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第三話「サブからブキを考えるのも楽しいかもよ?」

 最近の日差しは暖かで、流石にコタツの時期ではなくなってきた。というのに、まだコタツを仕舞えない妖怪一人。

「こたつは、いいものよ? 温かいものよ?」

 とはいえ時期ではない。単に片付けられない女なだけである。

「……何ですって?」

 さておき。サティスファクション都は、今だ片付けられないコタツに潜り込んでいた。顔だけ出して、全身はコタツの中である。

「都ちゃん、流石に片付けようよ」

 そう言うのはサティスファクション都の数少ない友人の犬飼美咲である。

「ヤダゼッタイ!」

 先程は流暢に喋っていたはずなのにいきなり片言になるサティスファクション都。片付けに否定的な発言を繰り返していた。

「コタツアタタカイ」

「いやもう普通に気温が暖かいから」

「コタツアタタカイ!」

 話が通じない。何故こうなったのかは、美咲は知る所ではない。だがこのままでは。

「都ちゃん、女子力ゼロだよ、それだと」

 途端にサティスファクション都は動いた。瞬時にこたつから出ると、手を四つ増やし内二つで天板をのかし、もう二つで布団をテキパキと片付け、残りの二つを伸ばして構造部を畳むとそれらをまとめて部屋の片隅に置いた。そして、腕は収納されて元の姿に。

「どうかしら?」

 妙に誇らしげな立ち姿のサティスファクション都である。

「片付けたのと気持ち悪いのが相殺してもやっぱりちょっと気持ち悪いね」

「ナンセンス!」

「ナンセンスは君だろう、都くん」

 というのは、犬飼美咲ではない。その隣にいる、一人の女性だった。

 姓は城、名は茂美。美咲のクラスメートである。美咲が茶色掛った癖っ毛で犬っ気全開なのに対し、長い黒髪をポニーテールに束ね、勝気な雰囲気を発している。

「何よ城。仮面ライダーストロンガーみたいな名前の癖に、私をナンセンスだと言うの?」

「名前は関係ないだろう名前は! そういう君だってなんだサティスファクションってのは!」

「気高いプレイヤーネームです―。城のような本名じゃないですー」

「んだと!」

 まあまあ、と美咲がここでブレイクを入れる。放っておくとかなり見苦しい争いになるのが見えているからだ。そういうのを眺める趣味は、美咲にはない。

「とにかく、コタツが片付いたから良かったことにしようよ。これでスペースが出来たし」

「というか、美咲、なんであたしを呼んだんだ?」

 問う茂美に、サティスファクション都が代わりに答える。

「それは、私の華麗なプレイをグレイトに記憶させる為でしょ」

「何言ってるの都ちゃん」

 美咲は特に嫌味で言っているわけではなく、純粋にそう思って言ったのだ。しかし、それがゆえに余計にサティスファクション都には鋭角にえぐられる痛みとなってその言葉は襲ってきた。よろよろと倒れ込むサティスファクション都。そのサティスファクション都を見、茂美を見て、もう一度サティスファクション都を見てから、美咲ははてな? となる。

「どうして都ちゃんがいきなりへこんだのかな?」

「君はそう言う所があるよね、美咲」

 そういうのもまたいいんだが、という心の声は出さず、茂美はサティスファクション都に対して言った。

「で、あたしがここに呼ばれた理由はなんなんだ、都くん」

「……あなたも、『スプラトゥーン』しているんでしょ?」

 茂美の視線が鋭角になる。

「……そうだが」

「……フレンドにならない?」

「……」

「……」

「……いいだろう」

「なんでそんなことで険呑な空気になるの?」

「「誰とでもすぐ仲良くなれるあなた(君)には分からぬことだ!」」

 ホモった。お互い、美咲のことが羨ましかったのがよく分かる事案である。勿論、茂美もそんなに友好関係が狭い方でない。ただ、美咲のように人当たりがよくないのだ。ちょっと険があるので、苦手と思われている人も大分いるのである。とはいえ、サティスファクション都ほどではない。そもそもヒキコモリなサティスファクション都に築ける友好関係なんて広くないのである。

「どうでもいいわよ? ……さておき、今回は前回言っていたブキ選び話……の前に、サブについて解説をしておく方がいいと判断したので、そう言う話になるわよ? 端的に言うと、ブキ選びの話をする約束したな。あれは嘘だ」

