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誘惑

「うーん、疲れたぁ……」


 背伸びをしながら思いっきり独り言を呟いている宇月まどかの方へ向かう。


「あの、こんにちは」


「ん?なーに?」


 腕を伸ばしたまま、まどかが答える。


「さっき、自己紹介で3月31日生まれって言ってたよね。珍しいなぁ、と思って」


「そうなのだよ先輩!」


 机をバン、と両手で叩いて立ち上がる。


「背も低くてさぁ、胸も小さいからいっつも合法ロリってバカにされるの。どう思います!?」


「うん、確かに小さ……」


『いな』ってゲーム本編では続くんだけど、改めて見ると本当におっぱい無いな。これがまどかの生おっぱい……。


「先輩、どこ見てるんですか……?」


 マズい、凝視しすぎた。


「もしかして……」


 だんだん哀しそうな顔になっていく。終わった。さよならまどか。


「おっぱい、気になっちゃいます!?私のおっぱい見たくなっちゃいます!?ほらほら、合法ロリですよー♡」


 急にイタズラっ子の目になったまどかが自分の胸を両手で挟み、前かがみになって上目遣いをしてくる。


「うああぁ!ちょ、やめ、や、ごめ、ごめんなさい本当に見るつもりなくて」


「ロリコンですか?ロリコンなんですか!?えっちだなぁー♡」


 そう言いながら、まどかは背伸びをして自身の胸をさらに僕の顔へ近づけようとする。


えっちだなぁー、じゃないんだよ!


こういうの弱いんだよ童貞なんだよすぐ好きになっちゃうんだよやめて許して。


「あー、ニヤニヤしてるー!狩場先輩はえっちな人……っと」


 手でメモを取るような仕草をするまどか。何気に名前覚えてくれてるし。めちゃくちゃ嬉しいけど好きになりそうで怖い。複雑。


「あの、お、怒ってないですか……?」


「ありゃりゃ、メモ追加だー!狩場先輩はむっつりスケベ……」


「そうじゃなくて!ありがとうございます!!」


 あ、また心の声が。


「むっつりかよぉー!アハハハ……」


 まどかがお腹を抱えて笑う。こりゃイタズラしてほしいキモオタが増える訳ですよ。


 それに、さっきからゲームに無いシーンばっかりで本当に楽しい。こんな時間を過ごせるなんて、なんか逆に悪い事してるみたい。


「あ、先輩!お昼ご飯、一緒に食べてあげましょうか?」


「あげましょうか、って……。もちろん構わ……」



 ん?待てよ?



 初めてまどかと食事した後って、放課後の時に強制的に一緒に帰るんじゃなかったっけ?



 実際のゲームでは次の週前半に起こるイベントだが、もし同じように一緒に帰るとなると、放課後のことにゃんイベントをスルーする事になる。


しかもことにゃんは輝樹と絶賛食事中。すでに差をつけられている。童貞心がくすぐられるけど、これは……。


「か・ま・わー?」


 まどかがニヤケながら僕の返答を待っている。


 ……あぁ。やっぱりダメなのだ。ちょっと優しくされただけで、まどかに気持ちが傾いてはいけないのだ。すまん。本当にすまん、まどか。


「か、構わ……なく、ない……」


「えー!一緒に食べようよー!!」


 まどかが寂しそうに僕の腕をぶんぶんと掴む。


 マズい、このままでは、まどかが悲しんでしまう。


 確かに僕はことにゃんを攻略したい。けど、まどかのしょんぼりした姿を見るのは僕の性格上、耐えられない。心臓がキューってなっちゃう。


「えーっと、その……」


 何か上手いこと行く方法があるはずだ。ここはミラプリの世界。現実と時間と同じ流れの……。



「あ!」



 そうか。これはゲームじゃなくて、現実と同じだと思えばいい。まどかの性格なら、もしかすると……。


「ん?なーに?」


「僕、放課後に予定があるのね。だから、一緒には帰れないんだけど、それでも良かったら大丈夫!」

 

「おぉ!なるほどですね!りょーかいしましたっ!」


 そういうと、まどかは笑顔で敬礼ポーズをした。


 流石まどか、物分かりがいい。思いの外、あっさり解決して良かった。


「でも、いま放課後のこと関係ないような……?」


「ああっ!そ、それは、あんま気にしないで!」


「うーん、でも……」


「いいからいいから!ほら、食堂行こう……」



 ……としちゃダメ!!!!!


 ことにゃんがいる場所で他の女の子と食事することになっちゃう!!!!!



「……と思ったんだけど、購買のパンが食べてみたいなぁ」


「それ気になる!じゃあ私もパンにしよっかなー♪」


 ……ふー、間一髪。


「じゃあ、一緒に買いに行きますか!先輩♡」


 そう言うと、まどかは僕の腕に抱きついた。あぁ、おっぱい……。


「ふひゃあぁ……い、行きましょうかぁ……」


 たすけて。本格的に宇月まどか好きになっちゃう。


 ──購買店へ向かう移動中も、まどかはずっと腕を組んできた。僕のこと好きなのかな、と錯覚してしまいそうになる。


しかし悲しいかな、この子は男女関係なく誰かにくっついていたい子なのだ。イタズラっ子で甘えんぼ。どうしてくれようかゲーム制作陣。


「先輩、購買店の場所わかるんですか?」


「う、うん。体育館に行く通路の途中にあるよ」


「すごっ!もう覚えちゃったの!?頭良いなぁ」


そりゃ何回もプレイしてるし、さっきフラフラになりながら帰ってきた道だし。あぁ、嫌な記憶が……。


「先輩?顔色悪いけど、気分良くないの?」


「あ、いや、だ、大丈夫!えっと、あれだ、そう!腕ぎゅーってされてるから、は、恥ずかしくて……」


「イヤだった……?」


 まどかが寂しそうな顔をする。抱きしめる腕の力も弱くなった。


「いやいや違う違う違うめっっっちゃ嬉しい!そう!慣れてないだけ!こういうの慣れてないだけなの!」


「ほんとに……?」


「うん!ホント!嘘付かない!だから僕から離れないで!」


 勢いで言っちゃったけど、なんか凄い恥ずかしいこと言った気がする。


「イヤです。離れます」


 そのまま、まどかはしょんぼりしながら後ろで手を組んだ。あぁ、やっちゃったぁ……。


「離れて……そのまま後ろからおりゃあぁ♡」


 すぐに、今度は僕の後ろから抱きついてきた。


「ふわあぁ!ま、ままま、ま、ま、まままま」


「私は先輩のママじゃありませんっ♡」



 ここ、天国かな。



 まどかのお陰で、トラウマになりそうだった体育館への移動ルートが、人生で一番楽しい時間になった。


ビックリするのはね、ゲームだと序盤から同じように腕組むイベントあるのに、友好度1しか上がらないの。魔性の女だよこの子。でも、これなら魔性のまんまでいいや。

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