第四話「スペシャルのスペシャルなとこを知ると面白いかもよ?」
「で、その後どうなワケデスカ、サティスファクション」
「どうって、何がよ。ニシワタリ」
サティスファクション都の邸宅で、見慣れない女性が一人。ゲームをするサティスファクション都の隣に座っている。バリバリの金髪は、その色合いから塗ったものではないのが分かる。天然自然の物だ。背は小柄と言える。それなりに身長のあるサティスファクション都の隣だと、座っていてもより強調されてしまう。
ニシワタリと呼ばれたその女性は、眼鏡の弦を右中指でくいっと上げてから、眼光を発して言う。
「犬飼美咲との逢瀬の件デスヨ」
「逢瀬じゃないわよ。遊んでるだけ」
「遊んでいるダケ。誰もは最初はそう言いマス。しかし、ワタクシはそれだけではないと見マス」
「勝手に見てなさいな」
「そして最近では更に城茂美なる者まで加わっていると及び聞きマス。卑猥デスネ?」
「どこの情報源よそれ」
「生命線の情報源は当然秘匿シマスヨ」
「まあ、それはどうでもいいのだけれど」
そういうと、玄関から呼び鈴の音がする。そしてすぐさま戸の開く音が聞こえ、足音が聞こえ、ターン襖が開く音がする。
「今日も来たよ、都ちゃん! って、えーと」
「ニシワタリデスヨ、犬飼美咲さん」
ニシワタリの存在にちょっと混乱した美咲だったが、すぐに誰だか思いだしたようだ。
「ああそうだ、ニシワタリさん。お久しぶり、ですよね? 最近見なかったけど、お仕事ですか?」
「ええ、自宅警備のお仕事デスヨ」
「自宅、警備?」
美咲はぽかんとしている。
「そうデス。自宅、守りマスヨー。そりゃもうズキュンズキュン、トネ」
「つまり、都ちゃんと同じようなことなんですね?」
「え!? 私ってそんな目で見られてたの? このゲーマー妖精の私が?」
「ニョホホ、同じ同じデスヨ。ワタクシもゲームは粋に嗜むゲーマー妖怪ですシネ」
「そんなことより都ちゃん。昨日の続きは?」
そんなことより……、とサティスファクション都とニシワタリは生の苦瓜を食べたような顔をするが、美咲は直線的に話を進める。
「『スプラトゥーン』の、スペシャルについてきっちり教えてくれるって言ってたよね?」
「そうね。昨日はサブだけで話終わっちゃったし、ここはきっちりと語っておくべきでしょうね」
と言う訳で、とサティスファクション都は視線をあらぬ方向に向けて、言い放った。
「今回は、前回予告した通り、『スプラトゥーン』での花形、スペシャルについて語っていきましょうか」
サティスファクション都の腕が二又になり、その片方ずつで虚空より降って湧いた紙を持ち、開いている左手の方にインク瓶、残った右手がペンを持ち、それをインク瓶に差し入れ、抜き、紙にすべらかに文字を書いた。
それを、サティスファクション都は読み上げる。
「“スペシャルのスペシャルなとこを知ると面白いかもよ?”、と題しましょうか」
「スペシャル使い易いランキング2016! 開催!」
「イヤホー!」
突如の嬌声に、美咲がびっくりと体を跳ねさせる。その動きもわんこっぽいのが美咲である。
その動きをとりあえず無視して、サティスファクション都は語り始める。
「さあ、始まりましたスペシャル使い易いランキング2016! このランキングは、『スプラトゥーン』の花形、スペシャルの使い易さを個人的な独断と偏見で勝手にランキングした物です!」
「異論反論超オッケーで進めてマイリマス! ということでまず第七位の発表デス!」
ニシワタリの背中から小さな鼓笛隊が登場する。それがドラムロール&シンバルで雰囲気を作る。その空気で、サティスファクション都は発表した。
「第七位! “メガホンレーザー”!」
ドンドンパフパフドンドンパフパフ。鼓笛隊が躍る。
「いやあ、やっぱりここに来ちゃいますかー」
「今までのバランス調整で必須ポイント軽減とか上方修正はされていマスガ、それでも使いにくい印象は拭えマセン! とはいえ、効果範囲と一撃必殺は実際魅力!」
「壁も何も全く無視して撃たれる一直線のレーザーは込み入ったステージでは脅威的ですよ! そして最善ルートがあるガチマッチでは、それを崩せる場面が多いのもいい点ですね! そこがきっちり出来るプレイヤーが使えばもっと順位は上がるかもしれません!」
「ワタクシ的には上手く扱える感じがつかめないという泣き言モ! 後、塗れないからなんか違うとか難癖もつけたいところデス!」
「それはさておき次は第六位!」
鼓笛隊がドラムロールスタート、から、ジャン! とシンバル音。そして読み上げられる、その名前。
「第六位、“ボムラッシュ”!」
「これはこれは、存外低い判定ではないでショウカ? どういう判定基準デスカ?」
「結局ボムをたくさん投げるだけ、というのが個人的にそれ程惹かれないのです! スプラッシュボムとキューバンボムの場合だと、上手くメインと絡めていかないと案外突っ切られてやられる場合もありますし!」