 ということで、と前置きしてサティスファクション都は言った。

「“サブからブキを考えるのも楽しいかもよ?”。行ってみましょうか」


「メインからしなくていいの?」

 美咲がある意味もっともなことを言う。だが、それは茂美がやんわり否定する。

「メインも確かに重要なのだけど、サブとスペシャルはそのブキの方向性を収斂させる力がある。元の方向性を、更に押し進めるんだねブレのあるそのブキの戦い方を、決定づける力があるというか」

「まあ、サブを上手く使えれば、より楽しいって感じよね」

 成程ー、と美咲。理解度がどこら辺なのかというのはサティスファクション都は無視して、進める。

「じゃあ、サブウェポンの話。これは大枠で二種類に分けられるわ。ボム系と、それ以外ね」

 サティスファクション都は手に大きなカードをひけらかす。10枚のカードには、4枚に“ボム系”、そして6枚に“それ以外”と書いてある。

「まずは“ボム系”から」

 言うと、一枚がめくられ、美咲の目の前に提示される。

「“スプラッシュボム”。わかばシューターでよく使ってたやつだね」

 そうね、とサティスファクション都。

「最も多くのブキでサブをしているのが“スプラッシュボム”。使い方はいたってシンプルで、投げてしばらくすると、正確には着地して数秒で爆発するわ。ダメージも高くて、爆心地に近ければ一撃で倒せる、というのが魅力的なサブね」

「相手を倒す為は勿論、牽制としても優秀だ。投げられた相手はやられない為に逃げなくてはならないからな。それでチャージャーの空隙を作ることも出来る。こちらにダメージが無いから、その爆心地に突撃して隙間を作るという無謀に近いことも可能だ」

「次はこれ」

 カードがめくられる。“キューバンボム”とある。

「ひっつく奴だね」

 そうね。とサティスファクション都。

「“キューバンボム”はサブとして付いているのはそれ程多くは無いけれど、“スプラシューターコラボ”の隆盛のおかげで印象が強いサブね。これも着弾してから爆発するけれど、“スプラッシュボム”との違いは爆発までの時間と、接地するとくっつくこと」

「爆発までが“スプラッシュボム”より長いが、爆発力と範囲はそれ以上だ。またくっつくから“スプラッシュボム”みたいに狭いところや小さい所に投げてもするっと落ちる、ということがない。また爆発までの時間が長いことは、逆に言うと近づけない時間も長いということ。牽制力でもこちらの方が上だな」

「偶に変な所にくっつくから、投げる時は注意がいるわね。さてさくさくいくわよ?」

 次は“クイックボム”と書かれたカードだ。

「“スプラッシュボム”の次に多いサブ、それが“クイックボム”よ。破壊力は先の二つより劣るけど、着地即爆発する点が特徴的ね」

「他の利点はまずインク消費量が少ない。次に着弾した後は相手の周りが塗られている状態になるから、動きを阻害し易い。だから連発したり、メインで追いうちしたりすると効果的だな」

「次は、……ボム系最後の“チェイスボム”。これは少ないサブだけど、中々面白いわよ?」

「通常は一直線に進むだけのボムだが、相手に照準を合わせて撃てば、その敵目がけてある程度ではあるが追尾していくボムだな。普通に一直線で進むだけでも十分脅威だが、ロックオンした後は中々厄介だ。後、追いかけて攻め入る使い方などもある」

「ジャンプで飛び越せたりするのも御愛嬌だけどね?」

 さてと、とボム系のカードをひとまとめにして、サティスファクション都は言う。

「ボム系をまとめると、それ単体で倒すんじゃなくて、牽制する目的で使うことが多いわね」

「当たると強いのに?」

「当たると強いからだよ」

 茂美の繰り返しな返しに、美咲ははてな? となる。サティスファクション都がフォローを入れる。

「当たると強いブキに、美咲は当たりに行きたい?」

「行きたくないね」

「でしょ? つまり、そこにボムがある状態なら、相手は避ける行動をするのが普通な訳」

「だから、早々当たらないけれど、逆にその逃げる行動を読んでしまえば、メインなりなんなりで倒しやすくなるのさ」

「これは後のそれ以外の中のサブにも関係するけど、このゲームでサブはインク消費が大きいの。それだから連発は出来ない。塗り面では弱いのよ」

「だから、効率良く相手を倒すにはメインとの絡め方が重要だ、というわけだ。その点では、ボム系は相手を意図した方向に動かし易いんだな。そして意図した方に来れば、楽に倒せる」

