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不慣れ

「あ、名前まだ言ってなかったですよね?」


 あまりに何も浮かんでこないので、とりあえず自己紹介的な感じで場を繋ぐしかない。


「僕、狩場幸太郎って言います。ごめんなさい、無言になっちゃって。人と喋るの苦手なんです。


距離感がわからない、っていうか、何話していいかわかんない、っていうか……」


 自己紹介どこ行った。


「ふむ。コミュ障、というやつか?」


「多分……」


「ならば練習相手になってやろう。さぁ、なんでも話してみてくれ」


「へ!?や、あの……」


 しゅり先輩、余計に緊張しちゃいます。


「えーっと……」


「ふーむ。ならば、私が質問をしよう。彼女はいるのか?」


「へ!?か、かかか、彼女……」


 しゅり先輩、いきなりハード過ぎです。


「私は居たことが無い。女子から言い寄られることは多いのだが……どうも男にモテなくてな」


「あ、そ、そうですよね。女の子キャーキャー言ってますし……」


「なんと!もう噂が広まっているのか。マズいなぁ……」


 しゅり先輩ごめんなさい、広まってないです。例によって僕がやらかしました。はい。


バツの悪そうな顔をするしゅり先輩をフォローする意味も含め、僕は敢えて誤解に乗っかる事にした。


「しゅ、しゅり先輩って美人さんですもんね!仕方ないですよ!」


「美人……なのだろうか。女子にはカッコいいと言われてしまうのだ。男から見て、どう思う?」


「やっぱり、カッコよくて美しいって感じですかね?しゅり先輩の古風な感じが良いんじゃないでしょうか。


何かあっても『この子は私が守る!』みたいな雰囲気があって、素敵です」


 って、しゅり先輩推しの女の子達がSNSで騒いでました。


「ふむ。あ、ありがとう。あと、その……」


 しゅり先輩が少し頬を赤らめて正面から視線を外す。


「しゅ、しゅり先輩、と呼ぶのを、やめてもらえないか?」


「へ?……あ!!


そ、そそそ、そうですよね!?ごめんなさい!!」



 ヤバい、なんてこった!


 最初は桜小路先輩だった!



 目の前にするとガチで頭から色々すっ飛んでしまう。これマズいんじゃ……。


「いや、キミは悪くない。こちらこそすまない。女子には言われ慣れているのだが、その……。


だ、男性に、下の名前で呼ばれる事が、ないのでな。


キミは女子の様な顔立ちだから、大丈夫だと思ったんだが……。や、やはりダメ……みたいだ……」


 どんどん顔を赤らめるしゅり先輩。


 どうしよう、ギャップ萌えかもしれない。超キュンキュンするんですけど。


「お、お気になさらず!というか、僕も初対面なのに下の名前で呼んでしまってごめんなさい……」


「まて、そんなに落ち込まれては私が困る!ここはおあいこという事で決着を付けよう」


「……ありがとうございます。やっぱり、しゅり先輩は優しいですね」


「そうか、優しいか……って!


また下の名前で呼んでる……じゃない……か……」


 声が震えながらだんだん小さくなっていく。


 おぉ、しゅり先輩イジるの楽しい。わざとじゃないけど楽しい。


あんまりやるとガチで嫌われちゃうから本当に気を付けないと。


話してるとテンション上がって、ついついやらかしちゃうんだよなぁ。 


なんか、いつか後悔する日が来る気がする。


頭の中は冷静にならなければ。がんばれ、僕。


 そうこうしている間に、学校へと到着した。しゅり先輩は1階なので、玄関でお別れだ。


「少年。朝から本当にありがとう。今度ハンカチのお礼をさせてくれ」


「いやいや、お礼なんていいですよ。僕も桜小路先輩と話せて良かったです」


「そうか。ならば、コミュ障の練習相手くらいなら、いつでも付き合おう。少年、学校生活を楽しみたまえ」


「はい、ありがとうございました!」


 僕はすっきりとした笑顔でしゅり先輩と別れた。朝から気分が良い。


 教室へ入ると、何となく『いつもの風景だな』と思ってしまうのは気のせいだろうか。


いや、気のせいではない。記憶があるのに飛んでいるという謎の現象のせいだ。


 そうだ、ゲーム設定をしなければ。


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