助言
「うわぁっ!?」
思わず両腕で目を防ぐ。ついでにヨロヨロと尻もちを付いて壁にもたれかかってしまった。だけど吐瀉物からは離れた気がして、ちょっぴりホッとする。
腕の隙間から少し覗くと、白い光は両手を腰に当てた人型に輝いているのがわかった。
とりあえず直視できそうだ。頭の中で何が起きたのか必死で考えようとすると、突然声が聞こえた。
「私はブライトマン。願いを叶えてあげた者」
「……へ?」
願い?いきなりなんだ?
「狩場幸太郎。君が呼んだからわざわざ来てあげたのだ。喜びたまえ」
「……あの、なんなんでしょ」
「そうそう、この瞬間に動いているのは、私と君だけだ」
「……あのー、これなんですか?」
「だ・か・ら!呼ばれて飛び出てジャジャジャーンなの!」
「えっと……」
ダメだ、状況が全く飲み込めない。
「これって……幻ですか?」
「幻じゃない。現実だ。
まったくもう、前回とやり取りが変わらないじゃないか」
「前回……?」
「あぁ、そうか。記憶が抜けているのだな。少しだけ記憶を戻してあげよう」
そう言うと、ブライトマンの胸元から白い閃光が僕に放たれた。特に痛みは無い。
その瞬間、あの日ブライトマンと出会った記憶が、徐々に蘇ってきた。
「……あ、あぁっ、ああっ!」
「どうだ、思い出したか」
「そうだ!僕がミラプリの世界に行きたいって言ったんだ!」
「お?思い出してくれたな?いいぞぉ、その調子だ!」
なんか前かがみになってる気がする。やっぱり苦手だなぁ、この人。
「それで、ゲームの世界はどうだ?楽しいだろう」
「あ、そうだった!」
僕は怒りを込めて立ち上がった。
「ぜんっぜん楽しくないよ!
輝樹がことにゃんがどうとか訳わかんない事ばっか言ってるし、
ていうかアイツなんでいるの!?なんで僕が主人公じゃないの!?」
「落ち着け、狩場幸太郎」
「だってこんなの転生じゃなくて転移じゃ」
「だ・か・ら!いま説明するから落ち着けって!」
フー、フー、と僕は息を荒げる。本当にふざけんな。
「よいか、狩場幸太郎。
私は『ミラクルプリンセスの世界に連れて行って下さい』という願いを叶えたのだ。
『主人公に転生させて下さい』とか『天音琴葉を僕のお嫁さんにして下さい』とか
頼み方は色々とあったはずであろう?」
「そうだけど、だって、普通は主人公に転生すると思うじゃん……」
「頼み事というのはな、相手にわかるように上手く伝えないといけないのだよ。
『きっとこうだろう』とか『自分がこう思うから相手も同じ考えだろう』なんて考え方をしているから失敗するのだ。違うか?」
「それは……」
図星じゃん。なんでこんな光ってる人に説教されなきゃいけないの?
「君がこの世界でしてきた会話や行動を思い出したまえ。どれも自分よがりだとは思わんかね?」
なんでそんなこと考えなきゃならない。
「はいはい、そうですね」
「私は親ではないから君がどうなろうと一向に構わん。
しかし、私には君にゲームの世界で楽しんでもらうという使命があるのだ。
狩場幸太郎。君ならきっと、この世界を満喫できると信じているぞ」
「なんなの?さっきから勝手なことばっか」
「なお!」
ブライトマンが大声で叫ぶ。
「この記憶は!」
「あ、こら逃げるな」
「一部を除いて、消滅する!」
──目を覚ますと、僕の前から輝樹は消えていた。教室にでも戻ったのだろう。
嘔吐した場所から少し離れた所で倒れていた僕は、フラフラと立ち上がった。
そこで自分の口臭がまだ酷いことに気付き、頭を左手で抱えながらトイレへ向かった。
途中で他の教室をチラッと見ると、どうやら授業が始まったばかりであり、その教室の時計を覗くと、授業が終われば昼休みに入る時間であった。
無事にトイレへ辿り着き、口の中を何度かすすぐ。そして、何が起こったのか冷静に思い出す作業へ移行する。
まず、あの輝樹は、なんだ。
確か、この世界をループしていると言っていた。しかし、話の内容から察するに、ただループしているだけではなさそうだ。
占いばあさんも言っていた、この世界の『システム』を、それこそ熟知しているかのような言い分。
もしかすると、その占いばあさんなら何かわかる……かもしれない。
ことにゃんの件も含め、今は輝樹の発言を深く考えるのはやめておこう。本当に、精神がおかしくなってしまう。
しかし、なぜ僕は倒れてしまったのだろう。嘔吐したついでにヨロヨロと倒れて意識を失ってしまったのだろうか。記憶がすっぽり抜けている。
そのかわり、目覚めた時に1つ思い出した事がある。
僕が、この世界に行きたいと願ったのだ。
ただ、なぜ願っただけでこの世界に来れたのかは、わからない。今後、何か手掛かりのようなものを探す必要がありそうだ。
とにかく。
あんなハイパー超絶ドクズ野郎にことにゃんを渡してなるものか。
今に見てろ。絶対に一泡吹かせてやる。




