無礼
──土曜日は特に何もなく、平凡な休日を過ごしていた。本来の無意識の僕の幸せな1日である。これはこれで嬉しい。
さて、問題は日曜日だ。
起きた瞬間、異変に気付いてリビングへと向かった。
「ママ。今日って……日曜日?」
「もちろん!どこか行きたい所でもある?」
「いや、そうじゃないんだけど……ありがとう」
腹の底から湧き上がる、不安の塊に飲み込まれそうな心待ちになる。
小さな声で『ヤバい』と連呼しながら、無意識の僕は占いの館へと向かった。
「す、すみませーん……」
恐る恐るのれんをくぐる。占いばあさんはいつもの様に、水晶を前にイスへと腰掛けていた。
「幸太郎、おはよう。どうした、そんなにビビっちまったような素振りをして。また何かあったか」
「あのー……。ここって、占いの館って所ですよね……?」
「そりゃそう……!?」
占いばあさんが、何かを悟ったように大きく目を見開く。
「お前さん、もう1人の幸太郎か……!」
「あ、初めまして。どうも」
猫背になりながら、首だけを下げるようにカクッと会釈をする。
「いつものはどうした」
「それが、消えちゃって……」
「消えた……?」
占いばあさんが訝しげな顔をする。
「朝起きたら、普通に日曜日だったんです。それはいいんですけど、もう1人の僕はどこ行っちゃったのかなぁ、って思ってとりあえずここへ……」
「うーむ……。とりあえず座んな」
言われて、僕は背筋を伸ばして占いばあさんの前に座った。ちょっと怖がっているらしい。
「輝樹にも似たような現象はある。
『スキップ』っちゅうもんでな、重要な日まで記憶をすっ飛ばす事ができるらしい。
お前さん、いつもの機械は持ってきたかい」
「はい、あります」
「奴はそれを弄っておったが、見てみてくれんかね」
「はぁ……」
相変わらずポケーっとした受け答えだ。でも、内心はめちゃくちゃビビっている。
スマビュを取り出して、何度もスクロールを繰り返してそれらしき項目を探していく。
「……うーん、無さそうですね」
「そうか……」
占いばあさんが苦い顔をする。
「元々は別世界の子じゃけぇ、帰っちまったのかもわからん。
一旦、占いで確認するとしようか」
「なんか出来るんですか?」
「簡単な未来を占うだけだがね。何かわかるやもしれん。ちょっと待っておれ」
占いばあさんが水晶に手をかざす。
しばらくすると、緊張していた占いばあさんの顔がほぐれ、無意識の僕へ微笑むように言った。
「次に幸太郎が戻ってくるのは、金曜日だ。コイツがそう言っている」
「この水晶がですか?それほんとですか?」
「こういうのは良く当たるんだ。消えちまった訳じゃないから安心しな」
無意識の僕は半信半疑だ。胡散臭いばあさんだな、と思ってあまり信用していない。
「ありがとうございます。それで、いくら払えばいいんですか?」
「なにを?」
「お金です。いくらですか?」
「占いで金は取っておらん。年金生活者の趣味と思っておればいい」
「そうなんですか。わかりました」
僕が立ち去ろうとする。それを見て、占いばあさんが声を掛けた。
「待ちな」
「はい?」
「もう1人のお前さんは、モッチの財布を手に入れるために、毎日占いをしておる。
ここで辞めちまうと、手に入れられんみたいでな」
「あぁ、なんかやってるみたいですね。
じゃあ、僕が代わりに占っておきます」
「うむ。では、占ってやるから座って待っておれ」
無意識の僕はもう1度だけ着席をして、占いの結果を待った。本当に当たるのかなぁ、という疑いの気持ちは変わらない。
「今日の運勢は……吉だ」
「それって良いんですか?」
「わりかし、な。
ところで、これからどうするつもりだ」
「とりあえず家に帰って、どうするか考えてみます」
「そうかい。それにしても……」
占いばあさんが眉をひそめる。
「お前さん、いつもの幸太郎とは違って別人のようだね」
「はい。別の人なんで」
「……まぁ、良い。せめて明日だけでも、また来てくんな。
どんな理由かはわからんが、恐らく本意でのスキップではなかろうて。それが不憫でな」
「わかりました。ありがとうございました」
「気ぃ付けてな」
それから、宣言通り僕は家へ帰っていった。
何か行動を起こすかと思いきや、気持ちを切り替えてRPGゲームをやっている。で、レアアイテムをドロップして喜んでいる。
ふざけんな。何もしてないじゃんか。
内心は『考えても仕方ないからいっかー』である。
しかも、レアアイテムをドロップした事と占い結果の『吉』が結び付いて、僕が金曜日に帰ってくると安心し切っている。なんて単純なんだろう。
つくづく、どうしようも無い僕である。どうしたらこの狩場くんは成長するのだろうか。
このまま放っておいたら、いずれ大事件を起こしかねない。日記で説教しようかな。
結局、この日は1日遊んで過ごしていた。次の日、僕は普通に登校して朝イチで親衛隊のみんなへ報告をした。
「おはよう、加藤氏」
「おはようございます、狩場氏」
「いきなりなんだけどさ、僕、明日からの僕なんだよね」
「……ん?というと?」
言葉の意味がわかってないらしい。改めて、僕が加藤氏に告げる。
「だから。異世界じゃ無い方の僕なの、いま」
「なに?月曜日は異世界の狩場氏のはずであろう?」
「そうなんだけど、金曜日に戻るみたいで、それまで消えてるみたい」
「消え……なんだと!?」
加藤氏の顔が青ざめていく。狩場くんの言い方が悪かったな、多分。
「他の者を呼んでくる。しばしお待ちを!」
そういうと、加藤氏は田中氏と渡辺氏に声を掛けに行った。まどかはまだ来ていないらしい。
……そういえば、まどかの土日はどんな状況だったのだろうか。
それを思い出すのは、もう少し話が進んでからになりそうだ。




