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両親

「ただい」



「幸ちゃんっっっ!!!!!」



 玄関を開けた瞬間、ママに思いっきり抱き締められた。


「幸ちゃぁぁぁん……うわぁぁん……!」


 痛い。潰れる。ママ泣きすぎ……。


「幸太郎、一体何があったんだ……?」


 ふと奥を見ると、パパも泣きそうな顔で僕を見ている。


「いや、大した事じゃ」


「幸ちゃん……!良かった……!幸ちゃん……!」


 あれ、僕、誘拐されてたんだっけ。


 泣きじゃくるママを連れてリビングへと向かう。


一旦ママをイスに座らせたが、落ち着く事はなく顔に手を当ててシクシク泣いていた。


「幸太郎。隠している事があるなら、話してみなさい。


自覚していないだろうが、最近の幸太郎は様子がおかしい。


特に今月に入ってから、人が入れ替わっている様な錯覚に陥る事もあるんだ。


ここ1週間くらいは落ち着いていたと思っていたが、今朝の様子を見てしまうとやはり……」


 そうか。


 このパパとママにとっては、無意識の僕が本来の僕だ。


そういえば、最初の頃は皿を片付けただけで褒められてたな。


ママが僕の身体を拭こうとした事もあったし、考えてみれば無意識の僕って超過保護に育てられてる気がする。


「単純に、幸太郎の事が心配なんだ。


なんでもいい。話せることはないかい……?」


 パパの哀しい視線が痛い。なんでもいい、って言われてもなぁ……。


「……パパとママは、異世界って信じる?」


「異……なんだって……?」


「幸ちゃん、どういうこと……?」


 物は試しだ。良い機会だし、ちょっと話してみよう。


「えーっと、例えばだよ?


僕が、異世界から来ました!って真面目な顔で言ったら、信じてくれる?」


「それは……」


 パパが絶句する。ママも目に涙を溜めて、凄い顔で僕を見てくる。


「……やっぱり、信じられないよね。心配させてごめん。もう大丈夫だから、安心して」


 普通はこんな感じだろう。割とすんなり受け入れる皆が異端なのだ。


 困惑する二人を尻目に、とりあえずカバンを置きに部屋へと戻る。


夕飯までは時間があるから、それまでに日記を書いてしまおう。


机へ向かって日記をペラペラとめくり、思うままに無意識の僕へメッセージを綴っていった。


「無意識の僕へ。


まずは、1週間みんなと過ごしてくれてありがとうございました。


そして、突然いなくなってしまって本当にごめんなさい。


結局、何が原因なのか僕にも分かりませんでした。


クヨクヨ考えても仕方ないので、とりあえず今は日曜日を無事に迎える事だけを考えています。


なので、明日はゆっくり過ごして下さい。


書きたいこと色々あるけど、一個だけ言わせて下さい。


女の子には、優しくすること!


自分勝手なのはダメだよ?


それでは、良い休日を!