 はー、ほー。と美咲は感嘆している。ちゃんと伝わったか今一微妙だったが、そこを検証する間も惜しむように、サティスファクション都は続ける。

「お次はそれ以外系。ボム系と明確に使い方が違うから、と言う理由でいっしょくただけど、それぞれに効果が際立つ物ばかりよ。まず“ポイントセンサー”」

 カードがめくられ、“ポイントセンサー”の文字が浮かぶ。

「これは投げて着弾した辺りにいる相手の位置が分かるようになるサブ。スペシャルの“スーパーセンサー”のいとこみたいなものね」

「これと似たようなのが、“ポイズンボール”」

 茂美の言葉に、カードがめくられる。

「これも着弾した辺りにいる相手に効果があるが、こっちは移動力とインク回復力に甚大な遅延を引き起こすサブだ」

「ということは、“ポイズンボール”の方が上位なのかな?」

「そうとも言えないね」

 と茂美。

「“ポイントセンサー”の利点は、自分以外の味方にも位置が分かること。このゲームは潜伏という行動が相当強いから、それがバレるだけでも結構な痛手だ」

「それと、地味だけど着弾した後の効果範囲も“ポイントセンサー”の方が上ね。この辺の差が戦いを左右する訳。次いきましょうか」

 サティスファクション都はまたカードをめくる。次は“スプリンクラー”。

「“スプリンクラー”は設置した周りを自動で塗ってくれるサブよ。相手にダメージも与えられるけれど、まずめったなことではやられてくれないわ」

「これは“キューバンボム”と同じで、接地した場所にくっつく。これを利用して、相手が壊しにくい位置に使って嫌がらせのように出来るのも特徴だね」

「私は塗る向きの場所に設置するのが好きだけどもね」

「それは大体すぐ壊されるじゃないか」

「でも、上手く自分も“スプリンクラー”も生き残らせてみるチャレンジ、楽しいわよ?」

「いやさ」

「何よ」

「あー」

 美咲が口を挟む。

「喧嘩しないで?」

 それもそうだ、と二人は示し合わせ、続ける。

「お次は“スプラッシュシールド”」

 めくられるカードに、その文字が浮かぶ。

「これは前面に攻撃を遮断するシールドを出すサブね。ある程度攻撃を受けると破壊されるけど、出ている間はその部分からの攻撃は受け付けず、逆にこちらの攻撃は通すという性能のいいサブだわ」

「これが大型アプデ前は今の倍の耐久力があったのはやっぱり無茶だったよなあ」

「塗る能力は他のサブに比べるとほとんどないと言えるレベルだけど、それを補って余りあったわよね、あの堅さ」

 さておき、次である。カードがめくられ、“トラップ”と出る。

「“トラップ”は地面に文字通りトラップを仕掛けるサブ。破壊力は相当高いけど、発動条件が面倒なのよね」

「相手の接近か、相手色に塗られる、あるいは時間が経つと爆発するんだったか」

「相手が良く来る場所に置けると相当強いんだけど、立ち回り的に中々難しいのよね。これをサブにしているブキがレアなのもあるけど」

「最後は?」

 美咲の促しに、サティスファクション都は答える。最後の一枚がめくられ、“ジャンプビーコン”の文字が躍る。

「これは他のサブよりも更に特徴的なサブね。基本的に設置しても何も起きないわ」

「? じゃあなんの意味があるの?」

 それはね、とサティスファクション都は続ける。

「美咲、スーパージャンプは分かるわよね?」

「あ、うん。味方の所にずびびびびんと飛ぶ奴だね」

「そう。そのスーパージャンプは基本的に味方の場所にしかいけないんだけど、例外があるの。それが“ジャンプビーコン”」

「つまり、その“ジャンプビーコン”の場所に飛べるってこと?」

 ベネ、とサティスファクション都は言う。

「この例外は、案外強力なのよ。『スプラトゥーン』は一刻一秒を争うタイプのゲームだから、味方のいる前線に素早く移動するスーパージャンプは大変効果があるの。でも、味方の位置だと着地点が分かってしまって着地狩りされる場合が多いのね」

