パニック
急いで占いの館へ向かう。記憶を思い出している暇なんてない。とにかく、何が起こっているのか訳がわからない。
「おばあさーーーん!!!」
「おおっ!?」
コケそうになりながら占いの館へ駆け込み、占いばあさんの前にある机にダンッ!と手を付いた。
「時間が飛んだ!1週間まるまる!どうしよう!」
「まぁまぁ、落ち着け」
「無理ですよ!モッチの財布も手に入らないし、まどかも悲しませただろうし……」
「いいから。話してやるから、まずは座んな」
息を切らせながら、イスへ腰掛ける。
どうしよう。大変なことになってしまった。
「まずは、モッチの財布だがね、別の幸太郎が毎日来て占っておる。安心しな」
「でも、僕じゃないと意味ないかも……」
「幸太郎は幸太郎だろうに。そんなに不安がる必要はないよ」
占いばあさんは全く動じること無く、穏やかな表情を浮かべている。
僕を落ち着かせようという雰囲気はわかる。だけど、占いばあさんが焦っている様子は1ミリもない。
「輝樹もね、初めての時はこんな感じだった。アタシも慌てちゃってねぇ。懐かしいよ」
「て、輝樹……?」
何故いきなり輝樹が出てくる。
「それにな。幸太郎が選ばれた人間だと再確認する事ができた。アタシャ嬉しいよ」
「ごめんなさい、さっきから何を……?」
「あぁ、すまんかったね。
これはな、『スキップ』という現象だそうだ」
「スキップ……」
ミラプリの世界にもスキップ機能はある。しかし、これは1度クリアしたイベントのみ有効となり、
未経験イベントはどんなに周回しようとスキップ出来ないのだ。
考えられる事は、この1週間の出来事が、全てゲームと同じような展開になったという事。
そうでなければ、説明がつかない。
それに……。
「僕、この世界をまだ1度もクリアしてないです……」
スキップできるのは2周目から。初回でいきなりスキップなんて、チートを使わない限り不可能だ。
「アタシも、そこが妙な所だと考えておった。
本来であれば、幸太郎が持ち歩いてる機械の中で操作が出来るらしい。輝樹がそうだったでな」
このスマビュにそんな機能まで付いてたのか。
「別の幸太郎にも確認させたが、画面にゃ項目が無いと言うていた。
まぁ、別の世界から来た人間じゃけぇ、輝樹とはまた違った形の方法っちゅう事だわな」
そうなんだ……。
「でも、僕は何もしていないんです。日記を書いて、ただ眠っただけでスキップできるなんて流石におかしいと思います」
「心当たりはないか」
「はい、何も……」
寝て起きたらいきなり1週間後だ。心当たりも何も……。
「……あれ、もしかしてハート残数が無いのに無理やり行動して、おかしくなったんじゃ……?」
「あぁ、それは無いから安心せい。別の幸太郎にも2日間試してもらったが、お前さんが戻ってくることは無かった」
「え、どうやってそんなにハート残数減らしたんですか?」
「簡単だ。占い5回やって、それで終いさ」
「あ、そっか……」
「心当たりが無いとなると、謎は闇に包まれたままだ。
いずれわかる時が来るだろうが、問題はスキップするタイミングさね」
「そうですよねぇ……」
何もしてないのにスキップされたとなると、迂闊な行動ができなくなる。
せめて、何がフラグになってスキップしたのかぐらいは突き止めなければならない。
「あまり考えていても仕方があるまい。
それよりも、今日は福引き前の最終占い日だ。
忘れないうちに、やっちまわないとな」
「そうですね……」
「幸太郎が不安なのはわかる。
だが、別の幸太郎は良くやっていたと思うよ。
周りのお仲間さんにも、きちんと感謝しときな」
「え、みんなここに来たんですか?」
「男が3人と女が2人ばかしな。
大所帯で来てもらえて、アタシも暇しないで済んだ。
あの子らによろしく言っておいとくれ」
男3人、というのは親衛隊のみんなだろう。
残りの女2人っていうのは、まどかと……しゅり先輩?
なんか、巻き込んじゃったみたいだな。
「さて、それじゃ……」
そう言うと占いばあさんはいつもの様に水晶に手をかざした。福引き2日前とはいえ、僕にとっては急展開すぎて実感がない。
「今日の運勢は……大凶だ」
いつもの様な渋い顔ではなく、苦笑いで僕に結果を伝えた。
「お前さんの方で大凶が出るとは、つくづく運が無いな」
「じゃあ、無意識の僕の方は……」
「凶という日はあったが、だいたい小吉か吉だったよ。
なぁに、心配いらん。
例え大凶であっても、あの子らの様なお仲間さんがいりゃあ、どうって事ないさね」
よっぽど信頼を得たのだろうか。
占いばあさんに自信たっぷりに言われると、最悪中の最悪だった昨日……もとい先週の1日を払拭できる様な気がする。
「……ありがとうございます。
とりあえず色々と思い出したいので、一旦家に帰って黒い日記を持ってきます」
「そうかい。学校にはちゃんと行くんだよ。気ぃ付けてな」
簡単に挨拶を済ませ、僕は急いで家に戻った。
「ただいま!忘れ物!」
「幸ちゃん、どうしたのいきな……」
バタバタと階段を駆け上がりパッと黒い日記を持ち去り、玄関を乱暴に開けて飛び出ていく。
「行ってきまーす!!」
「ちょっと、幸ちゃん……?」
困惑するママに構っている暇はない。僕は困惑なんて言葉じゃ物足りないくらいの状況なのだ。
横断歩道を渡り、いつもの公園のベンチへと座る。
午前休憩前までここで過ごし、しっかりと1週間の出来事を思い出そう。
もしかすると、無意識の僕が何かヒントを得ているかもしれない。
不安と緊張の中、僕は黒い日記を開いてゆっくりと読み進めていった。




