西園寺輝樹
ことにゃんの自己紹介を頭の中でループしていると、宇月まどかの自己紹介がいつの間に終わっていて、僕の自己紹介が近づいていた。
そっか、僕も自己紹介するのか。どうしよう。
まぁ、どうせ僕はモブキャラである。せっかくなら少し遊んでみよう。
「小川さんの次は……狩場幸太郎くん!お願いします」
「はい!」
僕は元気よく立ち上がった。
「僕は狩場幸太郎。今日から、このクラスでお世話になります。
前の中学校ではあまり目立たない存在でしたが、人と仲良くなることは得意です。
皆さん、どうぞよろしくお願いします!」
よし、噛まずに言えた。
このセリフは、本来なら西園寺輝樹が言うべき自己紹介だ。僕が人と仲良くなることが得意な訳がない。
もしかしたら、今のセリフによってフラグが立って主人公交代、なんてこともあるのかな。……それはないか。
次の輝樹の自己紹介はどうなるんだろう?全く同じセリフ言うのかな。ワクワク。
ニヤニヤしながら思わず輝樹の方を見て、僕の顔は固まった。
目をカッと見開いて、思いっきりこちら睨んでいる。
ニヤニヤを固めたまま、前を向いて見なかった事にした。
目が合ってないのに視線が痛い。歌舞伎でもそこまで目は開かないでしょ。こわい。やめて。
「次は、西園寺輝樹くん!」
「はい」
輝樹の出番が回ってくる。元気ないな。レア自己紹介だ。こんな状況でもちょっと嬉しい。
輝樹は、ロボットみたいな棒読みで話し始めた。
「俺は西園寺輝樹。今日から、このクラスでお世話になります。
前の中学校ではあまり目立たない存在でしたが、人と仲良くなることは得意です。
皆さん、どうぞよろしくお願いします」
思わず笑いを堪える。
なんだこれ、バグってる!
わざとゲームをバグらせて楽しむミラプリ動画があるのだが、それを彷彿とさせる素晴らしい棒読み。
そりゃそうだよね。ゲームのセリフだから変えられないもんね。
いま輝樹の方を見たらガチで顔面を殴られそうだから見ないようにしよう。ガマン、ガマン。
楽しい自己紹介も終わり、間も無く休憩時間に入る。
ちなみに水瀬鏡は、いつも通りの元気な感じだった。あの阿修羅みたいな顔は幻だったのだろうか。
さて、明智先生の話が終わったらすぐにことにゃんに話しかけよう。鬼みたいな輝樹に邪魔されないように気を付けないと。
「……では、ホームルームを終わります」
よし、終わっ……。
「狩場くん、だっけ?」
声のする方を見ると、輝樹が先程とは打って変わって爽やかな笑顔でこちらを見ている。相変わらず嫌になるくらいイケメンだ。
「は、はい。そうですけど……」
「話したいことがあるんだけど、少しいいかな?」
絶対にイヤだ。
「ごめんなさい、ちょっと」
「ちょっと、なに?時間あるよね?」
あくまで笑顔は崩さない。でも、目は明らかに笑っていない。
「ふぁ、ふぁい。時間、ありましゅ」
「じゃあ、ちょっとついて来て」
「ふぁい……」
言われるがまま、輝樹の後をついて行く。もちろん、会話は無い。
教室を右に出て、その先の階段を降りて1階へ。そのまま目の前の長い廊下を歩いていく。
このルートは、体育館かな?絶対良いこと無いじゃん……。
途中で左に曲がって体育館へ続く通路へ。この通路はもはや外のような通路で、途中にパンの購買店と自動販売機がある。
この通路が体育館に繋がっているのだが、中へは行かずに上履きのまま外の横道に抜け、体育館の裏へ到着した。
嫌な予感しかしない。っていうか100%嫌なこと起こるじゃん。心構えだけはしておかねば。
「狩場くん?」
「は、はいっ!」
僕は体育館の壁に背を向け、直立不動で輝樹を見上げた。そして。
バアァン!!!!!
輝樹の右足が、僕のお腹のすぐ横を思いっきり蹴った。当たってたら、即病院行きになってたやつだ。
輝樹はすぐさま僕の髪を右手でガシッと掴み、キスでもするんじゃないかという勢いで思いっきり顔を近づけた。
こうやって書くと見る人によってはワクワクするんだろうけど、やられてる側は本当におしっこ漏らしそうです。
「てめぇ……!」
輝樹からは想像もできないドスの利いた声で、僕に問いかけた。
「一体、何者だ……?」
「はう、はう、はう……」
「見たところバグってる訳でもねぇし、モブキャラともちげぇ。ウィルスにしちゃあ、覇気が無さすぎる」
「はう、はう、はう……」
「それになぁ、阿部だの小川だの佐藤だのいる中で、てめぇは異端すぎンだよ」
「はう、はう、はう……」
「この世界にはな、メインキャラ以外はありふれた名字っつー法則がある。
『狩場』なんて変わった名前、俺ら側じゃねぇと付けられねぇ」
「はう、はう、はう……」
「はうはう言ってねぇで答えろや!!」
「はう!は、は……」
「てめぇは、どこの世界の人間だ……!?」




