抗い
「死ぬ……って、どういうこと……?」
まどかの戸惑いとも怒りとも取れる黒い瞳が僕を捉える。
しゅり先輩も返答を待つように、ジトっと僕を見ている。
「そんな大したことじゃないんだけどねー」
めっちゃ機密事項だわ。ふざけんな。
「ゲームだと友好度ポイントでエンディングが変わるじゃん?
だから、この世界も同じだとしたら、友好度で運命が決まるんじゃないかなぁ、って感じ」
「幸太郎くん。そうじゃなくて死ぬとか殺されたり、っていうのが……」
「あぁ、ごめんね宇月さん。
えっと、バッドエンディングっていうのがあってさ。
それが死んだり殺されたり……」
ここで、無意識の僕がハッとする。やらかしたの気付いたな。
血の気がサーっと引いて、必死で言い訳を始めた。
「あ、ゲ、ゲームの話ね!あくまでもゲームの中で!!
ほら!!僕達の生きる世界がゲームと同じって異世界の僕が言ってたからさ!!可能性としてさ!!」
「……友好度ポイント上げないと、幸太郎くんが死んじゃうってこと?」
あーあ、まどか不安になっちゃったよ……。
「えーっと……そう!そういうこと!
だから、友好度ポイントめっちゃ大事!」
「……幸太郎くん。そのバッドエンディングとやらを、少し詳しく聞かせてもらえないか?」
しゅり先輩、追い討ちかけたか。
「あぁ、あぁ、あぁ……!」
大パニックかよ。全く、後先考えないから……。
慌てふためく僕に助け舟を出したのは、占いばあさんだった。頼りになる方だなぁ、ほんとに。
「……お二人さん。この子が言っている事は、お前さん達の行く末に関する事だ。
これは占い師としての意見だが、未来を知りすぎるというのは、あまり良いことではない。
運命とは、自らが切り開き、変えていくもんだ。
ポイントとやらは確かに重要かもしれんが、大事なのは人と人との関係さね。
そんなもん頼りにしてたら、破滅するだけだて」
相変わらず不安そうな表情のまどかが口を開く。
「決められた運命って……変えられるんですか?」
占いばあさんの眉がピクッと動く。
「この世界はプログラミングされている、って言ってましたよね?
例えば、ロボットって決められたこと以外は基本的に出来ないはずです。
その……私達がロボットじゃない事くらい、わかってるんです。
だけど、この世界がロボットみたいに、全部決まった通りに進む世界だったら、って考えると……」
「お前さんの言いたい事はわかる。
しかし、だ。
アタシはこの世界を何遍もループしているが、その度に誰かが一字一句おんなじ言葉を使って話をしているかっていうと、そうじゃないね。
話の内容は被っていても、伝える仕草や言葉のチョイスなんかは違ってくる。
ロボットみたく全部決められていたら、気持ち悪いぐらいに全てが同じでないとおかしいだろう」
そうなんだ、知らなかった。
でも、ことにゃんが授業中に固まってる件もあるし、一概には言えないような……?
「いいかい、よーく覚えておきな。
未来は、自らの手で変えられる。
お前さん達は、この世界に生を受けた人間だ。
何を考え、何を選択するのか。
予め決められた事柄なんざ、何一つ無い。
一つ一つの行動が、お前さん達の未来を作っていくんだ」
占いばあさんの話には説得力がある。
まどかとしゅり先輩は、その言葉を噛み締めるように無言で頷き、無意識の僕も分かりやすくホッと胸を撫で下ろしている。
しかし、残念ながら僕の意見は違う。
占いばあさんではなく、輝樹に関する疑問が、ここで生まれてしまったのだ。
もちろん輝樹は、この世界をループしている。
そしてこの世界で実際に、メインキャラクター達と沢山のエンディングを経験しているはずだ。
ゲーム内ではベスト・グッド・ノーマル・バッドの4種類。
もしも、この4パターン以外のエンディングを、輝樹が経験していなかったら。
運命はやはり、予め決められていると言っても良いのではないだろうか。
日記を閉じて顏を上げる。
必死で読んでいたせいで、周りが少しボヤけて見える。そして目が凝ってる。かゆい。
『はぁー』と溜息のような声を出して、空を見上げてリラックス。
所々に白い雲が浮かんでいて、犬だったり車だったり、ふわふわ形を変えて飛んでいる。
本当に休日のようだけど、思いっきり学校をサボっているのだ。
頭を使いすぎて、眠気まで襲ってきた。
無意識に目を閉じると、最後に占いばあさんがポツリと言った言葉が浮かんできた。
「この世界を誰が作ったかなんて知りたくもないし、興味も無い。
神様なんざ、結局は人間の作り出した偶像さ。
祈るばっかしで、大事なもんを捨てんじゃあないよ」
この世界を作った人、か……。
感謝すべきか、恨むべきか。
今の僕には、まだよくわからない。
──。
──愚かなキャラクター達だ。
運命を変える、などと曰う暇があったら、後悔しないようにこの世界を満喫したまえ。
運命は、すでに決定している。
誰にも変えさせないし、変える権利も無い。
せいぜい決められた世界の中で楽しむがいい。
そして、もっとワクワクするような展開にしてくれたまえ。
狩場幸太郎。
君が必死にもがく姿を、これからも楽しみにしているよ──。




