困惑
えっ?さっきから、どういう事?
バグ?ウイルス?モブキャラはありふれた名前?どこの世界の……?
「チッ、このビビりが」
そう言うと、輝樹は右手を乱暴に離してズボンのポケットへ手を突っ込んだ。まだ頭皮がジンジンする。ハゲちゃう。
「話せ」
たった一言。
でも、この重圧は今まで生きてきたどんな言葉よりも、重い。
「……はう」
高鳴る心臓の鼓動を抑えるように、ゆっくりと呼吸を整える。
「えっと、ぼ、僕は……」
慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと話す。
「家でパソコン見てたら、いきなりミラプリの世界に行くとか言われて、こっち来て、学校行く途中で、ことにゃんに会って、それで」
「そうじゃねぇ!!」
鬼の形相をした輝樹の罵声が突き刺さる。
「ひいぃ!こわいぃ!」
「簡潔に、話せ」
簡潔にって、話してる途中じゃん……。
「……はぁ。質問を変える」
「は、はいっ!どうぞっ!」
「お前の目的は、何だ?」
「も、目的?ことにゃんと仲良くなるとか、そういうこと、ですか?」
「ことにゃん?……あぁ、琴葉か」
「そ、そうです。天音さんと……」
「それだけか?」
「まぁ、一応……」
僕が行きたいって言った訳じゃなく、勝手に連れて来られたのだ。目的も何もない。
「つまり、お前は俺のライバルとして異世界から送られてきたっつー事だな?」
輝樹が不敵な笑みを浮かべる。
異世界……。そっか、あっちからすれば僕は異世界人か。
「てめぇみてぇな女女しい不細工モブ野郎が、あいつらと一発ヤろうとか思っちゃってンだ。超ウケるンですけど。ヒッヒッヒ……」
輝樹が下品な笑い方をする。
おかしい。輝樹こんなキャラじゃない。もっとこう、『やれやれ』とか言いながら物事を卒なくこなすオタク系、みたいな……。
「先に教えておいてやる。
俺は、この世界をループしながら生きている」
「……へ?」
いよいよ訳がわからない。
この輝樹、何者なんだ……?
輝樹は僕の困惑した顔を見て、さらにニタつきながら話を続ける。
「琴葉はもちろん、他の女も含めて腐るほど調教してきた。琴葉はなぁ、脱がす時は毎回恥ずかしがンだけど、ヤり始めっとすげえぇエロい」
「やめろぉ!!!!!!!!!!」
今までの疑問を全て忘れ、僕は人生で初めて、怒鳴り声を上げた。
「ことにゃんは純白だ!お前みたいな輩に何がわかる!」
身体がプルプルと震えて涙が溢れそうになる。これは恐怖ではい。完全なる怒りだ。
「いいねぇ、言ってくれるねぇ!」
輝樹が壁ドンのような形で、僕の顔の横へ右手を思いっ切り叩いた。
「お前こそ、琴葉の何を知ってンの?
毎日30分おきにメール来てシカトすっとリスカするとか、
付き合い慣れっと高い店連れて行けって言ってうるせぇとか、
俺が他の女と話してっとその女をグループでシカトして孤立させるとか、
ケンカすっとブチ切れてその辺の物ぶちまけるとか、
ヤッてる時は首絞めねぇとイけねぇとか、
意外と乳輪がでけぇとか喘ぎ声がキンキンしてうるせぇとか
そういうこと全部わかった上で言ってンだよなぁ!?あぁ!?」
「な……どういう……そんな……ウゥッ!」
突然、胃袋が痙攣する。何も食べてないはずなのに、口の中から吐瀉物が溢れ出る。
「ウボァ……!ガハッ、ハァッ……」
予想外の嘔吐に驚いた輝樹は、苦虫を噛み潰したような顔でサッと後退りした。
「うわっ、きったねぇなぁ。上履きにちょっとかかってンじゃん。跡付いたらどーすンだよ、くっせーなぁ……」
輝樹は両足のつま先を、土の地面を蹴ったり、片方の足のカカトを使ったりして、吐瀉物を払い除けようとした。
それでも細かい土が両方の上履きの先にこびり付き、そこだけ泥色になっていた。
僕はその光景を、ヒザに両手をついて息を荒げ、フワフワとした感覚で眺めていた。
ねぇ、神様。
もし、存在するなら、教えて下さい。
なぜ、僕は、こんな世界に来てしまったのですか……?
──その時、空が真っ白に光った。




