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約束

 なんということだ。少し休むつもりが、間も無く昼休憩の時間に突入しようかという時間になってしまった。


黒い日記をしまってベンチを立ち、焦りながら走って学校へと向かう。


本来、僕は超が付くほど真面目である。


無断でこの時間までサボる事は、僕にとっては常軌を逸している行動だ。


追い討ちをかけるかのように、歩道橋の辺りで昼休憩を告げる学校のチャイムが鳴り響く。


そして焦りがさらに加速する。階段を1段飛ばしで駆け上がりながら歩道橋を渡り、猛ダッシュで学校の玄関へ向かった。


乱暴に靴を脱いで下駄箱へと突っ込み、上履きのカカトを潰しながら走って教室内へ飛び込んだ。



「遅れましたぁー!!」



 何事かと皆がこちらを向く。


 息を切らしながら教室を見渡すと、いつもの隅で親衛隊のみんなとまどかがテーブルをくっ付けて座っていた。


 すぐに、まどかと目が合う。


 泣き腫らしたような顔がさらにグチャッとなり、僕へ駆け寄ってくる。



「幸太郎くーーーーーーん!!!!!」



 両手を広げて向かってくる。やはり寂しい思いをさせてしまっていた。



「ごめん、まど」



 バチーーーーン!!!!!



 左頬に、強烈な痛みが走る。


 

「……え、何」



 バチーーーーン!!!!!



 続けて、右頬。



「……!?」



 息切れも忘れる、大パニック。なにこれ。



「バカッ!バカバカバカッ!!バカーーーッ!!!」



  そして僕の胸にうずくまり、両手でポカポカ……いや、これはドンドン?ガシガシ?


とにかく、強い握り拳で僕の胸を叩いている。



「ま、まどかさん……痛いです……」


「バカアァ……!うわぁぁん……!」



 あれ、これ僕が泣かせた……?



「ちょ、い、一回落ち着いて、ね!?」


「うわあぁぁ……!!」


 そんな大声で泣かないでっていうか罪悪感ハンパないっていうかクラスメイトの視線痛いしあびゃあ。


「一回行こう!みんなの所!はい、行こう!!」


 胸の中で泣きじゃくるまどかを無理やり移動させ、なんとか親衛隊のみんながいる席へと辿り着くことができた。めっちゃ長く感じた。つかれた。


右手前にまどかを座らせると、そのまま机に突っ伏して嗚咽を漏らし続けた。


その奥で加藤氏も泣きそうな顔で僕を斜めに見ていて、左奥の渡辺氏と左手前の田中氏も同じように涙目で僕を見ている。


 

 この空気、苦手だ……。



「……とりあえず、改めて」


 僕はピンと背筋を伸ばし、深々と頭を下げた。


「心配させてしまって、本当にごめんなさい……」


 

 頭を上げるが、先程のようにみんなを見ることができず無意識に俯いてしまう。


謝罪をして、改めて心苦しい気持ちが湯水の様に湧き出てしまったのだ。


「狩場氏、無事で良かった……」


 加藤氏が涙声でポツリと呟く。


「朝、狩場氏がいなくてな……。もう、一生戻って来ないと思っていた。


本当に、異世界の狩場氏なのだな……?」


「うん。本当にごめん……」


「謝らんでいい。まずは、なぜ1週間も消えてしまったのか訳を聞きたい」


「占いばあさんから色々と聞いて考えていたが、1週間も消える理由が思い当たらなくてな……」


「先程も我々が何か傷付けるような事をしてしまったのでは、と反省していたのだ……」


 各々が絞り出すような声で告げる。


 そんなトーンで言われると、余計に罪悪感が増してしまう。


「……みんなは、何も悪くないよ。安心して。


実は、僕もよく分かってないんだ。


スキップしたのは分かるけど、何がフラグになったのか全く……」


「やはり、狩場氏が望んだ訳ではなかったか」


 加藤氏が眉をひそめて言う。


「そうなんだよ。むしろ、何でスキップしちゃったんだろう、っていう気持ちの方が強いかな」


 ふと顔をチラッと上げると、まどかが鼻をすすりながら机に両手を組んでいた。


「……もう、いなくならない?」


 僕の方を見ず、言葉を続ける。


「どこにも行かないって、約束してくれる……?」



 約束。


 本当はこの場でちゃんと、約束したい。


 だけど、原因が掴めない今は、軽々しく約束なんて出来ない。



「……急にスキップする原因がわからないから、今はまだ約束できない。


1週間どころか1カ月、2カ月、更に半年以上もスキップしたらどうしよう、って不安で……。



だけど、僕はどこにも行きたくない。



できればこの世界で、ずっと生きていたい。



だから、スキップの原因をみんなと一緒に考えさせてほしい。ワガママだけど、協力して下さい……!」



 まどかだけでなく、改めてみんなに向かって頭を下げる。


 沈黙は長くは続かなかった。


 まどかが、そっと口を開いたのだ。



「……じゃあ、私のお願いも聞いて?」


「……なに?」



 頭を上げて、まどかへ向き直る。



 次の言葉を聞いて、僕に衝撃が走った。



「次の日曜日。私と、デートして下さい」



 次の日曜日。


 それは、福引が行われる当日。


 知ってか知らずか、まどか自身の価値とモッチの財布を天秤にかけたのだ。



 ……まどか。


 それ、本気で言ってるの……?



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