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疑問

 自席に座り、ブレザーの内ポケットから機械を取り出す。電源を入れ、一番下の設定画面へ移動。


ついでに『ハート残数』の項目を確認したが、やはりハートは残り3つになっていた。


ちなみに『イベント進行状況』の欄は『朝・桜小路朱里 終了』となっている。これで確認できるのは何かと便利だ。


という訳で早速、『ハート枯渇時 自動日付スキップ』という項目をオフ。これでハートが無くなっても夜までは過ごせるはずだ。


 しかし、考えれば考えるほど酷い機能である。


もちろんだが、実際のゲームにはこんな機能は存在しない。


むしろ、ハートが無くなってからが本番みたいな所がある。


間違えてハートイベントを開始する事はないし、アイテムでハートを回復すれば取り逃がしそうになったイベントを回収できる。


後半になるとハートをMAXにしても回復アイテム無しではクリアできないイベントが存在するし、そもそもこんな機能があること自体おかしいのだ。


 さて、次はビックリマークを……。


「あれ?学校に携帯電話持って来ていいんだっけ?」


 突然、不自然に大きな声がした。


 声の方へ顔をやると、輝樹が不思議そうな顔でこちらを見ている。


 そう、不思議そうな顔で。


 クッッッソ野郎マジでなんだこいつ輝樹このやろう輝樹。


「あら?狩場くん、ダメじゃないの」


 ふと黒板の方を向くと、明智先生がこちらを凝視していた。マズい、設定イジリに集中しすぎて入ってきたの気付かなかった。


「悪いけど、それ没収ね」


「そ、そんな!ちょっと待って下さい、これ携帯電話じゃ……」


 言い訳をする僕を見ていた輝樹が口を挟む。


「学校に必要無いものだから、しょうがないよね?」


 そう言うと、哀れみの顔で肩をポンと叩いた。


 目の奥が明らかに嘲笑っている。


 マジでやりやがったなクソが。


 明智先生がコツコツと僕の所へ向かってくる。


「さ、素直に渡しなさい」


「……はい。ごめんなさい」


 魂を差し出す気分だ。僕は献上品を差し出すかの如く、両手で明智先生へ機械を渡した。


「わかればよろしい。放課後、職員室まで取りに来ること。わかった?」


「はい……」


 仕方ない。勝手に記憶が飛ばない様に設定できただけ幸いだ。


 ホームルームが終わり、1限目の授業が始まる。


僕は授業を聞く気などさらさら無く、今日という1日をどう乗り切ろうか考えていた。


 まず、ことにゃんと仲良くなりたいのに全くと言っていい程に喋れていない。貴重なハートはことにゃんに使うべきだ。


ここからが問題で、どのタイミングでハートを消費するのか、全くわからない。


 どういう事か、実際のゲームで考えるとわかりやすい。


メインキャラクター達とはマークが無くても会話ができる。しかし、ビックリマークが無ければイベント扱いにはならず、友好度には影響しない。


 つまり、ただ雑談をしただけという事になり、友好度が上がらないから何の意味も無いのだ。


 今までは出逢いイベントばかりだったから、ハートの消費イベントがわかりやすかった。


しかし今は、話し掛けた時点で友好度イベントなのかわからないのである。


ならば、ゲーム内で実際に起こるイベントの最初のセリフで話しかける、というのはどうだろう。


あるいは、会話の途中で強制的にイベントへの会話へと繋げてしまえばいい。


 おぉ、なんだか道筋が見えてきた。


 しかし、これはあくまでもことにゃんとスムーズに会話できた時の話だ。


 あの輝樹が、易々とことにゃんと話をさせてくれる訳がない。


 だが、僕だってやられっぱなしとはいかないのだ。


 僕にだって、策はある。


 見てろよ。絶対に一泡吹かせてやる。



 授業は滞りなく進み、あっという間に中休みである『午前休憩』の時間になった。会話イベントはもちろんの事、昼休みに食事を誘える重要な時間帯だ。


席に座ったまま、右隣で話す輝樹とことにゃんの会話へ耳を傾ける。


しかし、会話が始まった瞬間、僕の中であり得ない話題が起こった。


「天音さん。映画のチケットが余ってるんだけど、明日観に行かない?」


「わぁ、映画さんですか!この前のランチの時に……」



 待て。



 映画イベントは、どんなに早くても来週だ。



 この段階でチケットを入手するなんて、有り得ない。


 輝樹、疑いたくはないが、お前……。



 ちゃんとした正攻法で、チケットを手に入れたんだよな……?


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