謎
慌てて階段を降り、リビングの扉を開けた。
「母さん!父さん!」
「幸ちゃん、おはよ。どうしたの?大きな声出して。怖い夢見た?」
「大丈夫か、幸太郎。何かあったなら、話してみなさい」
美女&イケメンが昨日と同じように出迎える。そうだ、この二人だった。
「僕、昨日どうやって帰ってきた!?」
「どうって……。普通に帰ってきたわよ?」
「夕飯もパパとママと一緒にシチューを食べたじゃないか。もしかして、まだ寝ぼけているのかい?」
……あれ?
昨日の記憶がある……?
……そうだ、普通に帰ってきたんだ。
「そ、そっか……」
それで、自分の部屋でゲームやって、母さんに呼ばれて下に降りて、みんなでシチュー食べて……。
あ。
いま、ものすごく衝撃的で、絶対に信じたくないこと、思い出したかもしれない。
「……マ、ママ」
「なぁに?」
「今日って、何曜日だっけ」
「8日だから……金曜日?何か予定あったかしら」
なんで。
なんで、金曜日なんだ。
「……ありがとう。やっぱり、まだ寝ぼけてるみたい」
「なぁんだ!ママすっごい安心したわ」
「幸太郎。もし嫌な事や不安な事があれば、いつでも相談に乗るからね」
「うん。わか……った」
あり得ない。
先程まで間違いなく、宇月まどかに押し倒されていた。
仮に丸1日の記憶が飛んでしまったとして、次の日の火曜日でないと説明が付かない。
……なぜだろう。
やはり、あの日の記憶がある。
テーブルで朝食のシリアルを食べながら、あの日の事を思い出す。
問題なく全ての授業を終えた僕はことにゃんと帰る事なく、普通に帰宅した。
ことにゃんがすでに輝樹と二人きりで帰る約束をしていて、それを僕がすんなり受け入れたのだ。何故か、まどかとも帰らなかった。
次の日もその次の日も、そして昨日も。
毎日、僕は学校で平凡に暮らして帰宅しているのだ。その間、ことにゃんやまどかと言葉を交わした記憶はあるが、
今日は天気がいいとか、こんなテレビを観たとか、その程度だ。
それ以上に、何故かモブキャラと話した記憶の方が多い。名前と顔が一致してるけど、誰だお前ら。
水瀬鏡に至っては会話すらしていない。こちらから話しかけようともしていない。
僕が怯えているという事ではなく、認識しているけど接点が無いから話さない、みたいな感じ。
そして輝樹とは、全く関わっていない。あの日の様に吹っかけられる事が無いのは勿論、隣の席なのに一言も喋っていないし声すら聞いていない。
実際には隣でことにゃんと話しているのを聞いているはずなのだが、口がパクパク動いているだけで、声が聞こえない。
思い出そうとすると、無声なのだ。
「幸ちゃん、なんだか怖い顔してるわよ?」
どんな顔だったのだろう。不意に美人ママが声を掛けた。
「え?そ、そう?いつも通りだけど」
「なら良いんだけど……」
美人ママは右手を頬に当てて首を傾げながら困った様な顔をする。
「幸太郎も年頃だ。好きな人でも出来たんじゃないか?」
「え!?幸ちゃん彼女できたの!?名前は!?年齢は!?どんな性格!?お料理得意!?」
「待って待って、違うよママ落ち着いて!」
「あぁ〜、幸ちゃんが青春してる!立派に成長したのね……」
美人ママはハンカチで目を拭う動作をしたが、実際に泣いているわけではない。愉快な人だな、ほんとに。
「僕、そろそろ行くよ。食べ終わった食器だけ水で流しておくから」
「あら、幸ちゃん優しい♡」
「いつもでしょ」
現実の世界では食べたら食べっぱなしなのだが、他人の家にいる気がして不安で、未だに気を遣いながら生活を送っているのだ。
着替え等の支度をパッと済ませてカバンを持ち、足早に家を出る。
ホームルームが始まるのは8時20分だが、現在の時刻は7時。こんな気持ちで家に居られる訳が無い。
向かう先は、占いの館。
占いばあさんなら、何か分かるかもしれない。
というか、分かっていてくれ。