「とはいえ、ボムの連打による制圧力と塗り力はかなりのモノ! そこを活かせる使い方が求められると言えマス! ガチエリアとかだと相当厄介デスヨ!」
「それに、チェイスの“ボムラッシュ”の見た目の面白さと意外なえぐさも語り草です! 続いて第五位!」
ドラムロールからのシンバル音。ジャ―ン。
「第五位、“トルネード”! 上空から降り注ぐ“トルネード”さんがここでランクイン! 低い位置ながらもこれは下馬評より高い結果の様ですが、これはどういうことでしょうか、ニシワタリさん?」
「単に個人の趣味デス! とも言い切れないところはアリマス。塗り能力が高く、敵を遠ざける力も強いスペシャルなので、要所要所でいい位置に撃てれば、相当貢献するスペシャルだと言えるデショウ! 相手の動き、位置のみならず、味方の位置も考えて撃てれば、一人前デス!」
「続いて第四位!」
ドラムロール。シンバル音。
「第四位は、“スーパーショット”!」
「ランキング中間で、デスカ!」
「逆に中間辺りが丁度いいと言えるスペシャル! 大砲からのスーパーショットはチャージャーよりは即死速度はないものの、それでも十分な速度と高低差をある程度無視出来る縦の厚みはやはり魅力! 塗り性能はそこまでは高くないし、ゲージが溜まって撃つ瞬間が中々来なくて死蔵してしまう場合もあるのが難点でしょうか!」
「単にあなたのプレイが下手なだけデス!」
「何を!」
「何ヲ!」
取っ組み合いを始めようかと言うタイミングで、ドラムロールが響く。慌ててランキングに戻るサティスファクション都とニシワタリ。シンバル音までには二人は落ち着きを取り戻していた。
「第三位! “ハイパーセンサー”!」
「相手全員の位置を味方全員に知らせる、というだけでは地味に聞こえるスペシャルデス!」
「サブの時にも言ったけれど、潜伏があるが故に場所を知られるのはこのゲームでは相当大きい不利なのです! これを使って相手全員の位置を把握して動けば、戦い易いし塗りに行き易いしと至れり尽くせり!」
「スペシャルを使うとインクが全回復するのを利用したクイックリロードとしても使えマス! 出来れば相手全員がいるタイミングで使いたいですが、二、三人相手でも十分効果がありマスヨ!」
「続いて第二位の発表です!」
ドラシン。
「第二位、“ダイオウイカ”!」
「ここで“ダイオウイカ”デスカ!」
「やはり無敵と一撃必殺の回転攻撃はでかいです! 若干下方修正されたとはいえ、まだまだ全然使えるスペシャルですよ!」
「攻めに守りに逃げにと、使える場面が多いデスシネ! 金網の場所では下に落ちてしまう点が勿体ない所デス!」
「乱戦で使うと、逃げ惑う相手を追う快感に囚われること必定! 弾幕の濃いブキで攻撃されて攻めきれずにやられる時の無念に心震わされることも必定!」
「さておき、第一位の発表にまいりマショウ!」
ドラムロールが鳴り響く。しばらく溜めて、それから、ファンファーレと共に発表が行われる。
「第一位、ダメージを弾く“バリア”!」
「“バリア”! 盤石の一位デス!」
「ぶっちゃけ他のスペシャルが見劣りするレベルで使い易いスペシャルです! “バリア”が自分のみならず味方にもおすそ分け出来るという性能なのも、更に使い易くしている要因ですね!」
「とりあえず前にいる味方に“バリア”をおすそ分けしにいくだけでも効果がある、というのはやはり大きいデス!」
「撃たれると押し負けて後退してしまうという弱点も、それなら違うトコ攻めるわ、で済ませられる辺りも、また大きい所。そういう柔軟性が高いのはやはり使い易さ一位に輝くだけはあります!」
「と言うことで、以上、スペシャル使い易いランキング2016でした!」
ちゃーん。ちゃーん。ちゃーん。と、ニシワタリの背中からピアノの音が聞こえた。
「さて、一気に説明したけど、どう美咲。理解は追い付いているかしら?」
「とりあえず、“バリア”と“ダイオウイカ”が強いんだね」
「強いと言うか、柔軟性が高いというべきでショウネ」
美咲の言葉に、ニシワタリがそう答える。
「“バリア”も“ダイオウイカ”も使った瞬間に無敵になるというのが大きいデス。例えば、攻撃を一発受けた瞬間に使って生き残る、というのが出来るのが、一つ強みなんデスヨ」
「チャージャーとかブラスターの一撃で、というのは確かに無理なんだけど、大体のブキが何発か食らわないとやられないから、そのやられる前に使えれば、当然そのタイミングでやられなくなるし、その後の報復もスムースになるってわけ。この辺を反射的に出来るようになると、生存率が格段に上がるのよ」
「他のスペシャルはそこが無いから、“バリア”と“ダイオウイカ”は別格になるんでスヨネ」