「うん、結構それある」

 だが、と茂美が続ける。

「“ジャンプビーコン”は置く場所を選択できるんだ。だから、敵の攻撃が届かないけど最前線に近い所、というのに設置しておけば」

「素早く味方の所に移動できるんだね」

 ベネ、と茂美が言う。

「とはいえ、そう言う場所に設置する為に立ち回るのは結構テクがいるわ。それに一回使うと壊れてしまうから、無尽蔵に送り込むみたいなことはできないしね。さてと」

 サティスファクション都はそこで一息。そして格納していた手をまた引き出して、その手の中にある湯呑みに口をつける。

「君の体はどうなっているんだ、ゲーマー妖怪」

「ゲーマー妖精よ? というのはさておいて、とりあえずサブについてはひとしきり話したかしらね。美咲、内容は覚えている?」

「うーん、色々あってちょっと混乱してる」

「でしょうね。まあ、サブによって戦い方が変わってくるというのが漠然とでも分かれば御の字だわ」

「基本として、ボム系4種と“ポイントセンサー”に“ポイズンボール”は牽制や状況をわずかにでも改善する用。それ以外はそれ単体で戦術を考えるといいサブだ、というのが分かればいいか。どれもメインとどう絡ませればいいか考えるのが重要だ」

「例えば“スプラッシュシールド”持ちのジェットスイーパーはその射程とシールドを合わせて使えば大体のブキに対して一方的な状況が作れる、それを如何に作っていくか、とかね」

「ジェットスイーパーはシューター最長射程を誇るが、接近されると連射力の差で押し負けやすい。それを水際で止めつつ、射程の長さを有効にするのが“スプラッシュシールド”、というわけだ。この防衛力が綺麗に決まれば、かなり貢献出来る。シールドを出した後のインク枯渇に注意して立ち回れれば、十分にジェットスイーパー使いと言えるだろう」

「これが有効に決まる場面は、元々ジェットスイーパーが射撃し易い広い所ではなく、込み入っている狭い所なのも重要ね。狭い所だと、“スプラッシュシールド”の横を通るのが難しいから、ある程度先読みで設置して攻めれば強いわよ」

「うーん、一つのサブで色々考えることあるんだね」

 そうね。とサティスファクション都は受ける。

「サブはそういう考えて使う部分が多いから、余計に戦術に影響があるのよ。ただ塗るだけじゃなく、サブも効果的に活用出来れば、充実した『スプラトゥーン』生活が待っている。という訳」

「勉強になりました」

「勉強になっただけじゃ駄目だぞ、美咲。勉強は身につけてこそのものだ!」

「茂美ちゃんはすぐそういう精神論に傾くよね」

 うっ、と茂美はよろよろと苦痛に耐えるような動きをする。でも、そういう歯に衣着せないのもいいんだ、という心の声が聞こえるが、そこはまあ無視しよう。

「茂美のいうのも的外れじゃないわよ。頭で分かっても中々動きには影響が出ないもの。それをきっちりと身につけるのが、実践な訳だから。折角だから、ここでやっていく?」

 うん! と、とびきりいい笑顔をする美咲に、サティスファクション都と茂美は、尊いという言葉の意味を知るのであった。

 早速プレイを始める美咲と、その横に座った茂美を見ながら、サティスファクション都は言った。

「さておき、今回はついでにスペシャルの話もしようかと思ったけど、思いのほか長くなったので、次回に持ち越しね。ということで、次回、“スペシャルを使ってスペシャルに動くと楽しいかもよ?” こうご期待!」

 そう言うと、サティスファクション都は美咲のプレイを見始めた。

作中でサティスファクション都が言っているように、ブキ選び編しようかと思ったんだけどサブの話とか先にした方がいいかな、と思って順番変えてみたり。スペシャルの話も、でしたがちょっと量が多いかと思ったので、次回に。

さておき、サブはメインとの兼ね合いで考えるものですが、逆にサブから考えるのも楽しいのでは、と思って書いたけど説明だけで終わりましたヨネ。まだまだですわ。

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