秘密
時間にして30分程だろうか。
結果的に占いばあさんは今までの僕とのやりとりをほぼ全て話し、
この世界のシステムについて、親衛隊のみんなとまどかに情報共有する形となった。
親衛隊の面々は終始戸惑いを隠せない様子で、
時々『えぇ……?』とか『はぁ……?』とか呟くように言っていた。
まどかはというと、僕からは後ろ姿しか見えないので表情はわからないが、
肩が凝るんじゃないかと思うくらいに腕を伸ばし、背筋をピンとさせて話を黙々と聞いていた。
占いばあさんが話を終えると、フゥーと息を吐いて僕達をじっとり見回した。
「どうだい、理解できたか」
その言葉に、返事は無い。
各々が小さく唸り声を上げるだけで、頭の中で整理しようと必死になっているのがわかる。
「……無理もないか。輝樹以外にここまで色々と話をしたのは、永らくこの世界を廻って初めての事だ。
別に隠す必要は無いが、話す必要も無かったでな」
言い終えて、暫く無言が続いた。考える時間を与えたのだろう。
その沈黙を破るように、まどかがそっと口を開く。
「……おばあさんは、この世界をずっと繰り返してるんですよね?」
「あぁ、そうだよ」
「最初の記憶って、ずーっと残ってるんですか?」
「歳だから忘れちまってる事もあるが、人の顔と名前は覚えているよ。あんまし絡みが無いと忘れちまうがね」
「そうですか……」
そう言うと、まどかは続けて質問をした。
「おばあさんって、ずっと独りぼっちなんですか……?」
「なんだい、そんな悲しそうな顔して。アタシにゃ孫がおるよ。定期的に晩飯を作りに来てくれてな。
見た目は奇抜だが、とても優しい子だ。お前さん達と同じくらいの歳じゃないかね」
そうだ、孫がいるとか言ってたんだ。どんな子なんだろう。単純に気になる。
そして、まどかは質問を終えても哀しみのオーラを絶やさない。
そんなまどかに対し、占いばあさんは優しい目をして言う。
「お前さん、さっきから何か言いたい事でもあるんかい?
気を遣わないでいいんだよ。訊きたい事を訊きんさい」
「……気を悪くしてしまっていたら、ごめんなさい。
言いたい事がある訳じゃないのですが……」
言葉を絞り出すようにして、まどかが続ける。
「おばあさんって、この世界を繰り返してる、って事ですよね?
つまり、おばあさんが覚えていても、他の人は忘れちゃってる……って事ですよね。
相談に乗って解決してきた悩みも、楽しかった思い出も、
相手の人は全部忘れてて、自分だけが覚えてて、
おんなじ悩みを何回も解決して、何回もおんなじ思い出ができて、それが永遠と続いてて……。
そんなの、哀しすぎるじゃないですか……」
最後は消え入るような涙声となり、呟くように言葉を放り投げた。
それを聞いた占いばあさんはフッと笑い、当たり前のように返答をする。
「この歳になると、日々の出来事を長くは覚えておけないんだ。
何遍もこの世界を繰り返してるお陰で、記憶がどんどん刷り込まれていく。
ボケ防止にはちょうど良いさね」
「そんな強がり言われたら、余計に哀しく……」
「お前さんは優しいね。強がりでも何でもない事実なんだが、そういう事にしておこう」
占いばあさんは、まどかを安心させるように言葉を続ける。
「幸太郎が現れて、今までには無かった、いろんな新しい出来事が起こっている。
これはいよいよ、この世界から抜け出せる時が来たのかもしれんな。
まぁ、こんな老いぼれだから抜け出した所ですぐ死んじまうだろうがね。
だが、何遍も辛い目に合うよりマシだ」
「辛い、って……?」
その質問を聞き、占いばあさんは『しまった』という苦い表情を浮かべた。分かりやすい。
「……時が来たら話そう。永遠に訪れんかもしれぬが」
「そんな……。せめて、何があったのかくらいは聞きたいです」
「そうさね……」
占いばあさんはしわくちゃの目をギュッと閉じて考え、それから細く目を開けて言った。
「生き死に関する問題、とだけ言っておこうか。
アタシがどうこう、って訳でもないが……。
とにかく、今は関係の無い話だ。
隠しておきたい秘密ぐらいは誰にだってある。
この話は辞めにしとくれ」
占いばあさんでさえ隠しておきたい、生死に関わる秘密?
一旦、黒い日記を閉じて何かヒントがないか思い出してみる。
暫く考えていたが、その話のヒントのような会話をした記憶は全く無い。
それどころか、占いばあさんの言う生死に関する話題は出ていなかったのだ。
仕方ない。この事ばっかり考えるのも時間の無駄だ。いずれわかるだろう。
日記に目を戻し、重要な事を思い出す作業を再開させる。
読み進めていくと、占いばあさんの言っていた無意識の僕に無理矢理ハート消費をさせる実験は、火曜と水曜に行われていた。
その場にまどかもいたが、ここで初めてしゅり先輩が現れている。
そして木曜日。同じメンツで占いばあさん含め4人であれこれ言いながら、僕が戻らない事について議論を交わしていた。
「そもそもハートと言うのは、どのような意味があるのでしょうか?」
しゅり先輩がアゴに手を当てて言う。
「確か……。ハートがあると友好度とやらが上がり、無きゃあ上がらん、といったシステムではなかったかな」
占いばあさんも必死で記憶を辿っている。
「ハートが無いと幸太郎くんと仲良くなれない、ってことですか?」
まどかも腕を組んで考えている。
「厳密に言うと、ポイントとやらが上がらん、と輝樹が言うていた気がするよ」
あれ?無意識の僕は?
「ふむ……。友好度ポイントはそこまで重要なのだろうか。幸太郎くん、どうなんだい?」
お、しゅり先輩が僕に振った。
「えっとねー……」
……あ。
無意識の僕、また余計なこと言ってるな……。
「エンディングが変わるから重要みたい。
死んだり殺されたりするから、友好度ポイントは上げた方がいいんだって」
本人の目の前で最悪のネタバレするなよ……。
もうね、呆れて何も言えないわ……。