「だから、スペシャルから考えるなら、まず“バリア”か“ダイオウイカ”のから、とするのが基本ね。当然、それ以外の方が、というのはあるけど、そこは個々人の趣味の領域ね」
「成程、手始めならその二つからの方がいいんだね。そうか、だからわかばシューターはスペシャルが“バリア”なんだ」
「メインが塗り易いブキだし、サブが一番多い“スプラッシュボム”だし、その辺は考えて選ばれてると思うわね」
さておき、とサティスファクション都は斜線を引き、話をまとめた。
「スペシャルはどれも際立って性能がいいから、どのスペシャルもきっちりと使えるなら強いものよ。そこをどこまで引き出せるか、というのがプレイヤースキルとして求められるわね。“バリア”と“ダイオウイカ”が確かに使い易いけれど、そこに甘んじないで、色々と使ってみるといいと思うわ。ということで今回はこれまでね」
「それにシテモ」とニシワタリ。
「今日は良く喋りマシタ。普段使わないところを使いマシタシ」
「あれ、発声器官なんですか?」
美咲は先のニシワタリの妖怪的な背中を思い出して、そう尋ねる。ニシワタリは首肯。
「それ以外の何に見えマシタカ?」
何って、鼓笛隊。そう思うが、それもまた発音はしているのか。と美咲はとりあえず納得した。
「ニシワタリさんも、『スプラトゥーン』してるんですね。フレンドになってくれませんか?」
「いいデスヨ」
そこで、湯呑みを傾けていたサティスファクション都が、その湯呑みを取り落とす。割れる音は聞こえないが、落ちる音は響き、何事? と美咲とニシワタリ向けば、口をあんぐりと開けたサティスファクション都である。
「私、まだニシワタリとフレンドじゃないんだけど……」
「ああ、いつでも出来ると思って忘れてマシタ。今後も忘れまショウ」
「え!? なんで!?」
カンラカンラとニシワタリが笑う。そして「冗談デスヨ」と言う。
「冗談にも程があるわよ? というかまた一大決戦したい訳?」
「ほう、また、泣かされたいデスカ?」
「ああん?」
「ホホウ?」
両方とも獣の笑みで睨みあっている。そういうのが分からない美咲にも、妖気と言えるものが今極大に発散されているのが分かった。冗談ではなく、一大決戦になりそうである。止めるべきなのだが、その妖気の立ち込め具合に、美咲は身動きが取れなくなりつつあった。
「二人とも……」
なんとか声を出すが、既に人の型から逸脱し始めた二人には届かない。万事休すか。
「ちぇーすと!」
誰かの、どこか聞いたことのある声が、サティスファクション都とニシワタリの間から生まれた。そして、ぃんと清冽な音が生まれた。すると、張り詰めた妖気がすっ、と後退した。まだその力はあるが、先ほどまでの緊張感は無い。
「何をやっているんだ、都くんに、もう一人の妖怪!」
それは、城茂美その人であった。手元に刀を持っている。美咲は偶にみることがある刀だ。使う時はいつもどこからか出してくる、神出鬼没の刀である。そして、それは、妖怪を斬るものだ。
「この人、なんデスカ。どうにもきな臭い雰囲気デスガ」
「この子があなたの情報源から聞いた、城茂美よ」
「成程、それはそれはきな臭いわけデスナ。滅妖の四面蘇華流なら納得デス」
二人の妖気は徐々に収まっていく。ここでやりあっても得は無いのが分かったようだ。妖気が消えて、圧迫感もなくなり、美咲はほっと安堵する。
「というか、何で来てるのよ、城」
「通りかかったらやたら強大な妖気が発されてたから、来たまでだ。というか、君はまだしも、この妖怪は誰だ?」
「城茂美さん、デスカ。会うのは初めてデスカ。ワタクシはニシワタリ。サティスファクション都ゲーマー妖怪デス」
「……都くんといい、ゲーマー妖怪は大体あんな強大な力があるのか?」
「そんなことはありマスヨー」
「そんなことはあるわね」
「……とりあえず、何を争っていたんだ」
「Wii uのフレンドになるならないで」
くだらねー。というのが顔になっていた。確かにそうだ、とサティスファクション都もニシワタリも理解して、和解することにする。
「フレンド、なりましょう」
「フレンド、なりマショウ」
何でこんな簡単に解決する話で争っていたのだろうか。と二人でわははと笑いあう。こいつら滅妖してた方がいいのかもなあ、と茂美は思ってみたり。そして美咲は仲良く済んで良かった。と本心から思うのだった。
と、サティスファクション都は虚空を見上げて言う。
「さて、今回はここまで。次回はブキ選びについてとうとう話していきましょう。キーは塗るか倒すかよ」
そう言うサティスファクション都以外の三人は、何言ってんだろう、という顔でサティスファクション都を見るのであった。
スペシャルなスペシャルの話でありました。やっぱりバリアは強いし便利で使い易いですヨネ。次はホンボシブキ選びの話の予定ですが、どうなるやら。




