッと椅子に座り、背筋をピンと張った。
「……楽になさって?」
「は、はい!」
と言いつつも身体が硬直したように動かない。次は死ねとか言われるのかな。




