狂気
「それで、異世界の狩場氏はどこへ消えたのだ!?」
「異世界へ帰られてしまったのか!?」
「狩場氏は何か言い残していったのか!?」
「ちょっと、落ち着いて!僕だってビックリしたんだから!」
僕の席を囲うようにして、親衛隊のみんなが無意識の僕を問い詰める。
朝から教室で騒がせている事が申し訳ない。
イベントスキップして誰かに迷惑が掛かる恋愛ゲームなんて聞いた事ないよ……。
「とりあえず、あっちの僕は金曜日に帰ってくるから大丈夫なんだって」
少し狼狽ながら、無意識の僕が冷静に答える。それに対して、興奮冷めやらぬ加藤氏が僕に質問を浴びせた。
「誰がそんな事を!?」
「占いばあさんって人が」
「どんな人物だ!?」
「えっと、異世界の僕を占いしてくれてる人で」
「信頼できるのか!?」
「うーん、多分……」
「何者なんだ!?」
「えーっと……」
勢いが凄い。そんな必死にならなくてもいいのに。
「加藤氏、取り乱してはならぬ」
「狩場氏の事を心配しているのは皆同じ。冷静になるのだ」
「ハーッ、ハーッ……」
珍しいな、加藤氏がこんな風になるなんて。
「異世界の狩場氏がいなくなったのは今日か?」
「昨日は普通に過ごしていたのか?」
田中氏と渡辺氏が改めて僕へ質問をする。
「昨日からいなくなっちゃったんだよ。朝起きたらまだ日曜日で、ヤバイなぁって思って。
それで、異世界の僕がいつも行ってる占いの館に行ったら、胡散臭いお婆さんが出てきて、金曜日に帰ってくるよーって言われてさ」
「占いの館か……」
「確か、公園の近くにあるな」
「渡辺氏、行った事があるのか?」
「祖父がたまに占いばあさんと喋りに行っているらしい。田中氏は知らないのか」
「場所は知っているが、入った事はない。占いで金を取られるのはシャクだからな」
「いや、あそこはボランティアでやっていて金は取らないらしいぞ。
結構当たると評判なんだが、逆に当たり過ぎて不幸な目に遭った人もいるらしい」
「そんなに恐ろしい場所だったとは……」
「しかも、ヤンキーが出入りしているという噂がある。俺は近づこうとも思わんよ」
「うーん、狩場氏はつくづく変わったお方だ」
何を話してるんだ、この二人は。
「どうする?占いの館、行ってみる?」
「……興味がある」
ようやく落ち着きを取り戻した加藤氏が答える。
「狩場氏の未来を占うことが出来る人物。これは相当、貴重な存在だと思う。
ことにゃん様と宇月氏の両方が幸せになる道も、何か指針を示してくれるかもしれん」
「それはデカいな」
「ならば、決定だ」
こうして僕達は放課後、占いの館へ行くことが決定した。
ところで。
この時、まどかは学校へは来ていなかった。登校してきたのは昼休憩。
渡辺氏の席でいつもの様にランチを食べ始めようとして、申し訳なさそうに声を掛けてきたのだ。
「ごめん、こんな時間になっちゃった……」
「宇月氏、体調は大丈夫か?」
「うん、平気。それより、幸太郎くん……?」
あれ、普通に僕のこと名前で呼んでる。
「本当に、異世界じゃない方の、幸太郎くん……?」
……あ。
……あ、あ、あ。
……あああああぁぁぁぁ!!!!!
「うん、そうだよ。なんで知ってるの?」
「実はね……」
そうだ、思い出した……!!
「西園寺くんが私の家に来て、教えてくれたの」
輝樹、まどかの家まで……!!
「西園寺が!?」
加藤氏が声を上げる。輝樹は教室にはいない。
「うん。金曜日に帰ってくるって言ってたけど……ほんと?」
「あぁ。こちらの狩場氏が占いばあさんから聞いた、と」
「あの人がウソついていなければ、の話だけどね。でも、なんで西園寺くんが知ってるんだろう?」
「それが、西園寺くんも占いのおばあさんから聞いたみたいで……」
「アイツも通っているというのか」
加藤氏が鋭い眼光でまどかを見る。そんな目で見なくてもいいのに。よっぽど輝樹のこと嫌いなんだろうな。とばっちりだ。
「うん、そう言ってた。
……あ、部屋に入れたわけじゃないよ?
玄関の前で、独り言みたいにブツブツ言ってただけ。
私はずっとシカトしてたんだけど、やっぱり気になっちゃって……。
騙されてるのかな、と思ったんだけど、ほんとにほんとなの?」
「それを確かめる為に放課後、我々で占いの館へ行こうと話をしていたのだ」
「じゃあ私も行く」
まどかがすかさず口を挟む。
「幸太郎くんがいなくなるなんて絶対にイヤ。
どんなおばあさんか知らないけど、納得いくまで全部聞きたい。
もしウソついてたら、刺してやる」
本気だ。本気の目だ。
さっき会ったから本当に刺した訳じゃないけど、確かな狂気を感じた事は覚えている。
……あ、そうだった。
まどかのバッドエンディング、凄まじいんだった。
まだ大丈夫だけど、間違った方向に行かなきゃいいなぁ……。




