護り
昼休憩。僕は自席から動けずにいた。
輝樹とことにゃんはすでに食堂へ向かっている。僕は独り、授業中からずっと考えていた輝樹の言葉の意味を反芻していた。
あのセリフを素直に受け取るのであれば、記憶の無い3日間でイベントをこなしている事になる。
占いばあさんも言っていた『メモ帳か何かで指示を出す』という行為。
これはあくまでも憶測だが、記憶が無くなる睡眠前に、メモ帳で3日間の指示出しをしていると思われる。
どんな場所に行って、誰と会話するのか。
どの時間帯に、どのようなイベントを行うのか。
重要なセリフが何で、どんな返答をすれば良いのか。
輝樹自身が、無意識の輝樹とお互いに情報を共有しているのだ。
さらに、水曜日に福引があるという事実。
曜日で言えば、確かに週の前半とも後半とも取れる位置だ。
これも恐らく、無意識の輝樹に何か変わったところがないか、確認させたのだろう。
効率良く、攻略を進めるために。
『主人公を舐めるな』
なるほど、伊達にこの世界をループをしていないって訳だ。
それにしても、なぜだろうか。
バカにされたとは言え、この世界での『生き方』というものを多少、僕に教えてくれたのだ。
輝樹が凡ミスでポロっと言うとは考えにくい。そうなると、こう思うのが正しいのではないか。
お前なんか、相手にしていない。
完全にバカにしている。ふざけるな。僕が黙ってこのまま二人の睦まじい姿を指加えて見ているだけだと思うな。
僕は、雑魚じゃない。
誰よりもことにゃんを愛する、狩場幸太郎だ。
「狩場氏、ちょっとよろしいかな」
誰だ、怒りに震える僕に声を掛ける奴は。
「天音様の護衛を受けるつもりはないかい?」
……?
ごめんなさい。
本当に、誰だ。
「ご、護衛……?」
「あぁ、いきなりで戸惑っているのか!いやー、すまんすまん」
爽やかな笑顔で、右手で手刀のポーズを取って僕に謝罪をした。
なんだコイツは。記憶を辿らねば。えーっと……。
あ、後ろの席の加藤くんだ。
ザ・モブキャラと言った特徴の無い爽やかイケメン。喋り方はオタクっぽいんだけど、イケメン。なんなんだ、この世界は。
「俺は『天音琴葉親衛隊』現隊長を務める加藤一輝。改めてよろしく!」
「はぁ……」
「狩場氏。君を見込んでのお願いだ。是非、我々と共に天音琴葉様を護衛しようではないか!」
しようではないか、とか言われてもなぁ……。っていうかゲームにこんなキャラいなかったんだけど。
「いきなりそんなこと言われても……」
「狩場氏。先程、西園寺と天音様の会話の途中に割って入っていっただろう。
狩場氏の様に、そんな事ができる勇敢な猛者はこのクラス、いや、この学校中を探しても、狩場氏ただ独りなのだよ!」
人差し指で1を作って僕に迫ってくる。圧がすごい圧が。
「え、えーっと、熱意はわかるんだけど、その……なにするの?」
「簡単な事さ!にっくき西園寺輝樹から天音様をお護りするのだ!」
輝樹ってモブキャラからも嫌われてるんだ。かわいそ。
「見たところ、狩場氏は純粋に天音様を思っておられる様子。正直、アイツが憎いだろう?」
「まぁ、憎いって訳でもないけど……うん」
ぶっ殺したいぐらい憎いけど口には出しません。言霊怖いからね。
「そうと決まれば話は早い!さぁ、こちらへ!」
そう言うと、加藤くんは僕の腕を強引に引っ張り無理矢理、自席を立たされた。
そのまま教室の隅へ連れていかれる。そこにはもう2人、加藤くんと似たような顔立ちの男が立っていた。
「聞いたよ狩場くん!ずいぶんと図太い神経してるんだって?」
同じクラスのモブキャラ、田中優斗くん。
「初日から変わってるなーと思ってたけど、やっぱり只者じゃなかったんだね!」
同じく、渡辺海斗くん。
「二人は親衛隊の隊員なのだ。これで狩場氏を含めて四人!素晴らしい!」
加藤くんが拍手をすると、続けて二人も『素晴らしい!』と言って拍手をした。
どうしてくれよう、この空気。
「狩場くんがいれば百人力だよ!」
「西園寺の野郎をギャフンと言わせてやろうぜ!」
田中くん、渡辺くん。同時に喋らないでくれ。まだどっちが話してるかわからん。
そもそもこういうポジションって、絶対に主人公を目立たせる為の役でしょ。
あーあ、なんだろうなぁ。
僕、こんな奴らと共闘しなきゃいけないのか。




