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慰め

 何故か『ことにゃん親衛隊』隊長となった僕は、そのまま三人と別れを告げて帰路へと着いた。


本当は一緒に帰ろうと思ったが、三人とも自宅とは真逆の方向であった。仕方ない。


去り際、輝樹に打ちのめされたとは思えない笑顔で大きく手を振る三人の姿が印象的だった。


この世界でようやく、良い仲間ができた気がする。


 途中、喫茶店を覗いてみようと思ったが、得体の知れない不安が心にまとわりいて寄り道することができず、


気が付いたら公園のベンチに座っていた。例の原っぱのような美しく広いスペースである。



 目の前で子供達がフリスビーで遊んでいる。


 少し横を見ると、草原に座り込んで携帯ゲームをする子供グループがいる。


 その近くで、犬を連れた人達が楽しそうに会話をしている。


 奥に野球場が見えて、小学生が声を出して練習をしている。


 その手前の道を、自転車に乗ったおじさんが買い物カゴにスーパーの袋を入れて通り過ぎた。


 なんでもない平和な日常。


 現実世界と同じような、ありふれた風景。


 思わず、ここがミラクルプリンセスの世界だという事実を、忘れてしまう。


 なぜ僕は、この世界に来たいと願ってしまったのだろう。


 なぜ僕は、無双できると簡単に考えてしまったのだろう。


 後悔が頭の中を渦巻いて、身体全体に浸透していくような気分になる。


 それが足の爪先くらいまで行くと、今度は涙がこみ上げる。


 僕はこんなに泣き虫だっただろうか。


 何かを我慢するの、得意だったはずなんだけどな。


 

「どーしたの?めっちゃ泣いてるじゃん!」



 ふと顔を見上げる。


 栗色に光るポニーテール。


 いつの間に、水瀬鏡がいた。


「あ、水瀬さん……」


「ビックリしたよ!ベンチで休もうと思ったらいきなり泣いてるんだもん」


「あ……えーっと……」


 ヤバい。めっちゃ気まずい。

 

「笑う角には福来たる!ほら、ニコーってして?」


 鏡がニコッと笑う。でも、やっぱり気まずい。


「あの、その……」


「ん?どーしたの?」


「は、初めて会った時に驚かせちゃって、その……。ずっと、謝れないでいたから、気まずくて……」


「あー、あれね。気にしないでいーよ」


「で、でも、教室で阿修羅みたいな顔して僕のこと見てたから、怒ってるなぁって……」


「阿修羅?ボク、そんな顔してたの?」


「うん。だから、顔見れなくて……」


「あっちゃー、無意識だったなぁ」


 鏡が片手で気まずそうに顔を抑える。


「確かにあの時は不審者だと思ったし、『なんでいるの!?』って思っちゃったよ?


でも、狩場くん悪い人じゃなさそうだし、仲良くしたいなぁってずっと思ってたんだけどな」


「そうなの……?」


「こんな形でお喋りするとは思わなかったけどねー」


 そう言いながら、鏡は僕の隣に座った。


「あのさー、『かがみん』ってボクのこと?」


 急にニタついて質問をされる。


「え!?ちょ、いま!?」


「気になってたんだよねー。あの時、叫びながら走ってきたし」


「え、っと、それは、その……」


「かがみーん!って独りの時に言っちゃってる感じ?」


「や、えっと……」


 何も言えないよ。たすけて。


「自由に呼んでいいよー。そういうの気にしないから」


「えっと、じゃあ……かがみん」


「オッケーオッケー!やっと心開いた感じするよー」


 かがみんが飛びっきりの笑顔をした。


「ボクの今週の目標は、クラス全員と仲良くなること。


狩場くんだけ避けられてる感じしたけど……これで仲良くなれるかな?」


「え、こっちこそ仲良くなりたかったから……」


「じゃあ、今日から仲良しだ!よっしゃー、目標達成ー!」


 そう言うと、かがみんは大きく両腕を突き上げてガッツポーズをした。


「……あの、かがみん」


「はーい!」


「本当に……ごめんなさい……」


「今更だよ!い・ま・さ・ら!」


「でも……」


「ボクが気にしないで、って言ってるから気にしないでいいの!」


「そ、そっか……ありがと……」


「じゃ、ボクは帰るから!」


「えぇっ、もう?」


「暗くなる前に帰らないとね。


変な人が『かがみーん!』って叫びながら走ってくるかもだしぃー」


「え、ごめん……」


「だーかーら、冗談だって!気にしない気にしない!」


 そう言うと、かがみんは僕の頭を軽くポンと叩いて撫でた。


これってイケメンがよくやるやつじゃん。こんな感じなんだ……はぅ……。


「また来週ね!バイバーイ!」


 かがみんは立ち上がり、こちらに手を振りながら走り去っていった。


 涙はいつの間に止まっていて、僕は走り去るかがみんの後ろ姿を無意識に眺めていた。


 苦手なタイプは特に無し。会ったら誰でもお友達。


 かがみんは、こういう娘なのだ。


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