P.S. 次のページにモッチの財布の入手方法を書いておきます。もし僕が戻らなかったら、代わりにお願いします」


 メッセージはそこそこに、改めてモッチの財布の入手方法を事細かに書いていく。


大丈夫だとは思うが、目覚めたら月曜日だった、という可能性は充分にある。


そうなった場合、不安だが無意識の僕に行動してもらう他ないのだ。


特に不安なのが、黒猫の『にゃにゃーん』の声をどう聞き分けるのか。


画面で見れば一発で分かるが、猫の鳴き声を聞き分けるなんて、今の僕にだって出来るのか分からない。


それでも代行してもらわないとモッチの財布は手に入らないのだ。日曜日にちゃんと僕が目覚めるのを祈るばかりである。


簡易地図やらなんやら試行錯誤しながら何とか書き終えた辺りで、部屋のドアがコンコンとノックされた。


「幸太郎、ディナーにしよう」


「はーい」


 日記をパタン、と閉じてリビングへ向かう。


 テーブルにはステーキが並べられていて、パパとママのグラスには赤ワインが注がれていた。


『いただきます』をして肉を頬張る。当たり前の様にめちゃくちゃ美味しいが、いつにも増して無言であった。


今日は二人のワインのペースが早いな、と思った辺りでパパが口を開いた。


「……幸太郎。先程の話だが、良いかな?」


「うん。なんでも聞いて」


 完全に酒の勢いで話そうとしてるな。


「その……異世界?というのが何なのか、まずは教えてくれないかな」


「いいよ。でも、笑わないで聞いてくれる?」


「当たり前だ。どんな話でも、息子の話は真剣聞くさ」


「ママもバカだけど、ちゃんと聞いてるからね?」


「ありがとう、わかった。まずは……」


 それから、ほろ酔いの二人が理解できるよう丁寧にこの世界に来てからの話を進めた……つもりだ。自信はない。


食事の手を止めて真剣に聞いてくれていたから多分、なんとなく理解してくれたとは思う。


「──それで、これが『スマートビュー』っていう機械だよ」


 ミラプリの話が終わった辺りで、僕は二人にスマビュを見せた。


「ちょっと、貸してくれないかい?」


「いいよ」


 そのままパパにスマビュを渡す。指でスマビュをなぞりながら表情を強張らせ、ママも横から覗き込むように凝視している。


「……確かに、こんな物を買った覚えはない。驚いたな……」


「ママも初めて見たわ……」


「どう?僕の話、信じられそう?」


 二人して唸るばかりで、スマビュから目を離さない。


パパが僕をフッと見て、またスマビュに目をやる。


ママも僕をフッと見て、またスマビュに。


「……ど、どしたの?」


「いや、信じたいんだが、理解が追いつかなくてね……」


「パパ、ワイン呑まない方が良かったんじゃない……?」


「そうかもね……。幸太郎、もう少し詳しく話を聞かせてくれるかい?」


「うん、いいよ」


 そして、今度は学校での出来事を事細かに話した。


かがみんに嫌われたりことにゃん親衛隊に入った事も伝えたが、まどかの事は触れるだけで深くは言わなかった。


「──それで、日曜日だと思ったら金曜日になってたから、慌てて占いの館に行って相談しに行ったんだ」


「やたらと家を早く出る日があったのも、占いの館へ行く為だったのかい?」


「うん。ごめんね、あやふやなこと言っちゃって」


「気にするな。それよりも、幸太郎には悪いが、信じがたい話を聞いてしまった」


「幸ちゃんが言うなら本当だと思うけど……その……」


「大丈夫。妄想だと思うなら、それでいいから。


学校のみんなはまだしも、パパとママは極力巻き込みたくないんだ。


こんなお願いで悪いんだけど、今まで通り接してもらえないかな?」


 再び、二人が唸る。


 突然、息子がこんなこと言い出したら色んな意味で心配するよね。なんか、申し訳ないな。


「……わかった。今まで通り、幸太郎と接するよ」


 パパが声を絞り出すように言う。


「正直に言うと、パパはまだ信じられない。


だけど、こういう出来事が起こっている、という認識だけはしておくよ。


だから、その、攻略……というのかな。


そう言った類の、何か急用ができたら、きちんと話をしてから家を出発しなさい。


突然いなくなると、やっぱりパパとママは心配だ。


学校に行くのを躊躇うこともあるだろうが、そういう時も必ず家に連絡をすること。


パパとママが心配する分にはいいけど、学校にまで迷惑をかけるのは良くないからね。


これだけは約束してほしい。わかったかい?」


「うん、わかった。ありがとう……」



 別に、信じて欲しかった訳じゃない。


 だけど、こうやって理解しようとしてくれるのは、素直に嬉しい。


 なるべく巻き込みたくないけど、協力してくれるなら本当に助かる。


 無意識の僕は良いパパとママに恵まれて幸せだな。


 ありがとう。パパ、ママ。


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